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12章
僕の光 6
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長い廊下だ。
オレたちの前を力強く歩んで行くのは、父さんを横抱きにした流さん。
さっきからオレの心は、不思議と凪いでいた。
父さん……あんな気色悪い変態野郎にずっと一方的に想われ、ちょっかいを出され続けていたなんて。聞けば高校時代から目を付けられ、数回に渡り性的ないざこざがあったそうだから……とうとう耐え切れなくなって……だから月影寺を出て母さんと結婚したのか。
幼い頃は父さんの心がいつも遠くを彷徨っているように感じ、寂しく思ったこともあった。だからそのまま離婚してしまった父さんを恨んだ期間も長く、つい最近までその気持ちは根強く残っていた。
だが今日この大事件……オレも危うく被害者になりうる立場を経験してしまったから……父さんが逃げ出したくなった気持ちも分かる。
人はその人が耐え切れないほどの恐怖や嫌な目に遭うと……何もかも投げ出して逃避したくなるものだと知った。
だからそのことを同じ体験をしていない人が、無暗に責めることなんて出来ないのでは……たとえその行動が理に反していたり、自分勝手な行動に見えても……今度からは正論で追い詰め責めたりしたくない。
オレもさっき両手と両足を縛られた状況で、アイツがニヤニヤと下劣な笑みを浮かべながら近づいて来た時、本気でぞっとし、とにかく拓人を置いてでも逃げ出したいと思ってしまったんだ。恥ずかしい話だが、自分だけでも助かりたいと……
もしもあのタイミングで父さんが来てくれなかったら、オレが身代わりになってしまったかもしれない。
今流さんの腕の中で気絶しているのは、オレだったかもしれないと思うと、吐きそうだ。
とにかく本当に怖かった。拓人には不思議とあんな状況でも恐怖心を抱かなかったのに、克哉は違った。どうしようもない悪人だと思った。警察に逮捕されて当然だ。然るべき罪を負わせて欲しい。もう二度とオレたちの前に現れないで欲しい。刑務所から出て来るな!
何故か流さんに守られるように抱かれている父さんを見て、ほっとした。
父さんは、ずっとひとりで頑張ってきた人だった。
この人は、オレをこの世に生み出してくれた人だ。
望まれて生まれた子供でなかったと恨む時期もあったけれども、今は違うよ。
父さんは父さんなりに想いを託して、オレを育ててくれた。
感じるんだ。心に響くんだ。
父さんの息子への愛が、今ならちゃんと!
父さんが薙ぎ倒せなかったもの、オレが倒す。
だから父さんはもう……自分だけの幸せを掴んで欲しいよ。
たとえ、それが実の弟との恋だとしてもさ、オレちゃんと秘密にするから。ずっと蓄積されてきた二人の関係への疑問が、さっき、うなされる父さんの額にキスした流さんを見て、あぁそっか……とストンと落ちたんだよ。
そうか……二人はそういう仲なのか。
驚きや戸惑いが全くなかったわけじゃない。
男同士だし、実の弟って駄目だよな? と、ビビる気持ちも勿論ある。
でも今はそんな常識よりも、あんな目にあった父さんの砕けそうな心を支えてくれる人がすぐ傍にいてくれて良かったと思えるんだ。
そしてその相手が、オレの大好きな流さんだってことも……安心できる要因だ。
少しだけ寂しいのは、オレも流さんのこと少しだけ好きだったからかな。
淡い恋だったのか、信頼だったのかも分からないが……不思議と父さんに取られたという気持ちにはならなかった。
洋さんが心配そうに、ちらちらとオレの表情を伺っている。
「薙くん……あの……大丈夫? 」
「うん、大丈夫だった」
なんとも曖昧な言葉しか返せなかったが、洋さんはオレの表情からすべてを悟ってくれたようだった。
オレたちの前を力強く歩んで行くのは、父さんを横抱きにした流さん。
さっきからオレの心は、不思議と凪いでいた。
父さん……あんな気色悪い変態野郎にずっと一方的に想われ、ちょっかいを出され続けていたなんて。聞けば高校時代から目を付けられ、数回に渡り性的ないざこざがあったそうだから……とうとう耐え切れなくなって……だから月影寺を出て母さんと結婚したのか。
幼い頃は父さんの心がいつも遠くを彷徨っているように感じ、寂しく思ったこともあった。だからそのまま離婚してしまった父さんを恨んだ期間も長く、つい最近までその気持ちは根強く残っていた。
だが今日この大事件……オレも危うく被害者になりうる立場を経験してしまったから……父さんが逃げ出したくなった気持ちも分かる。
人はその人が耐え切れないほどの恐怖や嫌な目に遭うと……何もかも投げ出して逃避したくなるものだと知った。
だからそのことを同じ体験をしていない人が、無暗に責めることなんて出来ないのでは……たとえその行動が理に反していたり、自分勝手な行動に見えても……今度からは正論で追い詰め責めたりしたくない。
オレもさっき両手と両足を縛られた状況で、アイツがニヤニヤと下劣な笑みを浮かべながら近づいて来た時、本気でぞっとし、とにかく拓人を置いてでも逃げ出したいと思ってしまったんだ。恥ずかしい話だが、自分だけでも助かりたいと……
もしもあのタイミングで父さんが来てくれなかったら、オレが身代わりになってしまったかもしれない。
今流さんの腕の中で気絶しているのは、オレだったかもしれないと思うと、吐きそうだ。
とにかく本当に怖かった。拓人には不思議とあんな状況でも恐怖心を抱かなかったのに、克哉は違った。どうしようもない悪人だと思った。警察に逮捕されて当然だ。然るべき罪を負わせて欲しい。もう二度とオレたちの前に現れないで欲しい。刑務所から出て来るな!
何故か流さんに守られるように抱かれている父さんを見て、ほっとした。
父さんは、ずっとひとりで頑張ってきた人だった。
この人は、オレをこの世に生み出してくれた人だ。
望まれて生まれた子供でなかったと恨む時期もあったけれども、今は違うよ。
父さんは父さんなりに想いを託して、オレを育ててくれた。
感じるんだ。心に響くんだ。
父さんの息子への愛が、今ならちゃんと!
父さんが薙ぎ倒せなかったもの、オレが倒す。
だから父さんはもう……自分だけの幸せを掴んで欲しいよ。
たとえ、それが実の弟との恋だとしてもさ、オレちゃんと秘密にするから。ずっと蓄積されてきた二人の関係への疑問が、さっき、うなされる父さんの額にキスした流さんを見て、あぁそっか……とストンと落ちたんだよ。
そうか……二人はそういう仲なのか。
驚きや戸惑いが全くなかったわけじゃない。
男同士だし、実の弟って駄目だよな? と、ビビる気持ちも勿論ある。
でも今はそんな常識よりも、あんな目にあった父さんの砕けそうな心を支えてくれる人がすぐ傍にいてくれて良かったと思えるんだ。
そしてその相手が、オレの大好きな流さんだってことも……安心できる要因だ。
少しだけ寂しいのは、オレも流さんのこと少しだけ好きだったからかな。
淡い恋だったのか、信頼だったのかも分からないが……不思議と父さんに取られたという気持ちにはならなかった。
洋さんが心配そうに、ちらちらとオレの表情を伺っている。
「薙くん……あの……大丈夫? 」
「うん、大丈夫だった」
なんとも曖昧な言葉しか返せなかったが、洋さんはオレの表情からすべてを悟ってくれたようだった。
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