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12章
聖夜を迎えよう15
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「洋、早く着替えておいで」
「あぁ」
洋は涼くんから渡されたサンタの真っ赤な衣装を持って、ベッドルームへ消えて行った。離れのリフォームは私と洋がふたりだけで気兼ねなく過ごせるように、解放感のある作りになっている。だから寝室といっても仕切りはなく、リビングからも覗けてしまう仕様になっていた。
いくら安志くんと涼くんカップルと言えども、洋の着替えを見せるわけにはいかない。
彼らも意識しているようで、ふたりともソファに座ったものの、そわそわと視線を泳がせているではないか。
「珈琲でも?」
「ありがとうございます。僕、寝起きなんでお腹もペコペコで。えっと……これは催促じゃないですが」
さては……涼くんは眠ったまま車に乗せられたのか。確かに髪の毛も乱れ、いかにも『寝起きです』といった有様だ。恋人達にとって昨夜がどんな意味を持つひと時だったかは、私も知っている。だから何も突っ込まない。
しかし、若さ溢れる涼くんの素直さに和むな。洋とよく似た顔で、全く違い表情をする。洋も何もなければこんな風に明るく育っていたのでは……と思うと、少し切なくなる。
「今日はフレンチトーストにしようと思ったが、よかったら一緒に」
「えっ、いいんですか。やった!」
涼くんに言ったつもりが、安志くんまでワクワクした顔をしているじゃないか。でもまぁ……これで気が逸れるのなら良しとしよう。
「丈さんは凄いですね、凝った料理も作れて。俺なんてトーストと目玉焼きとかシンプルなものしか出来なくて」
「まぁ洋と暮らすようになって研究したのだ」
「なるほど、そういえば洋は昔から少し凝った料理をよく知っていたもんな。洋のお母さんが詳しかったから」
「……なるほど、そうか」
確かに洋は料理の腕はからきし駄目だが、料理名はよく覚えていて、ローストビーフが食べたいとか英国風のスコーンが食べたいとか……クリスマスはシュトーレンだよなとか、難しいリクエストだけはしてくれる。
私はもともと研究するのが好きなので、洋が望むものなら、何でも調べてマスターした。お陰ですっかり料理が上手くなったようだ。
すべては洋のため。
洋の笑顔が見たくて努力したことだ。
フレンチトーストの材料は昨夜のうちに準備しておいた。バターをひいたフライパンで焼き出すと、甘く香ばしいバニラビーンズの香りが部屋中に漂って食欲をそそった。私も流石に腹が空いていたようだ。
「うわっ、すごく美味しそう!」
「洋っ……」
すぐ横で声がした。振り向けばサンタクロースの真っ赤な衣装を着た洋が立っていた。思わずフライ返しを落としそうになるほど、魅惑的だった。
「どうした? 丈」
明るい笑顔の洋につられて、私も微笑みを返した。
「その衣装……涼くんのは可愛い感じだったが、洋が着ると……」
衣装は男物で少し大きめだったが、衣裳の中で、ほっそりとした肢体が泳いでいるのが、妙に色気があった。
「似合わないか」
「いや、すごく色っぽいな」
耳元で囁いてやると、洋は途端に頬を赤くした。すぐ赤くなるところは最初から変わっていない。色白だから目立つのか。
つい……綺麗な色に染まっていく頬を見つめてしまう。
「丈はよくもまぁ……そんなことを朝から抜け抜けと」
「早く脱がしたくなるよ。今日はその恰好で夜までいてくれ」
「はぁ……また変なこと考えただろう? いやらしいな!」
キッチンで小突き合っていると、涼くんの遠慮しがちな声が届いた。
「あのぉぉぉ、イチャつくのもいいんですが、焦げてます……」
****
多少焦げてしまったが、全体的に良く出来たと思う。焼きたてのフレンチトーストに蜂蜜とラズベリーを飾って、クリスマスらしくデコレーションしてみた。皆、喜んでくれたので、私も上機嫌になっていた。
「さて、いい加減に母屋に手伝いに行かないと怒られるぞ」
「あっそうだね。じゃあ安志と涼も一緒に行こう」
「あっ洋兄さん。ちょっと待って」
涼くんは持ってきた大きな旅行鞄から、クリスマスラッピングの小さな袋を洋に手渡した。
「なに? これ」
「えっとね……洋兄さんに必要なものかも? 後で丈さんと楽しんでみて」
「ふーん、なんだろう」
洋がその場でラッピングを開けようとしたら、安志くんが慌てて止めた。
「駄目だ! あとで見ろ! 夜になったら開けてもいいぞ」
「勿体ぶってなんだよ。でも二人ともありがとう。嬉しいよ。俺からもあるよ。これをどうぞ」
洋……いつに間に準備したんだ? 聞いてないぞ。
「ふふっ、俺のも後で開けてね。そうだな~同じく夜になったら開けてもいいよ」
なんとなく涼くんと洋の含み笑いが気になった。洋はたまにとんでもない行動に出るから……あれもびっくりするようなものだったりするのか。
「丈にもちゃんとあるよ。でも夜に渡すから、それまでいい子で待っていて!」
「おいおい。私をお子様扱いか」
「だって今日は俺がサンタクロースなんだろ? 丈のご所望だったじゃないか」
「コイツ!」
「ふふっ、本当に洋兄さんの所は熱々だな~」
「あっそういう涼こそ、またこんな所につけられて……」
「えっあぁ? あーーーーー!恥ずかしい! もう安志さんのせいだ。揶揄われるよな~これ」
サンタクロース姿の洋と涼くん、双子のような従兄弟たち。
こんな光景自体が……もうすでにギフトだ。
私にとって何よりの贈り物は、洋……君だよ。
ありがとう。
心の中で、そっと礼を告げた。
「あぁ」
洋は涼くんから渡されたサンタの真っ赤な衣装を持って、ベッドルームへ消えて行った。離れのリフォームは私と洋がふたりだけで気兼ねなく過ごせるように、解放感のある作りになっている。だから寝室といっても仕切りはなく、リビングからも覗けてしまう仕様になっていた。
いくら安志くんと涼くんカップルと言えども、洋の着替えを見せるわけにはいかない。
彼らも意識しているようで、ふたりともソファに座ったものの、そわそわと視線を泳がせているではないか。
「珈琲でも?」
「ありがとうございます。僕、寝起きなんでお腹もペコペコで。えっと……これは催促じゃないですが」
さては……涼くんは眠ったまま車に乗せられたのか。確かに髪の毛も乱れ、いかにも『寝起きです』といった有様だ。恋人達にとって昨夜がどんな意味を持つひと時だったかは、私も知っている。だから何も突っ込まない。
しかし、若さ溢れる涼くんの素直さに和むな。洋とよく似た顔で、全く違い表情をする。洋も何もなければこんな風に明るく育っていたのでは……と思うと、少し切なくなる。
「今日はフレンチトーストにしようと思ったが、よかったら一緒に」
「えっ、いいんですか。やった!」
涼くんに言ったつもりが、安志くんまでワクワクした顔をしているじゃないか。でもまぁ……これで気が逸れるのなら良しとしよう。
「丈さんは凄いですね、凝った料理も作れて。俺なんてトーストと目玉焼きとかシンプルなものしか出来なくて」
「まぁ洋と暮らすようになって研究したのだ」
「なるほど、そういえば洋は昔から少し凝った料理をよく知っていたもんな。洋のお母さんが詳しかったから」
「……なるほど、そうか」
確かに洋は料理の腕はからきし駄目だが、料理名はよく覚えていて、ローストビーフが食べたいとか英国風のスコーンが食べたいとか……クリスマスはシュトーレンだよなとか、難しいリクエストだけはしてくれる。
私はもともと研究するのが好きなので、洋が望むものなら、何でも調べてマスターした。お陰ですっかり料理が上手くなったようだ。
すべては洋のため。
洋の笑顔が見たくて努力したことだ。
フレンチトーストの材料は昨夜のうちに準備しておいた。バターをひいたフライパンで焼き出すと、甘く香ばしいバニラビーンズの香りが部屋中に漂って食欲をそそった。私も流石に腹が空いていたようだ。
「うわっ、すごく美味しそう!」
「洋っ……」
すぐ横で声がした。振り向けばサンタクロースの真っ赤な衣装を着た洋が立っていた。思わずフライ返しを落としそうになるほど、魅惑的だった。
「どうした? 丈」
明るい笑顔の洋につられて、私も微笑みを返した。
「その衣装……涼くんのは可愛い感じだったが、洋が着ると……」
衣装は男物で少し大きめだったが、衣裳の中で、ほっそりとした肢体が泳いでいるのが、妙に色気があった。
「似合わないか」
「いや、すごく色っぽいな」
耳元で囁いてやると、洋は途端に頬を赤くした。すぐ赤くなるところは最初から変わっていない。色白だから目立つのか。
つい……綺麗な色に染まっていく頬を見つめてしまう。
「丈はよくもまぁ……そんなことを朝から抜け抜けと」
「早く脱がしたくなるよ。今日はその恰好で夜までいてくれ」
「はぁ……また変なこと考えただろう? いやらしいな!」
キッチンで小突き合っていると、涼くんの遠慮しがちな声が届いた。
「あのぉぉぉ、イチャつくのもいいんですが、焦げてます……」
****
多少焦げてしまったが、全体的に良く出来たと思う。焼きたてのフレンチトーストに蜂蜜とラズベリーを飾って、クリスマスらしくデコレーションしてみた。皆、喜んでくれたので、私も上機嫌になっていた。
「さて、いい加減に母屋に手伝いに行かないと怒られるぞ」
「あっそうだね。じゃあ安志と涼も一緒に行こう」
「あっ洋兄さん。ちょっと待って」
涼くんは持ってきた大きな旅行鞄から、クリスマスラッピングの小さな袋を洋に手渡した。
「なに? これ」
「えっとね……洋兄さんに必要なものかも? 後で丈さんと楽しんでみて」
「ふーん、なんだろう」
洋がその場でラッピングを開けようとしたら、安志くんが慌てて止めた。
「駄目だ! あとで見ろ! 夜になったら開けてもいいぞ」
「勿体ぶってなんだよ。でも二人ともありがとう。嬉しいよ。俺からもあるよ。これをどうぞ」
洋……いつに間に準備したんだ? 聞いてないぞ。
「ふふっ、俺のも後で開けてね。そうだな~同じく夜になったら開けてもいいよ」
なんとなく涼くんと洋の含み笑いが気になった。洋はたまにとんでもない行動に出るから……あれもびっくりするようなものだったりするのか。
「丈にもちゃんとあるよ。でも夜に渡すから、それまでいい子で待っていて!」
「おいおい。私をお子様扱いか」
「だって今日は俺がサンタクロースなんだろ? 丈のご所望だったじゃないか」
「コイツ!」
「ふふっ、本当に洋兄さんの所は熱々だな~」
「あっそういう涼こそ、またこんな所につけられて……」
「えっあぁ? あーーーーー!恥ずかしい! もう安志さんのせいだ。揶揄われるよな~これ」
サンタクロース姿の洋と涼くん、双子のような従兄弟たち。
こんな光景自体が……もうすでにギフトだ。
私にとって何よりの贈り物は、洋……君だよ。
ありがとう。
心の中で、そっと礼を告げた。
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