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12章
聖夜を迎えよう4
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「今年は、皆でクリスマスパーティーをしてみないか」
丈が早く帰宅したので月影寺の母屋で皆で夕食をしていると、翠さんから提案があった。
「それ、いいですね、ちょうど丈とそんなことを話していたところです」
「翠兄さん、素敵な提案ですね」
「丈、洋くんありがとう。先日は……皆に心配を掛け世話になったので、何かお返ししたくてね。幸いお寺のクリスマスは暇だから。じゃあいいかな」
「ねぇ父さん、メンバーは?」
薙くんが肉を頬張りながら、質問した。
「メンバーは、それぞれ呼びたい人がいたら是非。薙は拓人くんを呼んだらどうだ? 僕は達哉に声を掛けようと思っているし」
「えっ、本当にいいの?」
「もちろんだよ」
薙くんは、パッと表情を明るくし、とても嬉しそうだ。
あれから拓人くんとは学校で上手くいっているらしい。また親友に戻れたと報告してくれたので、俺もほっとした。
それにしても……あのような恐ろしい事件があっても、翠さんは何も変わらないな。
達哉さんへの態度も変えていない。自分を犯そうとした克哉の実兄であるのに、ちゃんとそれぞれ別の人間として捉えている。血の繋がりよりもその人自身をしっかりと見つめているのが分かる。そういうぶれない態度を取れるのが素敵だ。時に人は保身に走ってしまうことがあるのに……。
翠さんの態度はいつも真っすぐで、清々しく凛としていて憧れる。
流石……この月影寺の住職であり、兄弟の筆頭の長男だと感服してしまう。俺たちは皆、そんな翠さんのことが好きで、翠さんがいつもの通りでいることに安堵していた。
「洋くんは誰か呼びたい人いる?」
「あ……じゃあ来られるか分からないのですが……安志と涼に声をかけてみてもいいですか」
「もちろんだ。安志くんは今回の功労者だよ。僕もお礼を直接伝えたいな」
「じゃあ早速聞いてみます!」
****
東京・恵比寿
「涼くん、今日はこれで終わりだよ。一日お疲れ様!」
「あっマネージャー」
「今日も良かったよ」
「ありがとうございます!あの、今後の予定を確認してもいいですか」
クリスマスも押し迫った12月半ば……相変わらず僕はモデルと学業に大忙しな日々を送っていた。でもクリスマスまであと一週間。どうしても確認しておきたいことがあって、それとなく聞いてみた。
マネージャーは事務的に手帳をめくって、読み上げてくれた。
「明日明後日は雑誌の撮影をスタジオで。金曜日は夜、モデル事務所の忘年会。これは絶対に参加するようにとのお達しだ。それから翌日の土日はテーマパークで泊りがけのロケだな。その後は喜ぶことにオフだぞ!」
教えてもらったスケジュールに思わず心が跳ねた。
その後ってクリスマスの二十四日以降のことだよな。
今……オフって言った?
「本当ですか! 今年はクリスマスがオフなんて、やった!」
「おいおい、涼くんまさか彼女とかいるんじゃないよね? それはご法度だよ。今は駄目だぞ!」
「そうだぞ、涼」
通り掛かった社長にも、同じことを言われてしまった。
「涼はモデルと学業優先だ。単位がまずいって聞いたよ。今回は特別に長い冬休みをあげるのは、学業のためだ。後期テストのためにもしっかり勉強するんだぞ。天下のK大学の学歴も、涼の売りなんだからな」
「あっはい……」
真顔でマネージャーと社長に揃って注意され、まずいと思った。
それは事務所から最近口を酸っぱくして注意と忠告されていることだった。時計のペアモデルのイメージを損なわないように、恋愛はNGだと……何度も。
そんな中でも、安志さんとの恋仲は密かに継続中だ。でも最近会えていない。ただでさえ行き違ってしまう学生と社会人という立場に加えて、モデルという仕事も絡んで複雑だ。
はぁ、ややっこしいことになったな。もっと自由に生きたいのに。だがモデルも学生もどちらも僕が選んだ道だから、しっかり責任をもって取り組まないと。でも……。
流石に意気消沈して家路につく。
途中でスマホに着信があったので、見ると洋兄さんからだった。
洋兄さんとは心が通じ合っている。僕が凹んでいると、まるで何かを察したかのように連絡をくれる。
「もしもし、洋兄さん?」
「涼どうした? なんだか元気ないな」
ほら、いつだって……こうやってすぐに分かってくれる。
それが今は北風に吹かれた寒い心に、じんと沁みた。
あとがき(不要な方はスルー)
****
話は『安志&涼の番外編』と突入していきます。
最近掲載した番外編の安志と涼のクリスマスは実は1年くらい前のふたりをイメージしていました。(前後してすみません)今回の話が、時系列にあったクリスマスになります!
また久しぶりに【あの人】の登場を、予定しています。
時季外れですが、クリスマスに向けてスペシャルなお話をお届けできたらと思い、更新しています♪ どうぞよろしくお願いします。
丈が早く帰宅したので月影寺の母屋で皆で夕食をしていると、翠さんから提案があった。
「それ、いいですね、ちょうど丈とそんなことを話していたところです」
「翠兄さん、素敵な提案ですね」
「丈、洋くんありがとう。先日は……皆に心配を掛け世話になったので、何かお返ししたくてね。幸いお寺のクリスマスは暇だから。じゃあいいかな」
「ねぇ父さん、メンバーは?」
薙くんが肉を頬張りながら、質問した。
「メンバーは、それぞれ呼びたい人がいたら是非。薙は拓人くんを呼んだらどうだ? 僕は達哉に声を掛けようと思っているし」
「えっ、本当にいいの?」
「もちろんだよ」
薙くんは、パッと表情を明るくし、とても嬉しそうだ。
あれから拓人くんとは学校で上手くいっているらしい。また親友に戻れたと報告してくれたので、俺もほっとした。
それにしても……あのような恐ろしい事件があっても、翠さんは何も変わらないな。
達哉さんへの態度も変えていない。自分を犯そうとした克哉の実兄であるのに、ちゃんとそれぞれ別の人間として捉えている。血の繋がりよりもその人自身をしっかりと見つめているのが分かる。そういうぶれない態度を取れるのが素敵だ。時に人は保身に走ってしまうことがあるのに……。
翠さんの態度はいつも真っすぐで、清々しく凛としていて憧れる。
流石……この月影寺の住職であり、兄弟の筆頭の長男だと感服してしまう。俺たちは皆、そんな翠さんのことが好きで、翠さんがいつもの通りでいることに安堵していた。
「洋くんは誰か呼びたい人いる?」
「あ……じゃあ来られるか分からないのですが……安志と涼に声をかけてみてもいいですか」
「もちろんだ。安志くんは今回の功労者だよ。僕もお礼を直接伝えたいな」
「じゃあ早速聞いてみます!」
****
東京・恵比寿
「涼くん、今日はこれで終わりだよ。一日お疲れ様!」
「あっマネージャー」
「今日も良かったよ」
「ありがとうございます!あの、今後の予定を確認してもいいですか」
クリスマスも押し迫った12月半ば……相変わらず僕はモデルと学業に大忙しな日々を送っていた。でもクリスマスまであと一週間。どうしても確認しておきたいことがあって、それとなく聞いてみた。
マネージャーは事務的に手帳をめくって、読み上げてくれた。
「明日明後日は雑誌の撮影をスタジオで。金曜日は夜、モデル事務所の忘年会。これは絶対に参加するようにとのお達しだ。それから翌日の土日はテーマパークで泊りがけのロケだな。その後は喜ぶことにオフだぞ!」
教えてもらったスケジュールに思わず心が跳ねた。
その後ってクリスマスの二十四日以降のことだよな。
今……オフって言った?
「本当ですか! 今年はクリスマスがオフなんて、やった!」
「おいおい、涼くんまさか彼女とかいるんじゃないよね? それはご法度だよ。今は駄目だぞ!」
「そうだぞ、涼」
通り掛かった社長にも、同じことを言われてしまった。
「涼はモデルと学業優先だ。単位がまずいって聞いたよ。今回は特別に長い冬休みをあげるのは、学業のためだ。後期テストのためにもしっかり勉強するんだぞ。天下のK大学の学歴も、涼の売りなんだからな」
「あっはい……」
真顔でマネージャーと社長に揃って注意され、まずいと思った。
それは事務所から最近口を酸っぱくして注意と忠告されていることだった。時計のペアモデルのイメージを損なわないように、恋愛はNGだと……何度も。
そんな中でも、安志さんとの恋仲は密かに継続中だ。でも最近会えていない。ただでさえ行き違ってしまう学生と社会人という立場に加えて、モデルという仕事も絡んで複雑だ。
はぁ、ややっこしいことになったな。もっと自由に生きたいのに。だがモデルも学生もどちらも僕が選んだ道だから、しっかり責任をもって取り組まないと。でも……。
流石に意気消沈して家路につく。
途中でスマホに着信があったので、見ると洋兄さんからだった。
洋兄さんとは心が通じ合っている。僕が凹んでいると、まるで何かを察したかのように連絡をくれる。
「もしもし、洋兄さん?」
「涼どうした? なんだか元気ないな」
ほら、いつだって……こうやってすぐに分かってくれる。
それが今は北風に吹かれた寒い心に、じんと沁みた。
あとがき(不要な方はスルー)
****
話は『安志&涼の番外編』と突入していきます。
最近掲載した番外編の安志と涼のクリスマスは実は1年くらい前のふたりをイメージしていました。(前後してすみません)今回の話が、時系列にあったクリスマスになります!
また久しぶりに【あの人】の登場を、予定しています。
時季外れですが、クリスマスに向けてスペシャルなお話をお届けできたらと思い、更新しています♪ どうぞよろしくお願いします。
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