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12章
聖夜を迎えよう11 ~安志編~
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涼が風呂に入っている間に、遅い夕食の準備をした。
外食が続いて野菜不足の涼のために、シンプルなほうれん草と豚バラ肉の常夜鍋が今日のメニューだ。生姜と日本酒をたっぷり入れた出汁で煮込むと、食欲をそそる湯気が、部屋中に広がった。
「うわぁ~いい匂い! ずっとロケ弁でこういうのに飢えていたんだ。流石だなぁ、安志さんは」
「あぁ俺はさ、凝った料理は出来ないからな。きっと明日は月影寺でご馳走だから、これでいいよな」
「うん! モチロン! ねぇ、もう食べていいの? お腹空いたよ」
「おー! じゃあ乾杯しような」
涼は炭酸水、俺は缶ビールで乾杯だ。洒落たレストランでも洋食でもないけど、俺達らしいクリスマスの前祝だ。
風呂あがりで頬を薔薇色に染めた涼の笑顔を見つめながら、幸せを噛みしめる。
一緒に今日も明日も過ごせるなんて、夢みたいだ。
さっきまでのエロい涼も、こんな風に食べ物を前に、目を輝かせる年相応の涼も……どんな涼だって、全部丸ごと好きだと噛みしめる夜だった。
食後の片づけをして、俺も風呂に入ることにした。涼は流石にバテ気味で目を擦っていた。
「眠かったら寝ちゃっていいからな」
「うん……でも……もったいないよ。まだ起きているよ」
そう言いながらも半分船を漕いでいるんだから、きっと上がった頃には夢の中だろう。
それでもいい。涼のここ数日の頑張りを考えたら体力の限界だろう。さっきあんなにも激しく……涼の方から求めてもらえたので、俺の満足感は半端なかった。
****
「寝てて、いいよ」
「起きてるって」
だって安志さんが風呂に入っている間にしなくちゃいけないことがある。もう眠くてしょうがないけれども……今日でないと意味がない。
眠い目を擦りながらカートの中からビニールの包みを取り出した。これは事務所の忘年会で使ったものを、譲り受けたんだ。
うーん……準備は出来たけれども……やっぱり眠いや。
少しだけ仮眠しよ。この後に備えて……。
一度安志さんのベッドの中に潜り込んだら、あっという間に夢の世界に堕ちてしまいそうになる。
恋人の匂いに包まれながら眠る夜は、豪華なホテルの部屋よりもずっと価値があるな。ここ最近の寂しい夜が嘘のよう。
今……僕は手に陸さんからもらった宿泊券を握っている。
安志さんと一緒なら、どんな場所でも価値がある。
だから今度はホテルにも行ってみよう。
僕からのクリスマスプレゼントはこれと……。
****
「あーあ、やっぱり寝ちゃったか」
風呂上りに濡れた髪をタオルでゴシゴシと擦りながらリビングに戻ると、ソファに涼の姿がなかった。ちらっと寝室を覗くと静かな寝息が聞こえてきた。
「そりゃ体力の限界だよな。疲れていたのにありがとうな」
ポンポンっとその形の良い頭を叩いてやると、涼がさっきと違う部屋着になっていることに気が付いた。
襟元しか見えてないが、白いボアがついている。
え? ええっ!
そっと布団を捲っていくと……涼は真っ赤なサンタクロースの衣装を着て、すやすやと眠っていた。
うはっ……こ、これって……可愛い!
可愛すぎだろー‼
たぶん余興の残りものだろうけど、涼が着ると、最高だ。
キュートなサンタクロースの誕生だ。こんなに可愛いサンタは世界中探したっていないぞ。
やばっ! 俺ぶっ倒れそう!
可愛さに目がくらむ。鼻血が出そうだよ。
頭の中じゃ『恋人がサンタクロース』がぐるぐる回っている。
手に何か握っていたので、そっと見てみると、ホテルの宿泊券だった。もしかして……これ俺に?
涼……俺……なんか感動してしまうよ。
俺は涙脆くなった。
俺の恋人はサンタクロースだ。
とびっきりのプレゼントを抱えて俺の元にやってきてくれた、可愛い男の子だ。
安志編 了
あとがき(長文ですので…不要な方はスルーで)
****
季節外れなクリスマスですが、お楽しみいただいて、おりますでしょうか。
エブリスタさんの『重なる月』は加筆修正しながら書いている改訂版なので、この物語を書いた当時を、少し……振り返ってみると、ちょっと寂しいあとがきを残していました。
思い返せばもう2年半程前になるのかな。大変、辛いことがありました。急に信じていた世界が崩れ、寂しいことが続き、ふと気を許せば凹んでしまう日々でした。創作も当時2ヶ月以上何も書けなかったのを思い出します。自分の想いが空回りしちゃう時や相手とテンポが合わなくなる……生きていればそんなこともあると自分に必至に言い聞かせていました。
そんな中でも毎日のように創作を書き続けられたのは、私が私を癒すためでもありました。今、ここを、ここまで読んでくださった読者さまには、温かくお付き合いいただけて嬉しいです。
今はエブリスタさんに本拠地を移し……本当に温かい読者さまに支えられて、毎日楽しく更新出来ています。なので心配しないでくださいね。いつも本当にありがとうございます。
『重なる月』は、そろそろ私の中では書ききった感もありますが、もう少し、ゆるりと進んでいきたいです。
皆さまも素敵な1日をお過ごしください♪
外食が続いて野菜不足の涼のために、シンプルなほうれん草と豚バラ肉の常夜鍋が今日のメニューだ。生姜と日本酒をたっぷり入れた出汁で煮込むと、食欲をそそる湯気が、部屋中に広がった。
「うわぁ~いい匂い! ずっとロケ弁でこういうのに飢えていたんだ。流石だなぁ、安志さんは」
「あぁ俺はさ、凝った料理は出来ないからな。きっと明日は月影寺でご馳走だから、これでいいよな」
「うん! モチロン! ねぇ、もう食べていいの? お腹空いたよ」
「おー! じゃあ乾杯しような」
涼は炭酸水、俺は缶ビールで乾杯だ。洒落たレストランでも洋食でもないけど、俺達らしいクリスマスの前祝だ。
風呂あがりで頬を薔薇色に染めた涼の笑顔を見つめながら、幸せを噛みしめる。
一緒に今日も明日も過ごせるなんて、夢みたいだ。
さっきまでのエロい涼も、こんな風に食べ物を前に、目を輝かせる年相応の涼も……どんな涼だって、全部丸ごと好きだと噛みしめる夜だった。
食後の片づけをして、俺も風呂に入ることにした。涼は流石にバテ気味で目を擦っていた。
「眠かったら寝ちゃっていいからな」
「うん……でも……もったいないよ。まだ起きているよ」
そう言いながらも半分船を漕いでいるんだから、きっと上がった頃には夢の中だろう。
それでもいい。涼のここ数日の頑張りを考えたら体力の限界だろう。さっきあんなにも激しく……涼の方から求めてもらえたので、俺の満足感は半端なかった。
****
「寝てて、いいよ」
「起きてるって」
だって安志さんが風呂に入っている間にしなくちゃいけないことがある。もう眠くてしょうがないけれども……今日でないと意味がない。
眠い目を擦りながらカートの中からビニールの包みを取り出した。これは事務所の忘年会で使ったものを、譲り受けたんだ。
うーん……準備は出来たけれども……やっぱり眠いや。
少しだけ仮眠しよ。この後に備えて……。
一度安志さんのベッドの中に潜り込んだら、あっという間に夢の世界に堕ちてしまいそうになる。
恋人の匂いに包まれながら眠る夜は、豪華なホテルの部屋よりもずっと価値があるな。ここ最近の寂しい夜が嘘のよう。
今……僕は手に陸さんからもらった宿泊券を握っている。
安志さんと一緒なら、どんな場所でも価値がある。
だから今度はホテルにも行ってみよう。
僕からのクリスマスプレゼントはこれと……。
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「あーあ、やっぱり寝ちゃったか」
風呂上りに濡れた髪をタオルでゴシゴシと擦りながらリビングに戻ると、ソファに涼の姿がなかった。ちらっと寝室を覗くと静かな寝息が聞こえてきた。
「そりゃ体力の限界だよな。疲れていたのにありがとうな」
ポンポンっとその形の良い頭を叩いてやると、涼がさっきと違う部屋着になっていることに気が付いた。
襟元しか見えてないが、白いボアがついている。
え? ええっ!
そっと布団を捲っていくと……涼は真っ赤なサンタクロースの衣装を着て、すやすやと眠っていた。
うはっ……こ、これって……可愛い!
可愛すぎだろー‼
たぶん余興の残りものだろうけど、涼が着ると、最高だ。
キュートなサンタクロースの誕生だ。こんなに可愛いサンタは世界中探したっていないぞ。
やばっ! 俺ぶっ倒れそう!
可愛さに目がくらむ。鼻血が出そうだよ。
頭の中じゃ『恋人がサンタクロース』がぐるぐる回っている。
手に何か握っていたので、そっと見てみると、ホテルの宿泊券だった。もしかして……これ俺に?
涼……俺……なんか感動してしまうよ。
俺は涙脆くなった。
俺の恋人はサンタクロースだ。
とびっきりのプレゼントを抱えて俺の元にやってきてくれた、可愛い男の子だ。
安志編 了
あとがき(長文ですので…不要な方はスルーで)
****
季節外れなクリスマスですが、お楽しみいただいて、おりますでしょうか。
エブリスタさんの『重なる月』は加筆修正しながら書いている改訂版なので、この物語を書いた当時を、少し……振り返ってみると、ちょっと寂しいあとがきを残していました。
思い返せばもう2年半程前になるのかな。大変、辛いことがありました。急に信じていた世界が崩れ、寂しいことが続き、ふと気を許せば凹んでしまう日々でした。創作も当時2ヶ月以上何も書けなかったのを思い出します。自分の想いが空回りしちゃう時や相手とテンポが合わなくなる……生きていればそんなこともあると自分に必至に言い聞かせていました。
そんな中でも毎日のように創作を書き続けられたのは、私が私を癒すためでもありました。今、ここを、ここまで読んでくださった読者さまには、温かくお付き合いいただけて嬉しいです。
今はエブリスタさんに本拠地を移し……本当に温かい読者さまに支えられて、毎日楽しく更新出来ています。なので心配しないでくださいね。いつも本当にありがとうございます。
『重なる月』は、そろそろ私の中では書ききった感もありますが、もう少し、ゆるりと進んでいきたいです。
皆さまも素敵な1日をお過ごしください♪
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