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12章
僕の光 5
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流さんに横抱きにされ部屋から出て来た父さんの顔色は、蒼白だった。
目を閉じて疲れ果てた様子で流さんの胸に寄りかかっている痛ましい姿を見るのは、辛かった。
オレが軽率に渋谷に遊びに来たせいで、父さんを、とんでもないことに巻き込んでしまった。
「父さん……ごめんなさい」
父さんは、オレの声に反応するようにゆっくりと瞼を開いた。それからゆっくりと手を差し出してくれたので、握りしめた。父さんの温もりを感じてほっとする……父さんに触れることが出来て、素直に嬉しいと思えた。
「父さん……大丈夫なの? 」
「うっ……薙……怪我はないか。僕のせいで……怖い目に遭わせて……ごめん」
父さんの手首には血が滲んだ深い擦り傷があって、あの部屋で何をされたのかと想像し、また涙が溢れてしまった。
「オレは……なんともないよ。拓人が助けてくれた」
「……そうか、よかった……本当に……薙……僕の大事な息子……無事でよかった……」
ほっとしたのか、父さんの手がずるりと下へ降り、そのまま意識を失ってしまった。
「さぁ早く病院へ行くぞ。薙も帰るぞ」
流さんに促され、オレは洋さんと一緒に車に乗ることにした。
「薙……ごめんな。さっきのあれ……忘れてくれ。あんなことするなんて、どうかしてた」
車に乗ろうとすると、拓人に呼び止められた。拓人は頭を下げてさっきキスしたことを真摯に詫びて来た。
あのことか……あれは確かにびっくりしたが、それよりも拓人の躰が凍えるように冷たかったことに驚いたので、正直、あまりよく覚えていない。
「拓人……分かった、大丈夫だ。オレは、まだそういうことは正直よく分からない……ごめん。でも……お前のこと、嫌いじゃないよ」
「ありがとう……それで充分過ぎるよ。薙……俺とまだ友達でいてもらえるか」
「当たり前だ! お前は大事な奴だよ」
真っ赤な目をして見つめ合うと、泣き笑いのような曖昧な表情をお互い浮かべていた。
「拓人……お前、ずっと緊張して過ごしていたんだな。少しも気が付いてやれなくてごめん。これからは達哉さんがついていてくれるから、安心だな」
「おう、俺が責任を持って拓人をいい男に育てるぞ」
達哉さんのお陰で、少しだけ和やかに別れることが出来た。
****
丈の運転で、車は一路、鎌倉方面へと戻って行く。
早く……早くここから離れたい。誰もがそう願っていただろう。
薙くんの無事を確かめた途端、翠さんは意識を失ってしまった。よほど怖い目に、そして張り詰めていたのだろう。丈からは最悪の事態は逃れたが、かなり際どく危うかったと聞いている。
流さんの胸に身を預けた翠さんの寝息は、今は規則正しい。きっと流さんの心臓の音を子守歌代わりにしているからだろう。
二人の隣に、薙くんが神妙な顔で座っている。彼も今日は本当に怖い目に遭った。思い出しているのか、まだ微かに震える手が痛ましいよ。
本当に……なんという一日だったのか。
でも結果的には、克哉はとうとう警察沙汰になった。ついに司法に裁かれるだろう。過去の経緯も全部清算して欲しい。
これで翠さんの長年の悩みや恐怖も消化されるといいのだが……もう二度と脅かさないで欲しい。
俺たち月影寺の男たちを……穢すことは許さない!
一旦車は翠さんの治療をするために、丈が働いている大船の病院に立ち寄った。そしてすぐにナースステーションで、なにやら丈が交渉してくれた。
「流兄さん、やはり今日は翠兄さんを入院させましょう。意識も失ってしまったし……状態から、化膿止めの点滴や精神安定薬も少し使った方がいいようです」
「あぁ分かった。全部丈の言う通りにする。だが兄さんを一人にしたくない」
流さんも納得している。ここは丈にすべて任せた方がいい。
「あぁその点は大丈夫です。個室を用意できましたので、流兄さんは付き添って泊ってください」
「そうなのか。丈……お前、気が利くな」
「ええ、まぁ」
それがいいと思った。
ふたりだけの時間が必要だ、今は……。
一旦、皆、車を降りて……翠さんを個室へ連れて行くために、長い廊下を歩いた。
丈は治療の準備と薬の手配に行ったので、翠さんを横抱きにした流さんの後ろを、薙くんとふたりで歩いた。
すると突然、翠さんが怯えた声をあげた。悲鳴にも似た叫び声だった。
「あぁ嫌だ! やめろっ!」
その悪夢の内容を想像すると、胸が塞がった。
「翠、落ち着け! 大丈夫だ。俺だ! 俺がいる!」
「怖い……暗い……ここは? あっ……嫌だ」
「翠! 大丈夫だ……翠に触れているのは俺だ」
ジタバタと興奮し暴れ出す翠さんに、流さんが宥めるような優しい口調で話しかけ、その額にふわりとキスを落とした。
その様子は……離れて後ろを歩いていた俺たちにも届いた。
「あっ……」
どうやら薙くんもばっちり見てしまったようだ。
まずいかな?
ちらっと確認すると、薙くんは多少驚いてはいたが妙に納得したような顔つきだった。
気付いてしまっただろうか……
翠さんと流さんが、心の底から愛しあっていることを。
目を閉じて疲れ果てた様子で流さんの胸に寄りかかっている痛ましい姿を見るのは、辛かった。
オレが軽率に渋谷に遊びに来たせいで、父さんを、とんでもないことに巻き込んでしまった。
「父さん……ごめんなさい」
父さんは、オレの声に反応するようにゆっくりと瞼を開いた。それからゆっくりと手を差し出してくれたので、握りしめた。父さんの温もりを感じてほっとする……父さんに触れることが出来て、素直に嬉しいと思えた。
「父さん……大丈夫なの? 」
「うっ……薙……怪我はないか。僕のせいで……怖い目に遭わせて……ごめん」
父さんの手首には血が滲んだ深い擦り傷があって、あの部屋で何をされたのかと想像し、また涙が溢れてしまった。
「オレは……なんともないよ。拓人が助けてくれた」
「……そうか、よかった……本当に……薙……僕の大事な息子……無事でよかった……」
ほっとしたのか、父さんの手がずるりと下へ降り、そのまま意識を失ってしまった。
「さぁ早く病院へ行くぞ。薙も帰るぞ」
流さんに促され、オレは洋さんと一緒に車に乗ることにした。
「薙……ごめんな。さっきのあれ……忘れてくれ。あんなことするなんて、どうかしてた」
車に乗ろうとすると、拓人に呼び止められた。拓人は頭を下げてさっきキスしたことを真摯に詫びて来た。
あのことか……あれは確かにびっくりしたが、それよりも拓人の躰が凍えるように冷たかったことに驚いたので、正直、あまりよく覚えていない。
「拓人……分かった、大丈夫だ。オレは、まだそういうことは正直よく分からない……ごめん。でも……お前のこと、嫌いじゃないよ」
「ありがとう……それで充分過ぎるよ。薙……俺とまだ友達でいてもらえるか」
「当たり前だ! お前は大事な奴だよ」
真っ赤な目をして見つめ合うと、泣き笑いのような曖昧な表情をお互い浮かべていた。
「拓人……お前、ずっと緊張して過ごしていたんだな。少しも気が付いてやれなくてごめん。これからは達哉さんがついていてくれるから、安心だな」
「おう、俺が責任を持って拓人をいい男に育てるぞ」
達哉さんのお陰で、少しだけ和やかに別れることが出来た。
****
丈の運転で、車は一路、鎌倉方面へと戻って行く。
早く……早くここから離れたい。誰もがそう願っていただろう。
薙くんの無事を確かめた途端、翠さんは意識を失ってしまった。よほど怖い目に、そして張り詰めていたのだろう。丈からは最悪の事態は逃れたが、かなり際どく危うかったと聞いている。
流さんの胸に身を預けた翠さんの寝息は、今は規則正しい。きっと流さんの心臓の音を子守歌代わりにしているからだろう。
二人の隣に、薙くんが神妙な顔で座っている。彼も今日は本当に怖い目に遭った。思い出しているのか、まだ微かに震える手が痛ましいよ。
本当に……なんという一日だったのか。
でも結果的には、克哉はとうとう警察沙汰になった。ついに司法に裁かれるだろう。過去の経緯も全部清算して欲しい。
これで翠さんの長年の悩みや恐怖も消化されるといいのだが……もう二度と脅かさないで欲しい。
俺たち月影寺の男たちを……穢すことは許さない!
一旦車は翠さんの治療をするために、丈が働いている大船の病院に立ち寄った。そしてすぐにナースステーションで、なにやら丈が交渉してくれた。
「流兄さん、やはり今日は翠兄さんを入院させましょう。意識も失ってしまったし……状態から、化膿止めの点滴や精神安定薬も少し使った方がいいようです」
「あぁ分かった。全部丈の言う通りにする。だが兄さんを一人にしたくない」
流さんも納得している。ここは丈にすべて任せた方がいい。
「あぁその点は大丈夫です。個室を用意できましたので、流兄さんは付き添って泊ってください」
「そうなのか。丈……お前、気が利くな」
「ええ、まぁ」
それがいいと思った。
ふたりだけの時間が必要だ、今は……。
一旦、皆、車を降りて……翠さんを個室へ連れて行くために、長い廊下を歩いた。
丈は治療の準備と薬の手配に行ったので、翠さんを横抱きにした流さんの後ろを、薙くんとふたりで歩いた。
すると突然、翠さんが怯えた声をあげた。悲鳴にも似た叫び声だった。
「あぁ嫌だ! やめろっ!」
その悪夢の内容を想像すると、胸が塞がった。
「翠、落ち着け! 大丈夫だ。俺だ! 俺がいる!」
「怖い……暗い……ここは? あっ……嫌だ」
「翠! 大丈夫だ……翠に触れているのは俺だ」
ジタバタと興奮し暴れ出す翠さんに、流さんが宥めるような優しい口調で話しかけ、その額にふわりとキスを落とした。
その様子は……離れて後ろを歩いていた俺たちにも届いた。
「あっ……」
どうやら薙くんもばっちり見てしまったようだ。
まずいかな?
ちらっと確認すると、薙くんは多少驚いてはいたが妙に納得したような顔つきだった。
気付いてしまっただろうか……
翠さんと流さんが、心の底から愛しあっていることを。
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