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12章
聖夜を迎えよう12
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「流、それにしてもクリスマスパーティーといっても、ここは寺で……和風のものばかりだから、些か無理があったかな」
クリスマスパーティーをしようと言い出したのは、僕だ。
あの事件の後、随分周りに気を遣わせてしまっていたこともあり、何か楽しいことでもと企画したのはいいが……僕はこういうことに本当に疎くて、気の利いたもてなしが出来そうもない。結婚した当初も、よく彩乃さんにそれで怒られていたのを思い出してしまった。
そんな心配を漏らすと、流が僕の腰を軽く抱き寄せ、不安を取り除いてくれた。
「翠は何も心配しなくていい。俺が全部準備するから大丈夫だ」
僕に最高に甘い弟は……僕の恋人でもある。一生秘密の恋人のつもりだったのに、最近……状況が変わってきて戸惑ってもいる。
僕と流は血の繋がった兄弟で、その二人が恋に堕ちるなんて許されないのに……何故だろう。
洋くんがこの寺にやってきてから、すべての事情が変わった気がする。
洋くんが受け入れてくれるものは、周りの人も同じように受け入れてくれるんだ。本当に彼が不思議な子だ。詳しくは聞いてないが夕凪との縁以外にも、弟の丈と共に……壮大な過去を繋いでいる人物のようらしい。
だからなのか……広い宇宙の中なら、僕たちのような間柄の恋人がいたっていいだろうという気分になってしまう。
「なぁ翠……覚えているか。一緒に探したクリスマスツリーのこと」
「あぁよく覚えている。僕たちが小学生の頃だったね。あの後、散々おじい様に叱られたけれども楽しかったな。三兄弟だけの秘密を持てたことが嬉しかった。夜には電球を灯して、こっそり楽しんだのもいい思い出だ」
「そうそう珍しくあの丈が理科の実験の電球を持って来たりして、驚いたよな」
「あれは……本当に綺麗だった。幻想的で……松の木だったのに、ちゃんともみの木に見えたんだ。すべての物事は見る人の心次第だと気が付かされたよ」
「なぁまた作らないか。あの『伝説のツリー』を」
「『伝説』って随分オーバーだな。だが、おじいさまが後生大事にしていた松の枝だけは折るなよ」
「分かっているって。今の俺ならもっといいものを作れそうだ。鶏肉はもう漬け込んでいるから後はオーブンで焼くだけだし、ちょっと庭に行ってくるよ」
「あっ待て、僕もいくよ」
ふたりで寒空の下、枝を集めた。
どうやら今度はもみの木ではなく枯れ枝を使うらしい。なんだか童心に戻ったようにワクワクしてくるよ。流となら何でも楽しいと……素直に感じていい日々がやってくるなんて。
「翠はさ……冷えると鼻の頭が赤くなるんだよな」
流がふっと目を細めて、いつものように眩し気に僕のことをじっと見つめる。
そうだ……遠い昔も、こんなことがあったような気がする。
僕の鼻の頭に、流の指が軽く触れていく。すると触れられた部分に、優しい温かみで満ちていく。
「流っ――、誰かに見られたら困るだろう」
「ここは寺の中庭の奥深くだ。誰も来ないよ」
確かに茶室のあたりは一般客は立ち入り禁止にしてあり、僕たちだけの空間だが……
「翠、ここに家を建てないか」
「ん? どういうこと」
「この茶室の場所が気に入っているんだ」
「そうだったね。だからここに流は……茶室を建てた」
苔むした大地に、朽ちた茶室が建っている。どこもかしこも翠色の空間だ。
「あぁここは近くに滝があり水音が静けさを消してくれるし、人が入って来ない寺の奥まった場所というのもいい。ただ俺が建てた茶室は、この通り老朽化が進んでいて、最近は雨漏りが酷いから、もう限界だ」
「そうか……うん、いいよ。流の好きにしよう」
「それで相談なんだが、茶室だけでなく俺の工房も一緒に、あと翠を抱く場所も作ってもいいか」
大胆であからさまな申し出に、恥ずかしくなってしまう。
「流は……またそんなことを!」
「ははっ、翠は照れると頬も赤くなるな! 鼻のてっぺんも赤いし、トナカイみたいに可愛いもんだ」
「もういい加減にしろ。ほらもう戻らないと、皆が来てしまうだろう。帰るよ」
枯れ枝を担いだ流の後について母屋に戻り、ツリー作りを手伝った。
流は器用に枯れ枝を、まるで生け花でもするかのように立体的に組み立て、そこに寺にあった金や銀の組紐で飾りつけをしていった。あっという間に、見たこともない和と洋の融合したモダンでアートなツリーの出来上がりだ。
それにしても流は本当にセンスがいい。染色も七宝も陶芸も……なんでもこなしてしまう自慢の弟で、自慢の恋人だ。
僕は、流によって……人生を二倍以上楽しませてもらっているのかもしれない。
「ふぅこれで完成だ。あと足りないのはサンタクロースだな」
「また馬鹿なこといってないで、早く食事の準備を」
「やれやれ翠は人使いが荒くなったな。でもサンタクロースもいたらいいと思わないか」
「それはまぁ……その方が盛り上がるだろうが……でも誰が一体……」
あとがき(不要な方はスルーして下さいね)
****
昨日はあとがきが少し暗めですみません。温かいメッセージにうるうるです。今はもう開き直り、元気に自分自身が楽しむことを忘れずに更新していますので、ご安心を!
今日は『忍ぶれど……』の「父になる5」とリンクするお話しでした。
ところで……クリスマスの話が全然終わりません。もう暫くお付き合いください~!
クリスマスパーティーをしようと言い出したのは、僕だ。
あの事件の後、随分周りに気を遣わせてしまっていたこともあり、何か楽しいことでもと企画したのはいいが……僕はこういうことに本当に疎くて、気の利いたもてなしが出来そうもない。結婚した当初も、よく彩乃さんにそれで怒られていたのを思い出してしまった。
そんな心配を漏らすと、流が僕の腰を軽く抱き寄せ、不安を取り除いてくれた。
「翠は何も心配しなくていい。俺が全部準備するから大丈夫だ」
僕に最高に甘い弟は……僕の恋人でもある。一生秘密の恋人のつもりだったのに、最近……状況が変わってきて戸惑ってもいる。
僕と流は血の繋がった兄弟で、その二人が恋に堕ちるなんて許されないのに……何故だろう。
洋くんがこの寺にやってきてから、すべての事情が変わった気がする。
洋くんが受け入れてくれるものは、周りの人も同じように受け入れてくれるんだ。本当に彼が不思議な子だ。詳しくは聞いてないが夕凪との縁以外にも、弟の丈と共に……壮大な過去を繋いでいる人物のようらしい。
だからなのか……広い宇宙の中なら、僕たちのような間柄の恋人がいたっていいだろうという気分になってしまう。
「なぁ翠……覚えているか。一緒に探したクリスマスツリーのこと」
「あぁよく覚えている。僕たちが小学生の頃だったね。あの後、散々おじい様に叱られたけれども楽しかったな。三兄弟だけの秘密を持てたことが嬉しかった。夜には電球を灯して、こっそり楽しんだのもいい思い出だ」
「そうそう珍しくあの丈が理科の実験の電球を持って来たりして、驚いたよな」
「あれは……本当に綺麗だった。幻想的で……松の木だったのに、ちゃんともみの木に見えたんだ。すべての物事は見る人の心次第だと気が付かされたよ」
「なぁまた作らないか。あの『伝説のツリー』を」
「『伝説』って随分オーバーだな。だが、おじいさまが後生大事にしていた松の枝だけは折るなよ」
「分かっているって。今の俺ならもっといいものを作れそうだ。鶏肉はもう漬け込んでいるから後はオーブンで焼くだけだし、ちょっと庭に行ってくるよ」
「あっ待て、僕もいくよ」
ふたりで寒空の下、枝を集めた。
どうやら今度はもみの木ではなく枯れ枝を使うらしい。なんだか童心に戻ったようにワクワクしてくるよ。流となら何でも楽しいと……素直に感じていい日々がやってくるなんて。
「翠はさ……冷えると鼻の頭が赤くなるんだよな」
流がふっと目を細めて、いつものように眩し気に僕のことをじっと見つめる。
そうだ……遠い昔も、こんなことがあったような気がする。
僕の鼻の頭に、流の指が軽く触れていく。すると触れられた部分に、優しい温かみで満ちていく。
「流っ――、誰かに見られたら困るだろう」
「ここは寺の中庭の奥深くだ。誰も来ないよ」
確かに茶室のあたりは一般客は立ち入り禁止にしてあり、僕たちだけの空間だが……
「翠、ここに家を建てないか」
「ん? どういうこと」
「この茶室の場所が気に入っているんだ」
「そうだったね。だからここに流は……茶室を建てた」
苔むした大地に、朽ちた茶室が建っている。どこもかしこも翠色の空間だ。
「あぁここは近くに滝があり水音が静けさを消してくれるし、人が入って来ない寺の奥まった場所というのもいい。ただ俺が建てた茶室は、この通り老朽化が進んでいて、最近は雨漏りが酷いから、もう限界だ」
「そうか……うん、いいよ。流の好きにしよう」
「それで相談なんだが、茶室だけでなく俺の工房も一緒に、あと翠を抱く場所も作ってもいいか」
大胆であからさまな申し出に、恥ずかしくなってしまう。
「流は……またそんなことを!」
「ははっ、翠は照れると頬も赤くなるな! 鼻のてっぺんも赤いし、トナカイみたいに可愛いもんだ」
「もういい加減にしろ。ほらもう戻らないと、皆が来てしまうだろう。帰るよ」
枯れ枝を担いだ流の後について母屋に戻り、ツリー作りを手伝った。
流は器用に枯れ枝を、まるで生け花でもするかのように立体的に組み立て、そこに寺にあった金や銀の組紐で飾りつけをしていった。あっという間に、見たこともない和と洋の融合したモダンでアートなツリーの出来上がりだ。
それにしても流は本当にセンスがいい。染色も七宝も陶芸も……なんでもこなしてしまう自慢の弟で、自慢の恋人だ。
僕は、流によって……人生を二倍以上楽しませてもらっているのかもしれない。
「ふぅこれで完成だ。あと足りないのはサンタクロースだな」
「また馬鹿なこといってないで、早く食事の準備を」
「やれやれ翠は人使いが荒くなったな。でもサンタクロースもいたらいいと思わないか」
「それはまぁ……その方が盛り上がるだろうが……でも誰が一体……」
あとがき(不要な方はスルーして下さいね)
****
昨日はあとがきが少し暗めですみません。温かいメッセージにうるうるです。今はもう開き直り、元気に自分自身が楽しむことを忘れずに更新していますので、ご安心を!
今日は『忍ぶれど……』の「父になる5」とリンクするお話しでした。
ところで……クリスマスの話が全然終わりません。もう暫くお付き合いください~!
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