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12章
僕の光 3
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克哉の罵声が廊下から消え、遠ざかるパトカーのサイレン音に安堵し、身体が脱力してしまった。
「兄さん、震えてるな」
「流……ごめん」
流の心配そうな視線を間近で受け、あぁ本当に助けに来てくれたんだとやっと実感した。
お前にどんなに来て欲しかったか……どんなに助けて欲しかったか。
僕は本当はいつも流のことを待っていたのかもしれない。あの高校時代も……大学時代も。
本当に今日という今日はもう駄目だと思った。なのに最後まで諦めきれなかったのは、躰の中で、流が近づいてくる気配を直感のように感じていたからだ。
そんな風に思えたのは……きっとこの夏、僕と流が同性の壁も兄弟の壁も飛び越え、ひとつに繋がったからだ。僕の中にいつも流がいるような……そんな心強いカケラが僕の躰に植え付けられていたのだ。
先刻までの漆黒の闇に克哉のハァハァと興奮した息遣いが聴こえるだけのおぞましい空間を思い出すと、まだ身震いするが、そこに突如差し込んだ光を思えば落ち着く。
僕は恐怖と安堵の狭間で、まだ揺れて……震えていた。
動かない躰と動かない手で流を呼んだ。早く……早く……僕を抱いて欲しいと。流が僕にかけつけるや否や、真っ先に僕の袈裟を剥き出しの裸体に掛けて僕の尊厳を守ってくれた。
手首を固定していた手錠を解いてくれたのは、意外なことに洋くんの幼馴染の安志くんだった。
いつの間に……今日彼らにどんな伝達が行き渡ったのか、隣室からは洋くんの声も聞こえた。
皆が駆けつけて、僕のために一丸となって助けてくれたのか。
「兄さん……震えているな」
流にきつく抱きしめてもらうと、その反動で、ようやく涙がほろりと零れた。
いい歳してと思うが、年齢なんて関係ない。恐怖を感じる心はいつだって同じだ。袈裟からは流が調合してくれたお香の匂いが立ちこめ、抱きしめてくれている流の匂いも感じられた。
月影寺の慣れた気配を感じ、ようやく本当に深く……心から安堵した。
早く帰りたい……僕の月影寺に。
「翠兄さん……少しいいですか。傷の具合を確認しても? 」
なんと……丈までも駆けつけてくれたのか。弟は立派な外科医だ。こんな悲惨な状態を医師に診てもらうのは恥ずかしくて決まりが悪いことだが、丈は別だ。丈は洋くんのこともあり、様々なケースのケアを学んでいるのだろう。そんな弟に躰を躊躇することなく委ねられるのは、洋くんのおかげでもある。
「いいよ。丈になら」
「丈、頼む。手首とあと……」
流も同意してくれた。
僕の弟たちは、何と頼りになるのか。
「分かっています。確認させてください」
丈は白いシャツを腕まくりしていた。
いつでも最低限の応急処置用品を持ち歩いているのか。僕の手首の傷を素早く応急処置してくれ、更に……下半身の状態も、確認してもらった。
正直、辛い状態だった。下半身の痛みが頭に響く……。
壁際に控えていた刑事とおぼしき人物が尋ねて来た。
「どうですか……傷は?」
「手首の方は、だいぶ抵抗したようで、擦り傷が深いです。後は……無理やり、こじ開けられた形跡があります。一度中まできちんと消毒したいので、私が勤めている大船の病院に寄ってから、自宅に帰宅しようと思います。調書などは後日にしてください」
「そうですね。だいたいのことを当方でも把握確認できたので、今日はご家族で心のケアをしてあげてください。張矢さん、病院で処置の方お願いします」
「了解です」
淡々と刑事と流は会話していた。僕には、その会話に加わる気力が今はない。
克哉の自身のものは中までは挿れられてない。いつそうなってもおかしくない状態だったのに、何故か克哉のモノがなかなか勃起しなかったのが不幸中の幸いなのか。しかも流をするりと迎え入れることの出来る部分も、固く閉じた貝のようだった。
だが……そこを無理矢理こじ開けようと、太い指を差し込まれ、自身の先端を擦りつけられ、最後は機械でいいように弄られてしまったのは、紛れもない事実だ。最後に感じた……この内股の湿り気は、まさか、あいつの……なのか。
あぁこれ以上考えると、発狂しそうだ。
「兄さん、大丈夫ですか。許可が出ました。だから一刻も早く、この忌々しい家から出ましょう」
「そうしてくれ……」
「車まで歩けそうですか」
「わかった」
ところが起き上がろうとしたが、グラリとふらついてしまった。下腹部に鈍痛が走り、克哉の指がまだ躰の内部で蠢いているようで気持ち悪い。あの不気味な感触を思い出し、吐きそうになった。
「うっ……」
「兄さん無理すんな」
流がもう一度すっぽりと袈裟をかけてくれ、そのまま僕をふわりと流に横抱きにした。なんだか恥ずかしい……いろんな人が見ている中そんなことするなんて。
「おっ降ろせ……ひとりで歩ける」
「駄目だ。じっとしていろ。丈も行くぞ。もう帰ろう! 」
「あの……俺が残りの処理はやっておくので、今日は早く翠さんが一番安心できる場所へ連れ帰ってあげてください。経験上……それが一番心のケアになりますから」
安志くん。そうか……君もずっと洋くんのことで悩んでいた一人だったな。
「よしっ、行こう」
「あっ待て……薙……僕の息子は無事か」
「兄さん、震えてるな」
「流……ごめん」
流の心配そうな視線を間近で受け、あぁ本当に助けに来てくれたんだとやっと実感した。
お前にどんなに来て欲しかったか……どんなに助けて欲しかったか。
僕は本当はいつも流のことを待っていたのかもしれない。あの高校時代も……大学時代も。
本当に今日という今日はもう駄目だと思った。なのに最後まで諦めきれなかったのは、躰の中で、流が近づいてくる気配を直感のように感じていたからだ。
そんな風に思えたのは……きっとこの夏、僕と流が同性の壁も兄弟の壁も飛び越え、ひとつに繋がったからだ。僕の中にいつも流がいるような……そんな心強いカケラが僕の躰に植え付けられていたのだ。
先刻までの漆黒の闇に克哉のハァハァと興奮した息遣いが聴こえるだけのおぞましい空間を思い出すと、まだ身震いするが、そこに突如差し込んだ光を思えば落ち着く。
僕は恐怖と安堵の狭間で、まだ揺れて……震えていた。
動かない躰と動かない手で流を呼んだ。早く……早く……僕を抱いて欲しいと。流が僕にかけつけるや否や、真っ先に僕の袈裟を剥き出しの裸体に掛けて僕の尊厳を守ってくれた。
手首を固定していた手錠を解いてくれたのは、意外なことに洋くんの幼馴染の安志くんだった。
いつの間に……今日彼らにどんな伝達が行き渡ったのか、隣室からは洋くんの声も聞こえた。
皆が駆けつけて、僕のために一丸となって助けてくれたのか。
「兄さん……震えているな」
流にきつく抱きしめてもらうと、その反動で、ようやく涙がほろりと零れた。
いい歳してと思うが、年齢なんて関係ない。恐怖を感じる心はいつだって同じだ。袈裟からは流が調合してくれたお香の匂いが立ちこめ、抱きしめてくれている流の匂いも感じられた。
月影寺の慣れた気配を感じ、ようやく本当に深く……心から安堵した。
早く帰りたい……僕の月影寺に。
「翠兄さん……少しいいですか。傷の具合を確認しても? 」
なんと……丈までも駆けつけてくれたのか。弟は立派な外科医だ。こんな悲惨な状態を医師に診てもらうのは恥ずかしくて決まりが悪いことだが、丈は別だ。丈は洋くんのこともあり、様々なケースのケアを学んでいるのだろう。そんな弟に躰を躊躇することなく委ねられるのは、洋くんのおかげでもある。
「いいよ。丈になら」
「丈、頼む。手首とあと……」
流も同意してくれた。
僕の弟たちは、何と頼りになるのか。
「分かっています。確認させてください」
丈は白いシャツを腕まくりしていた。
いつでも最低限の応急処置用品を持ち歩いているのか。僕の手首の傷を素早く応急処置してくれ、更に……下半身の状態も、確認してもらった。
正直、辛い状態だった。下半身の痛みが頭に響く……。
壁際に控えていた刑事とおぼしき人物が尋ねて来た。
「どうですか……傷は?」
「手首の方は、だいぶ抵抗したようで、擦り傷が深いです。後は……無理やり、こじ開けられた形跡があります。一度中まできちんと消毒したいので、私が勤めている大船の病院に寄ってから、自宅に帰宅しようと思います。調書などは後日にしてください」
「そうですね。だいたいのことを当方でも把握確認できたので、今日はご家族で心のケアをしてあげてください。張矢さん、病院で処置の方お願いします」
「了解です」
淡々と刑事と流は会話していた。僕には、その会話に加わる気力が今はない。
克哉の自身のものは中までは挿れられてない。いつそうなってもおかしくない状態だったのに、何故か克哉のモノがなかなか勃起しなかったのが不幸中の幸いなのか。しかも流をするりと迎え入れることの出来る部分も、固く閉じた貝のようだった。
だが……そこを無理矢理こじ開けようと、太い指を差し込まれ、自身の先端を擦りつけられ、最後は機械でいいように弄られてしまったのは、紛れもない事実だ。最後に感じた……この内股の湿り気は、まさか、あいつの……なのか。
あぁこれ以上考えると、発狂しそうだ。
「兄さん、大丈夫ですか。許可が出ました。だから一刻も早く、この忌々しい家から出ましょう」
「そうしてくれ……」
「車まで歩けそうですか」
「わかった」
ところが起き上がろうとしたが、グラリとふらついてしまった。下腹部に鈍痛が走り、克哉の指がまだ躰の内部で蠢いているようで気持ち悪い。あの不気味な感触を思い出し、吐きそうになった。
「うっ……」
「兄さん無理すんな」
流がもう一度すっぽりと袈裟をかけてくれ、そのまま僕をふわりと流に横抱きにした。なんだか恥ずかしい……いろんな人が見ている中そんなことするなんて。
「おっ降ろせ……ひとりで歩ける」
「駄目だ。じっとしていろ。丈も行くぞ。もう帰ろう! 」
「あの……俺が残りの処理はやっておくので、今日は早く翠さんが一番安心できる場所へ連れ帰ってあげてください。経験上……それが一番心のケアになりますから」
安志くん。そうか……君もずっと洋くんのことで悩んでいた一人だったな。
「よしっ、行こう」
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