重なる月

志生帆 海

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12章

僕の光 1

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前半……暴力的表現、痛い描写あります。苦手な方はどうか回避してください!

後半は、ようやく光が射してきます!













****

 指を抜かれ、ほっとしたのも……つかの間だった。

「くそっ、なんでだよ! こんな時にっ」

 僕の躰を跨ぐ克哉が舌打ちして悔しがっている。

 それはもう駄目だ……最後まで犯られてしまうかもと思った矢先のことだった。
 
「くそっ、勃たないなんて!」

 恐る恐る……恐怖に震えながら、克哉の下半身の黒々とした茂みの中を確認すると、まだ何の反応もしてなかった。そのままでいてくれ! そう心の底から願った。さっきから広がる嫌悪感でこみ上げる吐き気を逃すので、もう精一杯だ。

「うっ」
「肝心な時に……くそ、使い物にならねぇなんて! そうだまずはこれで慣らしてやろう」

 そう言って克哉の手に握られたのは、僕自身は知識でしか知らない世界……派手なピンク色のバイブローターだった。そんなものを僕に……君はそこまでして……僕を痛めつけたいのか、犯したいのか。

 僕はその手のものを使ったことがない。そんなものを躰に挿入したくない。挿れられたくない! 恐怖で目を瞑ると機械的なブルブルという電子音が一際大きく聞こえて、ぞっとした。

「さぁ大きく脚を開けよ!」 
「うっ……」

 太股を裏側から鷲掴みにされぐいっと無理矢理、開脚させられる。

 克哉の生身でなくても、流以外のモノを受け入れるなんて、あり得ないことで、悔しくて悔しくて……克哉をキッと睨んだ。

「あぁ翠さんらしい顔つきですね。この期に及んでもそんな目が出来るなんて。だからあなたのことが好きですよ。あなたはいつも俺のことそうやって無言で睨んでいた。その顔がどんなに歪むのかとことん今日はとことん見てやる! 」

 乱暴な手つきで、僕の秘部にバイブローターを一気に突き刺した。

「あうっ!」

 感電したかのように、僕の躰が震えた。嫌だ……こんなもの。人工的でひんやりとしたそれが、僕の躰を内側から撫でつけるように動いている。

 最悪だ……

 嫌悪感で躰が拒絶反応を示している。

「いい加減にしろ! やめてくれ!」

「へへっいいですか。最強にしてあげましょう! あぁ……翠さんあなたの中にどんどん入っていきますねぇ。淫乱だ。はははっ、これはいい光景だ。そうだ写真を撮ってあげましょう」

「いい加減にしろ、抜けっ! これを!」

 絶対に嫌だ。

 写真なんかに残されたら……もう……僕は……生きていけない。

 なんて僕は……浅はかで無力なんだ。こんなのもう、本当に無理だ。

 流っ、流に抱いてもらいたい。

 僕のところに、早く来て欲しい。早く来い!

 克哉がスマホを取り出し、僕の脚の間をじっと覗き込んだ。
 
 もう駄目だ。

 フラッシュが光った……

 その瞬間だった。

 僕の光……

 流の姿が飛び込んで来た。




****

 マンションの下まで走って辿り着くと、そこには警備員の制服姿の安志くんが立っていた。彼は洋くんの幼馴染だ。洋くんの良き相談相手だと聞いている。

「何故、君がここに?」
「さっき洋から連絡もらって……俺、今日は渋谷本社にいたので。とにかくここに駆けつけて欲しいって。さぁ急ぎましょう! 」
「お……おぅ!」

 一緒に走り出すと、安志くんの後ろにもうひとり男性がいるのに気が付いた。誰だか気になったが、とにかくまずは翠を救うことが先決だ! 薙に教えてもらった部屋番号めがけて階段を駆け上り、鍵を事前に開けて置いてもらったので、物音を立てないように侵入した。

 (りゅ……流さん!)

 すぐに気配に気が付いた薙が、部屋から静かに飛び出してきた。ずいぶん泣いたようで、隣に立っている友達とふたりで目が兎のように真っ赤になっていた。

「薙。怖かったな。大丈夫か」

 薙の頭を撫で、背中を擦ってやる。まだ……こんなに幼いのに怖い目に遭わせてしまった。

「オレより父さんがアイツに捕まって……お願い、早く助けて……」
「分かった。翠はどの部屋にいる?」
「あの奥の右手のドアです。すいません……俺が薙をここに閉じ込めました」
「違う、拓人は脅されていたんだ! 操られて」
「薙……庇うな。罪は償いたい。ちゃんとその時、その時で……」

 拓人くんは冷静だが、沈痛な面持ちだった。

「とにかくその話は後だ。安志くん、踏み込むぞ」

 くそっ! 克哉の奴、こんな幼い子まで使って……卑劣だ!この手で殴り飛ばしてやる!

「待って下さい。流さん、この人は私服警官です。今日はたまたま俺の警備の仕事で一緒だったんです。一緒にいいですか」

「そうだったのか」

 安志くんと並ぶ長身の男は、刑事だったのか。彼は無言で頷いた。頼りになりそうな男だと思った。

 克哉……お前はとうとう警察沙汰だ。だがもうここまでされたんじゃ、うやむやには出来ない。

「よかった。俺も通報したが、それなら今すぐ踏み込もう」

 いつの間にか追いついた達哉さんが、背後からそう言い切った。

 ならば、もう……恐れない。

 翠がこの扉の向こうで、どういう状態で囚われているのか。

 どんな状態でも受け入れる。

 俺が翠を守る。

 どこまでもいつまでも!! 
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