重なる月

志生帆 海

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12章

聖夜を迎えよう10 ~安志編~

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「安志さん……流石にお腹空いた」

 二回目を終え、お互い放心状態になってベッドに転がっていると、涼のお腹がグーっと鳴った。

 涼も俺も男なんだなと、ふと思った。
 
 今日は涼の方も積極的で、驚いた。

 体育会系のようなノリで汗だくだ。こんな風に乱れるのは、本当に珍しい。

 逆に何かあったのかと心配するよ。


****
 
 23日夕刻……

 やっと撮影会も終わり帰宅できることになった。

 マネージャーの運転する車の中で、僕はぐっすりと熟睡してしまった。

「涼、着いたよ。この三日間本当にハードだったよね。お疲れ様。明日から年明けまでは完全オフだから、ゆっくりして。あ……もしかしてNYのご両親のところに帰省するの? それなら事前に連絡してね」
「いえ今年は帰らなくて……こっちで保護者代わりの従兄弟の家にお世話になる予定です」
「あぁ北鎌倉の……そっか。そうだね。大学の方の単位、ギリギリって聞いたよ。試験でミスらないように、しっかり勉学に励んでね」

 両親との約束を思い出す。

 モデル業も勉学もどちらも疎かにしない。しっかり守らないと、どちらも駄目になったら、もうNYに帰って来なさいっと言われそうで、冷や冷やする。

「じゃあ、ありがとうございます」

 鍵を開け、自分の部屋に転がるように入った。

 はぁ、ほんと疲れた。

 ドサッと荷物を置いて溜息をつくと、自分の躰から女の子のコロンの匂いがしたので、驚いた。ちょっと前までだったら、こんなの気にしなかったのに、アメリカにいた頃は、ガールフレンドもいて、彼女はもっと強い香水使っていたな。

 流石に100人もの女の子とツーショットって……ないよな。

 だって僕は……僕は男の安志さんが好きなのに。

 少しの罪悪感。
 少しの嫌悪感。

 誰に対してだろう?
 女の子ではなく、僕自身にだ。

 とにかくこの香りをいつまでも纏っているのが嫌で、すぐに風呂に入ることにした。


 風呂から上がり、さっぱりした所で安志さんに連絡しようと鞄をひっくり返すと、コロンっと床に転がったものがあった。

「あ……まずいっ」

 これって、金曜日の忘年会で当てた物だ。
 あれからどうしても気になって調べてしまった。

 これ大人のオモチャだろ?

 こんな可愛いカタチしてるくせに、男のアレを模しているらしい。

 噂には聞いたことはあったが、初めて生で見た! もっとグロテスクなものかと思ってたけど、これは可愛い抹茶ミルクみたいな色で、一見ただのマッサージ棒みたいな感じ。

 これ……女の子のあそこに挿れると気持ちいいのか。
 女の子って、こういうので自慰しちゃうのか。
 
 じゃあ僕が使うと……どうなるんだろう。
 気持ちいいのかな。安志さんに挿入される時みたいな気持ちになれるのか。

 この前はいつだったろう。安志さんと体を繋げたのは……もう一か月ほど経ってる? 道理でここのところ無性に悶悶とするはずだ。忙しくて疲れすぎて自慰する暇なかったもんな。あぁ甘い誘惑がすぐそこに……手を伸ばしては躊躇することを、繰り返してしまった。
 
 そんなことをしていたら、安志さんから着信があって飛び上がるほど驚いた!

 よかった! これは使うなってことだよな。
 やっぱりこんなものに頼りたくないよ。

 安志さん自身にちゃんと触れてもらいたい。
 今日会ったら沢山、沢山触れて欲しい。

 しかし……僕ってこんなに性欲があったのか。
 本当に好きになったら、心も躰も欲しくなるのか。

 安志さんからの「これから会わないか」という嬉しい誘いに、慌てて荷造りした。迷ったが、抹茶色の玩具も入れた。それから陸さんにもらった宿泊券も……あとこれは、前々から僕が安志さんのために用意していた特別なクリスマスプレゼント。これも持って……

 さぁ行こう、早く安志さんのもとに!

 今日は僕の方から沢山求めるよ!

 いつも待たせてばかりの安志さんに、僕なりの気持ち伝わるといい。

 クリスマス・イブを一緒に迎えられる。
 それが嬉しくて、大好きな人がいてくれるのが嬉しくて。

****

「涼、今日……なんかあったのか」

 安志さんに真顔で聞かれてしまい、恥ずかしくなる。

 僕、かなりがっついていたよな。なんかいろいろ余計なこと口走ったような。

「えっと……その……」
「嬉しいよ。積極的な涼も、みんな好きだ」

 安志さんはそう言って、嬉しそうに僕を抱きしめる。
 その拍子にまたお腹がぐぅっとなって、恥ずかしさで真っ赤になった。

 信じられない! さっきまでの色気はどこに?

「ぷぷっ、涼は若いよな。そうかそうか、運動して腹減ったんだな。よしよし、今作ってやるから、一度風呂入って来いよ」

「うん!」

 どんな僕でも安志さんは愛してくれる。

 それがすごく伝わってくれて、僕の頬も自然に緩んでしまうよ。





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