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12章
番外編SS 安志×涼 「クリスマス・イブ」5
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安志さんの家へ向かう道すがら何度も電話をしたのに、繋がらなかった。メッセージも、既読にならない。
どこかに出かけているのかもしれない。
もしかしたら……僕が会えないと言ったから、予定を入れてしまったのか。 こんな日に一体誰と会っているのだろう。
安志さんがよくモテるのは、知っている。
誰にでも優しく大らかな性格。それでいて男らしい風貌で実直な感じだから。約束はしていなくても会社帰りに誰かに誘われたとか。大いにありうるよな。
どうしよう。家まで行っていなかったらかなりショックだ。いやきっと風呂に入っているに違いない。そう信じたい。
安志さんの家へは、いつも決まった道を通る。
国道に面した大通り、そこには大きなバス停があった。今日もその手前まで行き、何気なく遠目でその白く光る照明の下の広告を見つめた。
あっまずい……あれは僕の広告だ。
見覚えのかるセーターに赤いマフラーをして、女の子と微笑みあっている。よりによってこのバス停の広告になるなんて信じられないよ。安志さん……もう気が付いてしまったかな。
「ねっ、あの広告の男の子すごく可愛いよね~」
「そうかぁ?」
通り縋りのカップルが指さしてそんな会話をしているのが聞こえてきたので、慌ててフードを被り直した。夜道だからって油断ならない。騒がれるようなことになって、安志さんに迷惑をかけることだけは避けたい。
念のため、この道はやめておこう。
もう一本内側の道に迂回して、僕は走った。
安志さんの元へ、まっしぐらに。
「安志さん、お願いだからいてくれ」
そう願いを込めてインターホンを押した。
なのに返答がない。
こんな夜中に近所迷惑だと思いながらも、もう一度押すが、やはり何の反応もなかった。
「え……本当に……いないなんて」
ここに来るまでに頭の中で渦巻いていたよからぬ妄想が、現実となって襲い掛かって来た。
僕だけを待っていてくれると信じていた人がいなかったのに、少なからずショックを受けた。
僕はそのままマンションの扉に背を預けるようにして、ズルズルとしゃがみ込んでしまった。
どうしよう、帰ろうか……一体何処に行ってしまったんだろう。どうして携帯に出てくれないんだよ。せめて連絡だけでもつけばいいのに。
もしかして女の人とデート中とか。
いや安志さんに限ってそれはないだろう。安志さんは僕だけを見てくれるのが当たり前の、誠実な人だから。
急にゾクッとした。
あ……僕は今。何を考えた?
僕はいつも……こんなに偉そうな考えをいつもしていたのか。
自分のおこがましい考えに気付いて、呆然としてしまった。
僕はいつだって安志さんを頼り、その懐に甘えていた。
自分のスケジュールばかり優先しても、いつだって安志さんは納得してくれた。だから調子に乗っていい加減な約束をしたこともある。急に入る撮影で、デートをキャンセルしたことだって片手では済まない。
それでもいつも優しく「しょうがないよ。仕事だろ」と慰めてくれた安志さんの顔を思い出した。
僕は安志さんの気持ちを、聞いたことがあるか。
本音を言ってもらっていたのか。
安志さん……十歳の歳の差は思ったよりキツイよ。僕は安志さんに追いつこうと必死だし、安志さんは大人でいなくてはいけないから。
くやしいのか寂しいのか分からなくて……涙が滲む。
今日ならお互い年の差の垣根を越えてぶつかり合えるかも。
それには安志さんがいてくれなきゃ駄目なんだ。
どうにもならない怒り、悲しみに襲われ、とうとう膝を抱えて泣いてしまった。こんな場所で泣いたら迷惑になる、そう思うのにもう止まらなかった。
「くっ……うっ…」
今日はクリスマス・イブ。
街には恋人たちが溢れていた。
なのに……僕は今……独りだ。
すごくすごく……寂しい。
安志さんもこんな気持ちだった?
安志さん……
出来れば、今すぐ会いたい。
出来れば、ずっと傍にいて欲しい。
どこかに出かけているのかもしれない。
もしかしたら……僕が会えないと言ったから、予定を入れてしまったのか。 こんな日に一体誰と会っているのだろう。
安志さんがよくモテるのは、知っている。
誰にでも優しく大らかな性格。それでいて男らしい風貌で実直な感じだから。約束はしていなくても会社帰りに誰かに誘われたとか。大いにありうるよな。
どうしよう。家まで行っていなかったらかなりショックだ。いやきっと風呂に入っているに違いない。そう信じたい。
安志さんの家へは、いつも決まった道を通る。
国道に面した大通り、そこには大きなバス停があった。今日もその手前まで行き、何気なく遠目でその白く光る照明の下の広告を見つめた。
あっまずい……あれは僕の広告だ。
見覚えのかるセーターに赤いマフラーをして、女の子と微笑みあっている。よりによってこのバス停の広告になるなんて信じられないよ。安志さん……もう気が付いてしまったかな。
「ねっ、あの広告の男の子すごく可愛いよね~」
「そうかぁ?」
通り縋りのカップルが指さしてそんな会話をしているのが聞こえてきたので、慌ててフードを被り直した。夜道だからって油断ならない。騒がれるようなことになって、安志さんに迷惑をかけることだけは避けたい。
念のため、この道はやめておこう。
もう一本内側の道に迂回して、僕は走った。
安志さんの元へ、まっしぐらに。
「安志さん、お願いだからいてくれ」
そう願いを込めてインターホンを押した。
なのに返答がない。
こんな夜中に近所迷惑だと思いながらも、もう一度押すが、やはり何の反応もなかった。
「え……本当に……いないなんて」
ここに来るまでに頭の中で渦巻いていたよからぬ妄想が、現実となって襲い掛かって来た。
僕だけを待っていてくれると信じていた人がいなかったのに、少なからずショックを受けた。
僕はそのままマンションの扉に背を預けるようにして、ズルズルとしゃがみ込んでしまった。
どうしよう、帰ろうか……一体何処に行ってしまったんだろう。どうして携帯に出てくれないんだよ。せめて連絡だけでもつけばいいのに。
もしかして女の人とデート中とか。
いや安志さんに限ってそれはないだろう。安志さんは僕だけを見てくれるのが当たり前の、誠実な人だから。
急にゾクッとした。
あ……僕は今。何を考えた?
僕はいつも……こんなに偉そうな考えをいつもしていたのか。
自分のおこがましい考えに気付いて、呆然としてしまった。
僕はいつだって安志さんを頼り、その懐に甘えていた。
自分のスケジュールばかり優先しても、いつだって安志さんは納得してくれた。だから調子に乗っていい加減な約束をしたこともある。急に入る撮影で、デートをキャンセルしたことだって片手では済まない。
それでもいつも優しく「しょうがないよ。仕事だろ」と慰めてくれた安志さんの顔を思い出した。
僕は安志さんの気持ちを、聞いたことがあるか。
本音を言ってもらっていたのか。
安志さん……十歳の歳の差は思ったよりキツイよ。僕は安志さんに追いつこうと必死だし、安志さんは大人でいなくてはいけないから。
くやしいのか寂しいのか分からなくて……涙が滲む。
今日ならお互い年の差の垣根を越えてぶつかり合えるかも。
それには安志さんがいてくれなきゃ駄目なんだ。
どうにもならない怒り、悲しみに襲われ、とうとう膝を抱えて泣いてしまった。こんな場所で泣いたら迷惑になる、そう思うのにもう止まらなかった。
「くっ……うっ…」
今日はクリスマス・イブ。
街には恋人たちが溢れていた。
なのに……僕は今……独りだ。
すごくすごく……寂しい。
安志さんもこんな気持ちだった?
安志さん……
出来れば、今すぐ会いたい。
出来れば、ずっと傍にいて欲しい。
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