重なる月

志生帆 海

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12章

聖夜を迎えよう13

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「ん……ここ……どこ?」
 
 さっきから身体に振動を感じている。どこにいるのかはっきり分からなくて重たい瞼を開くと、景色がぐんぐん進んでいた。 

 ええっ!っと辺りを見回すと、僕は安志さんの運転する車の助手席に座っていた。

「えっ! 僕」
「おっ? 起きたか。涼はかなり疲れていたんだな。朝起こしたのに全然起きないから、もう、そのまま連れてきちゃったよ」
「え──っ!」

 記憶を辿ると、最後にサンタの衣装に着替えて、それで少しだけ……安志さんの布団に潜って……。

「えっと……あのまま……まさか今まで寝ていたってこと?」
「そういうこと」

 慌てて自分の着ているものを見ると、ダウンコートの中は、なんとサンタの衣装のままだった!

「僕……サンタだ‼」
「そう! あんまり可愛いから脱がせられなかったんだ。このまま行こう」
「えぇっ!」

 なんだか開いた口が塞がらない。どうやって車に移動したんだ? まさか安志さんに抱っこされて? いろいろ想像したら恥ずかしさでずぶずぶと埋没しそうだよ。

「安志さん、その……いろいろ……もろもろ……ごめんなさい」
「何を謝る? 最高のクリスマスイブの前夜祭だったぞ。あぁ、昨日の涼エロくて可愛かったな」

 ちょっとちょっと……運転する横顔がにやけてるよ! 安志さん!
 
 確かに仕事がハードだった反動で、かなり弾けてしまったのは覚えている。

「栄養たんまりともらったぞ」
「あっ……うん、僕も!」

 朝までマネージャーに起こされないで、ぐっすり眠ったのも久しぶりだったし、身体にいろいろ溜まっていたモノを全部出して、すっきりしている! あれ、なんかこれって、まぁ僕も健康な男子なんだから自然の現象であって、溜まるものは、溜まる……から。

「いい笑顔だな、涼」

 安志さんに嬉しそうな明るい笑顔を振りまかれ、まぁ……これも悪くないかも。

「うん! あーいい天気だ!」

 僕は朝日を浴びながら、狭い車内で思いっきり伸びをした。

「今日からクリスマス休暇だ! 涼、一緒に楽しもう!」
「うん! よろしくね、安志さん」


****

「本当に行くんですか」

 寺の境内で僧侶に次々と指示を出している達哉さんに、もう一度だけ確認してしまった。

「拓人、お前はまた……そんな弱気で……今行かないと二度と月影寺に入れなくなるだろう」
「……それは、そうですが」
「薙とは学校でも普通に話せているのだろう」
「はい。薙は俺を責めたりしないで、変わらない笑顔を向けてくれます。ですが、それが辛い時もあって……いっそ罰してもらいたいと思うことも」

 そこまで告げると、達哉さんはふっと息を吐いた。

「拓人のその考えさ、俺と一緒だな。お前は俺と血が繋がっているわけではないのに、考え方とか感じ方が似ていて、親近感が湧くよ」

「そんな……俺はありのままの気持ちを言っただけです」

「俺もずっと、弟が高校生だった翠にしでかしたことを、止められなかったこと……親によってうやむやにさせられたことを後悔していた。翠はそんな目に遭ったのに、俺には変わらない笑顔を向けてくれて、その度に胸が痛んだ」

「達哉さんも?」
「あぁそうだ。翠の息子の薙くんは……やっぱり翠と似ているな。顔だけでなく根底的な考え方、同じ心を持っている」
「薙も……」

 薙……どうして俺を許せるんだ? 
 俺、お前を縛ってキスをしたんだぞ。
 嫌じゃなかったのか。それとも寛大な心で許してくれたのか。

 分からない。

 でも今の俺に出来ることは、以前と変わらぬ関係に戻ること。

 突き上げるような衝動だった。
 父に唆されて、そのやましい心を利用された。

 利用される位なら、もう見せない。
 贖罪は、俺の気持ちを隠すこと。
 
 それがいいよな? それで行くよ。

 「さぁ、もう行く時間だ、月影寺へ」


****

「洋、そろそろ母屋に行って手伝わないと」
「……まだ眠い」
「今日は朝から準備して昼前からゆっくりパーティーを始めると聞いているぞ」
「丈~それが分かっているなら、昨日あんなに俺を抱くな。あうっ、痛っ……」

 ベッドで腰を押さえて蹲る恋人のご機嫌は、少し斜めのようだ。 

 クリスマスイブは祝日の月曜日。今日は兄さんたちとパーティーをするし、明日は普通に仕事なので、洋をゆっくり抱けるのは昨夜だと思い、無理をさせてしまった。

 洋に強く感じて欲しくて、先に何度もイカせた。それから息も絶え絶えのところを、執拗に攻めたのは私だ。

 ひどくしたことは……身に覚えはある。でも洋も身体と心で私の欲望に応えてくれた。

「もう……本当に丈は手加減というものを知らない」

 私が渡した珈琲を受け取りながら、洋は口を尖らせる。

 だがその眼差しは慈愛に満ちている。何もかも許してくれる洋は、私にとってかけがえのない存在だ。

「なぁ、丈……もしも昨夜サンタクロースが来たらびっくりしただろうな。俺達一晩中抱き合っていたから……鉢合わせしたら大変だ」

 長めの前髪をかき上げながら洋がそんなことを言うもんだから、頭の中で想像してして、可笑しくなった。たまに洋は面白いことを言う。子供じみているのか、シュールなのか。

「くくっ、洋は、たまに面白いこと言うな。とにかくメリークリスマス! 今日はもうクリスマスイブだぞ。洋……今年も一緒に過ごせて嬉しいよ」

「んっ……俺もだ。丈」

 珈琲の香りがするキス。

 でも苦くない、甘いキスをふたりで啄みあった。そのままベッドでもう一度だけ抱き合った。
 
「今日は寒そうだな。雪が降りそうなほど……」

 確かに先ほどまでの朝日は雲に隠れ、ずいぶんと冷え込んで来た。

 私の肩越しに洋は庭を見上げていた。

「あっ……本当にサンタがやって来る!」

 






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