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12章
互いに思う 3
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「さてと私は朝食を作ってくるよ。洋の寝起きは手強いが、起こしてくれるか」
「あっ、はい!」
丈さんは大人だな。落ち着いて頼り甲斐があって、すごいや。
それに比べると、洋さんは……ふふっ、可愛いもんだ。
オレに代わってベッドのど真ん中で眠り続ける様子に、なんか意外と子供っぽい人なんだな。もっと落ち着いた大人しい人だと思っていたのにと、意外な気持ちと嬉しい気持ちが湧いてきた。
「洋さん、そろそろ起きないと」
「ん……まだ、ねむ……い。丈……コーヒー持って来て」
ワォ! 恋人同士の熱い朝かよ。
なんかいいな、こういうの。
丈さんと洋さん。ふたりは互いに思い合っている……同じ量だけ思い合っている。そんな関係って、素敵だな。
オレもいつか……そんな恋をするのだろうか。
ふと昨夜の拓人の必死な顔が浮かんだ。アイツ……大丈夫だったのか。拓人は犠牲者だ。そしてアイツは土壇場で誘惑に負けずに踏ん張った。だから大丈夫だ。きっとオレは明日からまた普通に接っすることが出来る。
オレは一度信じた人のことを簡単に裏切らないし、裏切りたくない。
だから今回のことを他の人が何と言おうと、オレを自由にしてくれた拓人の心を信じるからな。
「やれやれ、どうしても起きないか。洋は負荷が大きかった日の翌日は、寝起きが特に悪くてな」
口では文句を言いながら、丈さんがキッチンからリクエスト通りに温かい珈琲を持ってきた。
「薙、キッチンカウンターにココアをいれてあるから熱いうちに飲んでおいで」
「あっ了解」
これってお邪魔ってヤツだよな! 了解だ。
****
「洋、さぁもう起きろ」
「……う……ん」
低血圧で貧血もちの洋は、朝が特に弱い。
昨日のように頑張りすぎた日は特にそうだ。私と暮らすようになって、それは特に顕著に表れるようになった。
モゾモゾと布団の中にまた潜ろうとする躰を抱き起して、私の胸に背を預けさせてやる。そしてほっそりとした指にマグカップを握らせてやる。
「んっ……熱いっ」
「ほら、こぼさないようにな」
「……丈、ありがとう……いい香りだ」
薙がいることも忘れ、私の胸に体重を預けてくる恋人の唇を、つい軽く奪ってしまった。
「あ……っ」
下半身に響く寝起きの洋の少し気怠げな声に、煽られそうになるのをぐっと我慢した。まったく洋の無自覚の色気から気をそらすのは、本当に至難の業だ。
「続きは夜だ。私は今から翠兄さんを迎えに行ってくるから」
「あっそうか……翠さんもう退院できそうか」
「おそらくな。傷は大したことなかったし、おそらく昨夜沢山消毒してもらえ栄養も取ったはずだ」
「え? あっ……そうか、なるほど……全く丈はずいぶん開けっ広げだな」
やっと目覚めた洋が私のことをじっと見つめ、美しい目を細めて苦笑した。
「どうとでも。弟として出来ることは全てしたし、コツも伝授した。なんなら洋も今度入院してみるか。手厚い対応を約束するぞ」
「ばっ、馬鹿っ、それって職権乱用だろう!」
「くくっ……どうだろうな。おっと、痛っ! 洋は最近狂暴になったな」
呆れ顔の洋に小突かれ、わざと痛いふりをして笑った。
「ねぇ~もういい加減にしてくれよぉ。聞いているこっちが恥ずかしいよ」
薙の叫び声に、洋と顔を見合わせて笑った。
「私たちは、もしかして酷い大人か」
「あぁ本当に……未成年に対して精神衛生上良くないって奴だよ、ははっ」
酷い夜から一夜明ければ、こんなにも明るい朝がやってきた。
私たちには、お互いに思い合うことで見える光がある。
その光に向かって、前に進んで行く気持ちがあるから、乗り越えられるものがあるのだ。
そのことに気が付いた、眩しい朝だった。
「あっ、はい!」
丈さんは大人だな。落ち着いて頼り甲斐があって、すごいや。
それに比べると、洋さんは……ふふっ、可愛いもんだ。
オレに代わってベッドのど真ん中で眠り続ける様子に、なんか意外と子供っぽい人なんだな。もっと落ち着いた大人しい人だと思っていたのにと、意外な気持ちと嬉しい気持ちが湧いてきた。
「洋さん、そろそろ起きないと」
「ん……まだ、ねむ……い。丈……コーヒー持って来て」
ワォ! 恋人同士の熱い朝かよ。
なんかいいな、こういうの。
丈さんと洋さん。ふたりは互いに思い合っている……同じ量だけ思い合っている。そんな関係って、素敵だな。
オレもいつか……そんな恋をするのだろうか。
ふと昨夜の拓人の必死な顔が浮かんだ。アイツ……大丈夫だったのか。拓人は犠牲者だ。そしてアイツは土壇場で誘惑に負けずに踏ん張った。だから大丈夫だ。きっとオレは明日からまた普通に接っすることが出来る。
オレは一度信じた人のことを簡単に裏切らないし、裏切りたくない。
だから今回のことを他の人が何と言おうと、オレを自由にしてくれた拓人の心を信じるからな。
「やれやれ、どうしても起きないか。洋は負荷が大きかった日の翌日は、寝起きが特に悪くてな」
口では文句を言いながら、丈さんがキッチンからリクエスト通りに温かい珈琲を持ってきた。
「薙、キッチンカウンターにココアをいれてあるから熱いうちに飲んでおいで」
「あっ了解」
これってお邪魔ってヤツだよな! 了解だ。
****
「洋、さぁもう起きろ」
「……う……ん」
低血圧で貧血もちの洋は、朝が特に弱い。
昨日のように頑張りすぎた日は特にそうだ。私と暮らすようになって、それは特に顕著に表れるようになった。
モゾモゾと布団の中にまた潜ろうとする躰を抱き起して、私の胸に背を預けさせてやる。そしてほっそりとした指にマグカップを握らせてやる。
「んっ……熱いっ」
「ほら、こぼさないようにな」
「……丈、ありがとう……いい香りだ」
薙がいることも忘れ、私の胸に体重を預けてくる恋人の唇を、つい軽く奪ってしまった。
「あ……っ」
下半身に響く寝起きの洋の少し気怠げな声に、煽られそうになるのをぐっと我慢した。まったく洋の無自覚の色気から気をそらすのは、本当に至難の業だ。
「続きは夜だ。私は今から翠兄さんを迎えに行ってくるから」
「あっそうか……翠さんもう退院できそうか」
「おそらくな。傷は大したことなかったし、おそらく昨夜沢山消毒してもらえ栄養も取ったはずだ」
「え? あっ……そうか、なるほど……全く丈はずいぶん開けっ広げだな」
やっと目覚めた洋が私のことをじっと見つめ、美しい目を細めて苦笑した。
「どうとでも。弟として出来ることは全てしたし、コツも伝授した。なんなら洋も今度入院してみるか。手厚い対応を約束するぞ」
「ばっ、馬鹿っ、それって職権乱用だろう!」
「くくっ……どうだろうな。おっと、痛っ! 洋は最近狂暴になったな」
呆れ顔の洋に小突かれ、わざと痛いふりをして笑った。
「ねぇ~もういい加減にしてくれよぉ。聞いているこっちが恥ずかしいよ」
薙の叫び声に、洋と顔を見合わせて笑った。
「私たちは、もしかして酷い大人か」
「あぁ本当に……未成年に対して精神衛生上良くないって奴だよ、ははっ」
酷い夜から一夜明ければ、こんなにも明るい朝がやってきた。
私たちには、お互いに思い合うことで見える光がある。
その光に向かって、前に進んで行く気持ちがあるから、乗り越えられるものがあるのだ。
そのことに気が付いた、眩しい朝だった。
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