重なる月

志生帆 海

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12章

僕の光 2

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 扉の向こうには、衝撃の光景が広がっていた。

 暗い部屋の真ん中に、どっしりと置かれたパイプベッド。
 そこに両手首を手錠で繋がれた翠を、確認できた。

 「な……なんてことを」

 恐れていた光景だった。翠は無残にも真っ裸に剥かれてしまっていた。

 その翠の脚の間に蹲る克哉の姿を捉えた瞬間、俺は湧きあがる怒りを堪え切れなかった。その手に握られたスマホを奪いとって投げ飛ばし、その手で克哉に殴りかかろうとした。

「克哉てめぇー‼ 俺の兄さんに何をしやがる!」
「うわっ! げっ! 流っ」
「くそぉー! 」

 だが、その手は刑事に制された。

「待ちなさい! 殴らなくてもこれは立派な犯行現場だ! 現行犯で逮捕出来るので、あなたはお兄さんの救助を早く」

 そうだ……克哉なんかよりも先に、俺は翠の所にいかねば。床に落とされた袈裟を拾い翠の躰にかけてやる。神聖な翠の裸をこれ以上多くの人間に晒すなんて、あってはならない。

 その間に刑事はあっという間に慣れた手つきで暴れる克哉を捕らえた。流石プロだ。続いて安志くんが加勢に入ってくれた。

「流さん、手錠は俺が外すので、とにかくお兄さんを落ち着かせてあげてください」

 翠の目は虚ろだったが、俺に焦点が合った瞬間、幼子のように、ほろりと涙を流した。

「兄さん、しっかりしろ! 大丈夫か」
「うっ……流……流なのか……来てくれたんだな……これ……早く……抜いて……気持ち悪い……」

 翠の苦し気な顔、嫌悪感が滲む表情に不安になり視線を辿ると……なんてことだ! 翠の大事な部分にバイブが無理矢理さし込まれていた。こんなもの……兄は使ったことないはずだ。なんてことを! なんて目に……遭わせてくれたんだよ!!
  
「流さん、今、手錠が解けました!」

 安志くんが器用に手錠を外してくれた。翠の手首には抵抗した時についた血が多量に滲んでいた。

 痛々しい……それでも翠が自由を取り戻したことにほっとして、俺は袈裟ごと抱きかかえてやった。

 そうこうしているうちにパトカーの音が鳴り響き……克哉は警察に逮捕された。翠を監禁していたのは、誰が見てもわかる事実だ。

「くそぉ! 放せよぉ! いいところだったのに、邪魔すんなぁ!」

 もはや常軌を逸した克哉の声が、マンションの廊下に鳴り響く。どこまでも下衆な奴だ。

「この状況は強制性交等罪に当たるであろう状況だったので、現行犯逮捕しました。被害者の方にも詳しい状況を聞きたいのですが、今……状態はどうですか」

 安志くんと一緒に来た刑事が痛ましそうに告げる。
 駄目だ。そんな状態ではない。翠はひどく興奮しているのだから。

「あっ……うっ……」
 
 俺の手をぎゅっと握りしめ……恐怖と安堵の狭間で揺れ動く翠の様子が痛々しい。

「怪我もしているんだ。まずは病院へ連れて行かせてくれ」
「分かりました。では入院先を手配します」

 刑事が電話を掛けようとしたところ、背後から声がした。

「それには及ばないです。私は医師です。私が診るので容態が落ち着いてからの事情聴取にしてもらえますか」

 俺のよく知る冷静な頼もしい声だ。

 振り返ると丈が立っていた。

「丈……お前、来てくれたのか」
「はい……私が兄さんを診ても?」

 医師資格証を刑事に提示、許可をもらってくれた。
 
「もちろんだ! お前がいてくれて良かった。あ……もしかして洋くんも一緒か」
「ええ、今、向こうで薙のケアをしています。車で来ました。怪我の具合だけ先にざっと確認しても? 」
「ありがとう。俺は……お前になら任せられる!」

 助かった。

 身内に医者がいるなんて……こんな時本当に頼もしい。













あとがき(不要な方は飛ばしてくださいね)







****

志生帆 海です。こんにちは。
とうとうここまで辿り着きました。

ようやく流と翠が会えました!
ここ数日ハラハラドキドキさせてしまって申し訳ありません。
あとは浮上のみ!この騒動の解決まで、あと一歩です。
解決後は、1000話に向かって甘い話を沢山書いていきます。

この物語はフィクションです。私は趣味の範囲で創作を書いております。司法や犯罪に精通しているわけではないので、犯罪の対応方法に間違いがあるかもしれませんが、その点は、どうかご容赦ください。

毎日生きていると次から次へといろんなことが起こりますが、私は自分が読みたい創作を淡々と書き続けていこうと思います。

そんな私の創作を読んでくださる方……本当にありがとうございます。
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