重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
1,012 / 1,657
12章

聖夜を迎えよう6 ~安志編~

しおりを挟む
 洋との電話を切った途端、涼から着信があった。

 恋人からの定期便は、こんな風に毎晩欠かさずやって来てくれる。そのことが、どんなに俺を安心させてくれることか。
 
 俺の恋人は華やかなモデルで、とんでもなく綺麗で……可愛い人だ。しかも男にも女の子にもモテモテの十代の若さでと……心配の種なら山ほどある。

 でもいつもそんな不安を吹き飛ばすように、自ら爽やかな風を吹いてくれる。明るく前向きな涼のことを知れば知る程、どんどん好きになってしまうよ。
 
「安志さんお疲れ様。まだ会社?」
「いや、やっと出たところ」

 吐く息が白く外灯に映し出される冷たい夜道だが……涼の甘い声によって、心は一気に温かくなる。

「もしかして今、洋兄さんと喋ってた?」
「おう! 涼、本当にクリスマスに休めるのか」
「休めるよ! 僕も今日スケジュールがはっきりして。っといっても……事務所は僕の成績を心配してなんだけど、クリスマスイブから正月明けまでゆっくり出来ることになったんだ」
「すごいな。そんなに長期休みだなんて」
「嬉しいよ。安志さん、だから一緒に月影寺に行こう!」
「あぁそうしよう、人目を気にせず会えるな」

 最近の涼はモデルの人気がうなぎのぼりだから、外で気軽に会うのは困難になった。だが洋の暮らす月影寺は別だ。あそこは北鎌倉でも奥まった場所にあるので、下界から遮断された空間だ。

 しかも皆……俺達の恋仲に理解があるので、のびのびと過ごせる。

 本当に洋に感謝だ。最高の提案だよ。
 
「その代わりに明日から撮影が朝から晩まであって、しかも金曜日は忘年会、週末はテーマパークに宿泊しての撮影と超ハードなんだ。だから……」

 涼は少し寂しそうな表情だった。

「気にすんな! 俺も金曜日は忘年会だよ。クリスマスに会えるんだから、電話も無理すんなよ」
「安志さん……ありがとう!」
「お互いに多忙なのは想定内だ。だから安心しろ」

 今年も後10日程になっている。気ぜわしいはずだ。

「じゃあクリスマスイブに会おう!」

 それを合言葉に電話を切った。

 月影寺のクリスマスパーティーか。

 今から楽しみすぎる!
 
****
 
「涼くんお疲れ様、この二日間、撮影頑張ったね」
「はぁ~疲れた。もうマネージャー詰め込みすぎですよ。僕の体力にも限界があります」
「はははっ、さぁ今日はこの後事務所の忘年会だから、早く車に乗って。今からお台場に行くぞ」
「はい!」

 マネージャーに背中を押され駐車場から事務所の黒いバンに乗り込むと、奥の座席に人が先に座っていた。ずいぶん背が高いようで、長い脚を窮屈そうに持て余していた。

 一体誰だろう?

 じっと見つめてみると独特な雰囲気に覚えがあった。

 も、もしかして!

「えっ……」
「涼、久しぶりだな」







 驚いたことに、それはSoilさんだった。今日会えるなんて思ってなかったので、腰を抜かすほと驚いてしまった。

「そっSoilさんっ! なっ、なんで!」
「おいおい……まるで幽霊を見たかのような顔だな。それから陸と呼べ。モデルはもう辞めたんだから」
「あっ……はい、陸さん」

 モデルをやめたっていっても、その精悍でエキゾチックな風貌は少しも変わっていなくて、今でも最前線で活躍しているといっても過言ではない。

 はぁ~すごいオーラだ! 相変わらず。

「あっ、あの、いつ帰国を?」
「今日だ。思い立って急に帰国したんだ」
「それは……会いたい人がいるとか」
「あーまぁな、ところが会いたい奴はあいにく出張中だそうだ。だからこうやって事務所の忘年会に顔を出すことになったわけさ。社長直々に頼まれてな」

 少し不満げに言う陸さんに、苦笑してしまった。

 きっと会いたい人って、空さんのことだろう。確かにここ最近の空さんは忙しそうだった。頻繁に海外出張があるって聞いているし、もしかしてすれ違ってしまったのかな。見るからにがっかりしている陸さんを、思わず励ましたくなってしまった。

「陸さんに会えて、僕はすごく嬉しいです!」
「ははっ、相変わらず可愛いこと言うな。お前は俺の弟分だ」

 陸さんは長い脚を投げ出し、僕の頭をポンポンっと叩いた。もう完全にお子様扱いだけど、やっぱり嬉しい! 陸さんは僕の憧れのモデルだから。

「やっぱり東京の夜景は綺麗だ。NYもいいが……俺は日本が好きだ。空が違うよな……」

 陸さんの呟きに誘われ……一緒に窓の外を眺めると、ちょうど車はレインボーブリッジを渡り、お台場へ向かっているところだった。

 振り返れば、宝石箱をひっくり返したようなキラキラに瞬く都会の夜景と虹色の大きな橋。

 華やかで美しい都会の景色に、心が躍る。

 思いがけない人と会えたこともあり、一気にテンションが高まっていくのを感じた。


しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

物語のその後

キサラギムツキ
BL
勇者パーティーの賢者が、たった1つ望んだものは……… 1話受け視点。2話攻め視点。 2日に分けて投稿予約済み ほぼバッドエンドよりのメリバ

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...