重なる月

志生帆 海

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12章

番外編SS 安志×涼 「クリスマス・イブ」1

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 予告通り、番外編で「安志×涼のクリスマスイブ」をお届けします。
 BGMには、ぜひバックナンバーのクリスマスソングをおすすめします♪
 以前読者さんから安志と涼のイメージソングだとコメントいただいたもので、こんなお話を作ってみたくなりました。




****

『クリスマス・イブ』安志×涼 番外編

「そうか、会えないのか……俺は大丈夫だ。涼は仕事を精一杯頑張れよ」

 涼との電話を切った。
 物分かりのいい大人を精一杯演じた。

 もう2週間も涼と会えていない。というのも最初の1週間は俺が要人警護の仕事で海外に行っていたせいで、帰国してやっと会えると思ったら、今度は涼の方が春物の雑誌の撮影で沖縄に行ってしまったから。

 全く二人してタイミング悪すぎだろ。

 それでやっと涼も東京に戻って来たので会えると思ったら、さっきの電話だ。

 涼が売れっ子モデルなのは、十分理解している。

 涼の方も生半可な気持ちでモデルをしているのではない。仕事として将来を見据え、真剣に臨んでいることだ。

 俺が応援してやらないで、どうする。
 それでもクリスマスイブには、出来れば……会いたかった。

 それが本音だ・

 通話の切れたスマホを手に握り締めたまま、スーツのままソファにもたれ天を仰いだ。

 涼の顔……長く会えないと、このまま忘れてしまいそうだ。

 弱気な俺……らしくない言葉。最近は、すれ違いばかりだな。

 ネクタイを緩めながら、ポストから持っていた新聞や手紙を確認すると、ダイレクトメールに紛れて、洋からのクリスマスカードを見つけた。

……
Dear.Anji

May the holiday season bring happiness and joy to you and your loved ones.

From.you
……

「クリスマスが、あなたとあなたの愛する人に喜びを運びますように」か。

洋らしいよ。いつだってあいつは……自分よりも周りの幸せを願う奴。

 洋、俺は今、幸せだ。
 でも幸せだから、欲張りになっている。

 洋の従兄弟の涼と出逢えたことだけでも奇跡なのに、その涼が俺を好きになってくれて、躰も繋げてくれた。それだけでも信じられないほど有難いことだと分かっているくせに、どんどん欲張りになってしまっているよ。

 いつだって俺の傍にいて欲しい。

 そんなの無理なのに、束縛するような言葉は絶対使いたくないのに……本当は心の中で、いつもそう思っている。

 とにかく涼とは、クリスマスイブもクリスマスも会えないことが決定してしまった。スタジオに籠って2日間撮影で、いつ終わるか未定だなんて、最低な事務所だ。

 くそっ! その事実に今日は激しく打ちのめされた。

 ビールを片手に、当てもなくバラエティ番組を見て一人で虚しく笑った。そうでもしていないと、寂しさが込み上げて柄にもなく泣いてしまいそうだったから。

 涼と出逢って……涼がいる毎日を知って……俺は変わった。

 深く自覚してしまった。

「涼、本当は会いたいよ……」

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