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12章
僕の光 4
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俺と丈は高速道路をひた走り、翠さんの元へと急いだ。
そんな緊張が走る中、沈黙を破るように丈が口を開いた。
「洋、安志くんに電話をしてくれ。もし彼が駆けつけられそうだったら克哉のマンションまで来てもらいたい。頼みたいんだ」
「俺もそう思った! 安志はボディガードの仕事もしているし、きっと助けになってくれる! 」
丈の提案に従い連絡すると、安志はたまたま今日は横浜支社でなく東京本社にいるとのことでタイムリーだった。渋谷まで近いので、すぐに掛けつけてくれるそうだ。このタイミングなら流さんたちと会えるはずだ。
頼む! どうか間に合いますように!
指を祈るように組んで眉間に当てた。
「洋、大丈夫だ。きっと間に合う」
丈が力強く励ましてくれるので、俺も希望を持てた。
丈の言霊の威力は凄い。
****
俺たちが到着したのは、安志と流さんが突入した少し後のようだった。渋滞にも巻き込まれずに最短で到着出来たのは良かった。教えてもらった部屋番号のドアを開けると、中から揉み合う声が聞こえて驚いたが……さっき安志との電話で、たまたま同行していた刑事にも来てもらえると教えてもらっていたので、大丈夫だと思った。
罵声が聴こえるのは、廊下の突き当り右の部屋だ。
その手前の部屋を覗くと、薙がいた。そして……友人の拓人くん、その横にもう一人、大人の男性が立っていた。この人はおそらく流さんと一緒に駆けつけてくれた克哉の兄、達哉さんだろう。
「洋は薙をみてくれるか。私は兄の所に行ってくるから」
丈がポンっと俺の肩に手をあてた。
それがいい。丈のお兄さんのことだ。まず丈が助けになって欲しい。それに丈は医者だから、きっと頼りになる。
丈が鞄から医師の身分証と応急セットを取り出し部屋へを消えて行くのを見送ってから、俺は薙の元に駆け寄った。
「洋さんっ」
「薙くん、怖かったね」
薙くんはいつもの突っ張った所は微塵もなく、俺にぎゅっと幼子のように抱き着いてきた。その目は泣きはらしたように真っ赤だった。
「怪我はない? 」
「父さんは……父さんはどうなの? 怪我してないのか……辛そうな声が……ずっと聴こえていたんだ。でも助けられなくて……ごめんなさい」
「きっと間に合ったよ。ちゃんと助けられた。そして今、丈が診察しているよ」
「俺のために、父さんが……信じられない。あんな奴と……あんな奴に父さんがずっと追いかけまわされていたなんて……知らなかった。正直……気持ち悪いよ」
どうやら薙くんは、翠さんと克哉の確執を知ってしまったようだ。信じられない思いで一杯だろう。
男が男に性的に一方的に思われ、どんなに拒絶しても追いかけてくる。それがどんなに恐ろしいことかを、俺は知っている。
やがてパトカーのサイレンと共に警察官数人もドタバタと介入し、暴言を吐きまくる克哉を現行犯逮捕していった。その様子をじっと蹲って眺めていた拓人くんが、突然立ち上がって叫んだ。
「ちょっと待ってください! 俺も同罪です。父さんの言うことに逆らえなかったとはいえ、薙を呼び出して監禁したのは俺なんだ!」
「馬鹿! 拓人!」
それをすかさず薙が制する。
「薙、邪魔すんなよ! 俺がしたことは事実だろう。お前も証言してくれよ」
「違う、拓人は利用されただけだ。ちゃんと俺を助けてくれた」
「いや罪を犯した点では同じだ。父さんと」
「何も犯してない。お前は俺の親友だろ」
「薙……」
そんな揉み合いに気が付いたらしく……安志が連れて来たと思われる若い刑事が二人の仲裁に入ってくれた。
「少し落ち着いて。君たちは何歳? 」
「……14です」
「うんそうか。君が翠さんの息子の薙くんだね。それから君が逮捕された人物の息子か」
「はい……義理の息子です。母の再婚相手で……今回の件を手伝いました」
「何を手伝ったのかな」
「薙を渋谷に連れ出して、父が待つ喫茶店に連れて行ったことと、縛られて監禁された薙の見張りをしました……」
「薙くんはもう縛られていないようだが、君が外したのかな」
「……はい」
「コイツは俺のこと助けてくれたんです」
「なるほど、だいたいの事情は分かったよ。君たちのことは保護者の方と相談して考えていこう……」
そこまでの様子を聞いていた達哉さんが、話に介入した。
「すいません、さっき逮捕された克哉の兄です」
「あぁ通報してくれた方ですね」
「はい、あの……この子……拓人の保護者代理は私がします」
「なるほど、失礼ですが彼の母親は? 」
「夏に交通事故で亡くなっているのです。それできっと……克哉の要求に逆らえなかったのです」
「うん、そうか……拓人くん、良かったね。君には味方が沢山いるな。君たちの調書は後日で大丈夫だ。今日は疲れただろう。もうお帰り」
刑事さんが爽やかな笑顔を向けると、拓人くんは大きく泣いた。ほっとしたのだろう。怖かったのだろう。まだたった14歳だ。そんな多感な時期に母親が亡くなってしまう痛手は、俺にもよく分かる。
「達哉さん……あの、俺は……」
「知っているよ。翠の一番下の弟の洋くんだろう」
「あっ……はい」
「あいつが先日、自慢話をしてくれたよ。よく気が付く優しい子だと」
「そうなんですか」
達哉さんという人は、弟の克哉とは似ても似つかない温厚そうな人だ。聞けば鎌倉でも有名な建海寺の住職で、そんな人が拓人くんの後見人になってくれるのは心強い。
「さぁ、翠が騎士に守られて来たぞ。俺たちも帰ろう、それぞれの家に……拓人、お前は今日から俺と暮らさないか」
「え……いいんですか」
「あぁ、克哉が逮捕された今……克哉の両親と暮らすのは酷だろう。君の幼い弟や妹のこともゆっくり考えていこうな」
「あ……りがとうございます」
拓人はぽろぽろと泣くと、達哉さんが大きな手で髪をくしゃっと撫でてやっていた。
「まだ君はたった14歳じゃないか。これからの人生が沢山あるんだぞ。今日君が縛られた薙くんを助けたという行為……本当に良いことをしたな。だから君の運は開けていくよ。いい方に……そう信じて生きろ! サポートしてやるから」
「は……い、ありがとうございます。こんな俺に……」
拓人くんは、良い後見人を手に入れた。
そんな光景に、俺は胸を撫で下ろした。
そんな緊張が走る中、沈黙を破るように丈が口を開いた。
「洋、安志くんに電話をしてくれ。もし彼が駆けつけられそうだったら克哉のマンションまで来てもらいたい。頼みたいんだ」
「俺もそう思った! 安志はボディガードの仕事もしているし、きっと助けになってくれる! 」
丈の提案に従い連絡すると、安志はたまたま今日は横浜支社でなく東京本社にいるとのことでタイムリーだった。渋谷まで近いので、すぐに掛けつけてくれるそうだ。このタイミングなら流さんたちと会えるはずだ。
頼む! どうか間に合いますように!
指を祈るように組んで眉間に当てた。
「洋、大丈夫だ。きっと間に合う」
丈が力強く励ましてくれるので、俺も希望を持てた。
丈の言霊の威力は凄い。
****
俺たちが到着したのは、安志と流さんが突入した少し後のようだった。渋滞にも巻き込まれずに最短で到着出来たのは良かった。教えてもらった部屋番号のドアを開けると、中から揉み合う声が聞こえて驚いたが……さっき安志との電話で、たまたま同行していた刑事にも来てもらえると教えてもらっていたので、大丈夫だと思った。
罵声が聴こえるのは、廊下の突き当り右の部屋だ。
その手前の部屋を覗くと、薙がいた。そして……友人の拓人くん、その横にもう一人、大人の男性が立っていた。この人はおそらく流さんと一緒に駆けつけてくれた克哉の兄、達哉さんだろう。
「洋は薙をみてくれるか。私は兄の所に行ってくるから」
丈がポンっと俺の肩に手をあてた。
それがいい。丈のお兄さんのことだ。まず丈が助けになって欲しい。それに丈は医者だから、きっと頼りになる。
丈が鞄から医師の身分証と応急セットを取り出し部屋へを消えて行くのを見送ってから、俺は薙の元に駆け寄った。
「洋さんっ」
「薙くん、怖かったね」
薙くんはいつもの突っ張った所は微塵もなく、俺にぎゅっと幼子のように抱き着いてきた。その目は泣きはらしたように真っ赤だった。
「怪我はない? 」
「父さんは……父さんはどうなの? 怪我してないのか……辛そうな声が……ずっと聴こえていたんだ。でも助けられなくて……ごめんなさい」
「きっと間に合ったよ。ちゃんと助けられた。そして今、丈が診察しているよ」
「俺のために、父さんが……信じられない。あんな奴と……あんな奴に父さんがずっと追いかけまわされていたなんて……知らなかった。正直……気持ち悪いよ」
どうやら薙くんは、翠さんと克哉の確執を知ってしまったようだ。信じられない思いで一杯だろう。
男が男に性的に一方的に思われ、どんなに拒絶しても追いかけてくる。それがどんなに恐ろしいことかを、俺は知っている。
やがてパトカーのサイレンと共に警察官数人もドタバタと介入し、暴言を吐きまくる克哉を現行犯逮捕していった。その様子をじっと蹲って眺めていた拓人くんが、突然立ち上がって叫んだ。
「ちょっと待ってください! 俺も同罪です。父さんの言うことに逆らえなかったとはいえ、薙を呼び出して監禁したのは俺なんだ!」
「馬鹿! 拓人!」
それをすかさず薙が制する。
「薙、邪魔すんなよ! 俺がしたことは事実だろう。お前も証言してくれよ」
「違う、拓人は利用されただけだ。ちゃんと俺を助けてくれた」
「いや罪を犯した点では同じだ。父さんと」
「何も犯してない。お前は俺の親友だろ」
「薙……」
そんな揉み合いに気が付いたらしく……安志が連れて来たと思われる若い刑事が二人の仲裁に入ってくれた。
「少し落ち着いて。君たちは何歳? 」
「……14です」
「うんそうか。君が翠さんの息子の薙くんだね。それから君が逮捕された人物の息子か」
「はい……義理の息子です。母の再婚相手で……今回の件を手伝いました」
「何を手伝ったのかな」
「薙を渋谷に連れ出して、父が待つ喫茶店に連れて行ったことと、縛られて監禁された薙の見張りをしました……」
「薙くんはもう縛られていないようだが、君が外したのかな」
「……はい」
「コイツは俺のこと助けてくれたんです」
「なるほど、だいたいの事情は分かったよ。君たちのことは保護者の方と相談して考えていこう……」
そこまでの様子を聞いていた達哉さんが、話に介入した。
「すいません、さっき逮捕された克哉の兄です」
「あぁ通報してくれた方ですね」
「はい、あの……この子……拓人の保護者代理は私がします」
「なるほど、失礼ですが彼の母親は? 」
「夏に交通事故で亡くなっているのです。それできっと……克哉の要求に逆らえなかったのです」
「うん、そうか……拓人くん、良かったね。君には味方が沢山いるな。君たちの調書は後日で大丈夫だ。今日は疲れただろう。もうお帰り」
刑事さんが爽やかな笑顔を向けると、拓人くんは大きく泣いた。ほっとしたのだろう。怖かったのだろう。まだたった14歳だ。そんな多感な時期に母親が亡くなってしまう痛手は、俺にもよく分かる。
「達哉さん……あの、俺は……」
「知っているよ。翠の一番下の弟の洋くんだろう」
「あっ……はい」
「あいつが先日、自慢話をしてくれたよ。よく気が付く優しい子だと」
「そうなんですか」
達哉さんという人は、弟の克哉とは似ても似つかない温厚そうな人だ。聞けば鎌倉でも有名な建海寺の住職で、そんな人が拓人くんの後見人になってくれるのは心強い。
「さぁ、翠が騎士に守られて来たぞ。俺たちも帰ろう、それぞれの家に……拓人、お前は今日から俺と暮らさないか」
「え……いいんですか」
「あぁ、克哉が逮捕された今……克哉の両親と暮らすのは酷だろう。君の幼い弟や妹のこともゆっくり考えていこうな」
「あ……りがとうございます」
拓人はぽろぽろと泣くと、達哉さんが大きな手で髪をくしゃっと撫でてやっていた。
「まだ君はたった14歳じゃないか。これからの人生が沢山あるんだぞ。今日君が縛られた薙くんを助けたという行為……本当に良いことをしたな。だから君の運は開けていくよ。いい方に……そう信じて生きろ! サポートしてやるから」
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