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12章
堕とす 2
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「おいっ拓人待てよ!」
このまま行かせたくなくて、去っていこうとする拓人の肩を掴んで引き止めた。
「放せよ!」
「お前、何か困っているんじゃないのか。オレなんかじゃ役に立たないか。それってオレには話せないことなのか」
「……」
何故か怒っているのに、泣きそうな拓人の顔。
そんな顔を見せられたら、放っておけないよ。
「薙っ……もうこれ以上何も聞かないでくれよ。お願いだから……お前のこと……嫌いになりたくない」
次の瞬間、ドンっと突き放されて、拓人は逃げるように走って行ってしまった。
やっぱりかなり変だ。一体どうしたんだよ。
****
「薙くん、どうしたの? 」
「あっごめん。聞いてなかった」
せっかく洋さんに勉強を教えてもらっていたのに、上の空だった。今日は丈さんが当直だから、離れの洋さんの家で勉強を見てもらっているというのに。
「いや、それはいいんだけど、何か心配事でもあるの? 」
「……うん…ちょっと」
ふと机の横の本棚を見ると、この前拓人がオレにくれたCDと同じものが目に入った。
「あっ洋さんもこのCD持っているんだ」
「んっあぁこれ? 結構このグループ、好きなんだ」
「オレも友達と一緒に応援しているよ」
「へぇ……そういえばその友達にも勉強を教えてあげるんじゃなかった? 」
「……そのつもりだったんだけど、あいつ……ここに来たがらなくて」
「何故? 」
「この前突然帰っちゃってさ、実はそこからちょっと変なんだ。このCDだって、いきなりくれたりして」
なぜだか洋さんには話せてしまう。
洋さんには、父さんや流さんにも言えないことを相談できてしまうのは何故だろう。吸い込まれるような漆黒の瞳が……オレのことを思慮深く見つめていた。
「中学生のお小遣いで、こんな高いCDを友だちの分まで? 」
「そりゃ貰って嬉しいけど、なんか金遣いが荒くなって心配なんだ」
「確かに変だね」
「うん……心配だ。でもオレに話せないのかってこの前問い詰めたら、怒って帰っちゃってさ。あーあ、せっかく心配したのにな」
洋さんは大きな目を見開いて、何か思い当たるような表情を浮かべた。
「そうか。でもね薙くん……本当に窮地に立たされた時って、意外と人を頼れないものだよ」
「……そういうもんなのか」
「うん……例えば何か酷い目に遭っても、そういう目に遭っているのを周りには知られたくなくて隠したくなるし、恥ずかしいと思うこともあって。だからその友達には言えない何かがあるのかも……俺もそういうことがあったから分かるんだ」
「えっ……」
ドクンっと心臓が音を立てた。
洋さん、この人は一体どんな人生を今まで送ってきたのか。なんだか心配になるよ。オレみたいな中学生でも洋さんのこと放っておけなくなるから、丈さんが洋さんにベタ惚れなの、よく分かるな。
「薙くん、どうか一つだけ約束して。絶対に勝手な行動はするな。薙くんに何かあったら悲しむ人が、ここには沢山いることを忘れないでくれ」
そう言われて父さんの慈愛に満ちた顔が真っ先に浮かんだので、驚いた。
もしかしたら父さんは不器用な人だったのかもしれない。
ずっと家を出て行ってしまった父さんのこと、心の底で恨んだり憎んだりしていた。でも違ったのかもしれないと最近のオレは思えるようになっていた。
「父さんも……もしかしてそういう目に遭ったとか」
「えっ翠さんが?」
何故だか、今の洋さんの話は、父さんにもあてはまるような気がした。
父さんも何か辛い事情があって……オレを置いて、実家に戻ったのか。
誰にも言えない秘密でもあったのか。
もしもそうだとしたら、オレはその相手を許さない。
こんな風に父さんを想えるようになっていたなんて、驚いた。
このまま行かせたくなくて、去っていこうとする拓人の肩を掴んで引き止めた。
「放せよ!」
「お前、何か困っているんじゃないのか。オレなんかじゃ役に立たないか。それってオレには話せないことなのか」
「……」
何故か怒っているのに、泣きそうな拓人の顔。
そんな顔を見せられたら、放っておけないよ。
「薙っ……もうこれ以上何も聞かないでくれよ。お願いだから……お前のこと……嫌いになりたくない」
次の瞬間、ドンっと突き放されて、拓人は逃げるように走って行ってしまった。
やっぱりかなり変だ。一体どうしたんだよ。
****
「薙くん、どうしたの? 」
「あっごめん。聞いてなかった」
せっかく洋さんに勉強を教えてもらっていたのに、上の空だった。今日は丈さんが当直だから、離れの洋さんの家で勉強を見てもらっているというのに。
「いや、それはいいんだけど、何か心配事でもあるの? 」
「……うん…ちょっと」
ふと机の横の本棚を見ると、この前拓人がオレにくれたCDと同じものが目に入った。
「あっ洋さんもこのCD持っているんだ」
「んっあぁこれ? 結構このグループ、好きなんだ」
「オレも友達と一緒に応援しているよ」
「へぇ……そういえばその友達にも勉強を教えてあげるんじゃなかった? 」
「……そのつもりだったんだけど、あいつ……ここに来たがらなくて」
「何故? 」
「この前突然帰っちゃってさ、実はそこからちょっと変なんだ。このCDだって、いきなりくれたりして」
なぜだか洋さんには話せてしまう。
洋さんには、父さんや流さんにも言えないことを相談できてしまうのは何故だろう。吸い込まれるような漆黒の瞳が……オレのことを思慮深く見つめていた。
「中学生のお小遣いで、こんな高いCDを友だちの分まで? 」
「そりゃ貰って嬉しいけど、なんか金遣いが荒くなって心配なんだ」
「確かに変だね」
「うん……心配だ。でもオレに話せないのかってこの前問い詰めたら、怒って帰っちゃってさ。あーあ、せっかく心配したのにな」
洋さんは大きな目を見開いて、何か思い当たるような表情を浮かべた。
「そうか。でもね薙くん……本当に窮地に立たされた時って、意外と人を頼れないものだよ」
「……そういうもんなのか」
「うん……例えば何か酷い目に遭っても、そういう目に遭っているのを周りには知られたくなくて隠したくなるし、恥ずかしいと思うこともあって。だからその友達には言えない何かがあるのかも……俺もそういうことがあったから分かるんだ」
「えっ……」
ドクンっと心臓が音を立てた。
洋さん、この人は一体どんな人生を今まで送ってきたのか。なんだか心配になるよ。オレみたいな中学生でも洋さんのこと放っておけなくなるから、丈さんが洋さんにベタ惚れなの、よく分かるな。
「薙くん、どうか一つだけ約束して。絶対に勝手な行動はするな。薙くんに何かあったら悲しむ人が、ここには沢山いることを忘れないでくれ」
そう言われて父さんの慈愛に満ちた顔が真っ先に浮かんだので、驚いた。
もしかしたら父さんは不器用な人だったのかもしれない。
ずっと家を出て行ってしまった父さんのこと、心の底で恨んだり憎んだりしていた。でも違ったのかもしれないと最近のオレは思えるようになっていた。
「父さんも……もしかしてそういう目に遭ったとか」
「えっ翠さんが?」
何故だか、今の洋さんの話は、父さんにもあてはまるような気がした。
父さんも何か辛い事情があって……オレを置いて、実家に戻ったのか。
誰にも言えない秘密でもあったのか。
もしもそうだとしたら、オレはその相手を許さない。
こんな風に父さんを想えるようになっていたなんて、驚いた。
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