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12章
迫る危機 11
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オレを抱きしめる拓人の腕に力が入り、いよいよ緊張が走った。
「薙……父さんは、お前を俺の自由にしていいって言ったから」
もう一度拓人が、耳元で囁いた。
くそっ!オレはどうなるのだろう。『自由に』とは何を意味するのだろう。拓人によって何をされるのか。父さんの恐怖とオレの恐怖がリンクして、心臓がバクバクと早鐘を打ちだした。
それでも拓人を憎めないのは何故だろう。
さっきから拓人の寂しさや悲しみが、心を刺してくるよ。
「薙……ごめん。一度だけ……許してくれ」
「うっ……」
突然……ほんの一瞬だけだったが、掠めるようなキスされた。
(冷たい!)
キス自体が初めての経験で驚いたが、それよりも拓人の震える唇の冷たさに驚いた。俺の肩を掴んだ手が、そのまま俺の背中を意味ありげに辿ってくる。
(やめろ!)
恐怖で身構えると、その手はオレの縛られた手首に辿り着き、ロープに触れた。
「な……何? 」
「ごめん。薙にこんな酷いことをして。薙が好きな気持ちは本当なんだ。でも俺がしたかったのはこんなことじゃない。こんな力尽くで手にいれるものじゃなかった」
拓人はボロボロと泣きながら、ロープをたどたどしい手つきで解いてくれた。足の拘束も続けて解いてくれた。
「拓人? 何で……」
「俺が薙にしたいことは……自由にしてあげることだ」
「拓人……」
やっぱり拓人は最後の最後で戻って来て……正気になってくれた。そのことが嬉しかった。
きつく縛られていた手首には擦り切れた傷が出来、足も圧迫され血が通っていなかったのか、つま先がひどく冷たくなっていた。それでも身体が解放されたことにほっとした。
すぐに、オレはふらふらと立ち上がった。
「そうだ……早く父さんを助けないと!」
「待てっ薙! 無防備に行くな! あの人は狂っている」
「でも、聴こえるんだ! さっきからずっと……父さんの悲痛な声が!」
オレを静止する拓人の手を、思いっきり振り払った時だった。
それは!
****
「翠さん叫んでも無駄ですよ。このマンションに移り住んだことは実家も知らないのだから。それにそんなに大声を出したら聴こえてしまいますよ。可愛い息子さんにねぇ。まぁその息子さんも今頃、拓人に犯されてアンアンよがっていて、それどころじゃないと思いますがねぇ」
「や……やめろ! 息子を貶めるようなことを言うのは! 克哉、お前は最初から薙を解放するつもりなんてなく、僕を呼んだのか」
「くくくっ、翠さんはいつまで経っても綺麗なままだ。心も身体も……いつも澄ました清廉潔白な顔をしてさ。いつもいつも……それが癇に障ったんだよ!! 滅茶苦茶に壊してやりたくなるんだよ!! 」
克哉はひどく興奮していた。眼が血走っている……
「……卑怯だ」
「どうとでも! さてと……そろそろ解れたようですね。柔らかいな」
「それにしても翠さん、あなた本当に初めてですか。まさか、ここ使ってませんよねぇ」
「くっ……」
おぞましい。克哉の太い指によってグリグリと躰の内部を蹂躙される恥辱。耐え難い行為。この先のことを考えると暗澹《あんたん》たる思いで一杯だ。
克哉の肉体を身体の中に挿れられるなんて……耐え難い行為で……現実にあってはならない。
なんのために僕は流と結ばれたのだ? どんなに長い年月を経て、僕たちの魂が結ばれたと?
こんな卑劣な男に犯されるなんて、僕たちの物語にはない筋書きだ。
どうしても、受け入れられない。
受け入れるくらいなら……もう、いっそ……
****
俺たちは、渋谷のスクランブル交差点を人を避けながら一目散に走り抜けた。
早く! 早く翠のもとに!
まだ間に合う! きっと間に合う!
さっきから頭の中に、翠の声が響く。
俺を呼んでいる! 助けを待っている!
「流くん、本当に場所が分かったのか」
「ええ、奇跡的に……翠は今日、小型GPS発信機を持ち合わせていたようなんです」
「なんだって! じゃあ確実なんだな。居場所が!」
「ええ」
「それならば……流くん……お願いがある」
達哉さんの顔つきが、ぐっと真剣になった。
「薙……父さんは、お前を俺の自由にしていいって言ったから」
もう一度拓人が、耳元で囁いた。
くそっ!オレはどうなるのだろう。『自由に』とは何を意味するのだろう。拓人によって何をされるのか。父さんの恐怖とオレの恐怖がリンクして、心臓がバクバクと早鐘を打ちだした。
それでも拓人を憎めないのは何故だろう。
さっきから拓人の寂しさや悲しみが、心を刺してくるよ。
「薙……ごめん。一度だけ……許してくれ」
「うっ……」
突然……ほんの一瞬だけだったが、掠めるようなキスされた。
(冷たい!)
キス自体が初めての経験で驚いたが、それよりも拓人の震える唇の冷たさに驚いた。俺の肩を掴んだ手が、そのまま俺の背中を意味ありげに辿ってくる。
(やめろ!)
恐怖で身構えると、その手はオレの縛られた手首に辿り着き、ロープに触れた。
「な……何? 」
「ごめん。薙にこんな酷いことをして。薙が好きな気持ちは本当なんだ。でも俺がしたかったのはこんなことじゃない。こんな力尽くで手にいれるものじゃなかった」
拓人はボロボロと泣きながら、ロープをたどたどしい手つきで解いてくれた。足の拘束も続けて解いてくれた。
「拓人? 何で……」
「俺が薙にしたいことは……自由にしてあげることだ」
「拓人……」
やっぱり拓人は最後の最後で戻って来て……正気になってくれた。そのことが嬉しかった。
きつく縛られていた手首には擦り切れた傷が出来、足も圧迫され血が通っていなかったのか、つま先がひどく冷たくなっていた。それでも身体が解放されたことにほっとした。
すぐに、オレはふらふらと立ち上がった。
「そうだ……早く父さんを助けないと!」
「待てっ薙! 無防備に行くな! あの人は狂っている」
「でも、聴こえるんだ! さっきからずっと……父さんの悲痛な声が!」
オレを静止する拓人の手を、思いっきり振り払った時だった。
それは!
****
「翠さん叫んでも無駄ですよ。このマンションに移り住んだことは実家も知らないのだから。それにそんなに大声を出したら聴こえてしまいますよ。可愛い息子さんにねぇ。まぁその息子さんも今頃、拓人に犯されてアンアンよがっていて、それどころじゃないと思いますがねぇ」
「や……やめろ! 息子を貶めるようなことを言うのは! 克哉、お前は最初から薙を解放するつもりなんてなく、僕を呼んだのか」
「くくくっ、翠さんはいつまで経っても綺麗なままだ。心も身体も……いつも澄ました清廉潔白な顔をしてさ。いつもいつも……それが癇に障ったんだよ!! 滅茶苦茶に壊してやりたくなるんだよ!! 」
克哉はひどく興奮していた。眼が血走っている……
「……卑怯だ」
「どうとでも! さてと……そろそろ解れたようですね。柔らかいな」
「それにしても翠さん、あなた本当に初めてですか。まさか、ここ使ってませんよねぇ」
「くっ……」
おぞましい。克哉の太い指によってグリグリと躰の内部を蹂躙される恥辱。耐え難い行為。この先のことを考えると暗澹《あんたん》たる思いで一杯だ。
克哉の肉体を身体の中に挿れられるなんて……耐え難い行為で……現実にあってはならない。
なんのために僕は流と結ばれたのだ? どんなに長い年月を経て、僕たちの魂が結ばれたと?
こんな卑劣な男に犯されるなんて、僕たちの物語にはない筋書きだ。
どうしても、受け入れられない。
受け入れるくらいなら……もう、いっそ……
****
俺たちは、渋谷のスクランブル交差点を人を避けながら一目散に走り抜けた。
早く! 早く翠のもとに!
まだ間に合う! きっと間に合う!
さっきから頭の中に、翠の声が響く。
俺を呼んでいる! 助けを待っている!
「流くん、本当に場所が分かったのか」
「ええ、奇跡的に……翠は今日、小型GPS発信機を持ち合わせていたようなんです」
「なんだって! じゃあ確実なんだな。居場所が!」
「ええ」
「それならば……流くん……お願いがある」
達哉さんの顔つきが、ぐっと真剣になった。
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