940 / 1,657
12章
出逢ってはいけない 1
しおりを挟む
「薙、よかったのか。家族水入らずの休日って奴だったんじゃ」
横須賀線に揺られながら、拓人は申し訳なさそうな顔を浮かべていた。
「いいんだよ。なんか今日は気分が良くてさ……出かけたい気分だった」
「ふぅん……いい事でもあった? 」
「いい事ってわけじゃないけど、母さんが母さんらしくなって、父さんが父さんらしかったってところかな」
初めて自分から両親について話した。
夏に鎌倉に引っ越してきてから、両親のことに触れられるのがイヤで避けてきた。気を許した拓人にさえ言えなかったのに、どうしてだろう?
「へぇ、さっき車から降りてきたのは薙のお父さんだろう」
「あぁ」
「ずいぶん若くて……男の人なのに綺麗な人なんだな。正直、驚いた」
「そうか。もう見慣れたけど……」
「薙は父親似なんだな」
「お前もそう思う? 皆に言われるよ。驚かれる程、若い頃の父さんにそっくりだってさ」
「へぇ、俺は母親似かな。どっちかっていうと」
「え? だってお前は全然女顔じゃないぞ」
「ははっ当たり前だよ。男だからな」
「……いいよな。オレは父親似なのに、何故か女顔って言われることが多くてうんざりだよ」
「くくっ特殊だな……それ」
顔を見合わせて軽く笑い合った。
同い年なのにどこか卓越したような風貌の男らしい拓人の顔に、ハッとした。それに学校以外の場所で拓人と会うのは初めてで、ちょっと照れ臭い。
「ところで、東京に何しに行くんだ? 」
「あ……悪い、ちゃんと話してなかったな」
「渋谷まで、どうやって行けばいい? 」
「渋谷、前住んでいたところの近くだ」
「へぇーすごいな! 薙は垢抜けていると思ったけど、本当に都会育ちなんだな」
「まぁね、なら横浜で東横線に乗り換えるぞ」
「おう。よろしくな」
オレはコイツのこと、本当に何も知らないんだな。
でもそんなこと必要なかった。同じ日の転校生同士だったし、流されない自分を持っているスタイルが好きで、すっかり意気投合し、信頼していた。
渋谷駅に着くと、拓人はマンションの住所を書いた紙を提示した。
「ここに行きたいんだ、道分かるか」
「えっと……あぁここなら前住んでいた所から結構近いな。ちょっと歩くけどいいか」
「もちろん」
「ここに会いたい人でもいるのか」
何気ない一言に、拓人は見たこともないような暗い顔をし、そのまま無言になってしまった。あまり無理に聞かない方がいいのかと、深追いはしなかった。
渋谷から徒歩で二十分程で、目的地に迷いなく到着した。
「流石だなぁ薙、地元感漂っていたぞ」
「まぁね、結構この辺はウロウロしたからな」
マンションの表札は、拓人の苗字と同じ『岩本』となっていた。もしかして親戚の家なのか。拓人は一呼吸してからインターホンを押すと、相手は年配の女性だった。
「どなた?」
「ばーちゃん、俺、拓人」
「まぁ、たっくんなの。よくひとりで来られたわね」
すぐにドアが開いて、白髪混じりの女性が笑顔で出てきた。
「薙、俺のばーちゃん、ばーちゃん、向こうの中学で出来た友達だよ」
「まぁお友達と一緒なのね。嬉しいわ。さぁあがって頂戴」
嬉しそうに招き入れられたので、躊躇しながらもお邪魔することになった。
さっきの拓人の暗い表情が気になったが……
****
「脱いじゃうのか。勿体ない」
「洋、何言ってる。重たくて大変なんだぞ」
「そんなに? 翠さんはいつも涼しい顔をして着ているのに」
「兄さんとは心の鍛え方が違うんだよ」
離れで丈の着替えを手伝った。
袈裟から脱皮するように、丈のよく鍛えられた身体が徐々に見えてくると、少なからず興奮してしまった。
「洋、そんなに見つめて……私に見惚れているのか」
「え? そんなことないっ」
「嘘をつけ、ここ火照っているぞ」
頬を指さされ、慌てて手で覆った。俺って……どうしてこう顔に出やすいんだ!
「さっき兄さんたちを迎えに行って……何か見たのか」
丈が目を細めて俺のことを見下ろしてくる。なんか余裕の笑みだよな。何もかもお見通しといった感じで……もう、その目……やめろよ。見つめられるだけで、俺がどうなるか知っている癖に。
「見てはない……けど」
「けど?」
「……聞いちゃったんだ」
「なるほど」
裸身の上半身ですっぽりと包まれて、丈の素肌の温もりを直に感じてしまうと、節操もない俺の身体が疼き出す。
「それで?」
焦らすように腰の曲線を大きな手のひらで撫でられて、ヒップを深く揉まれてしまう。
「丈、駄目だ……仕事に遅刻するぞ」
「洋が誘うからだ」
「誘ってないって……もうっ早く行けよ。続きは帰ったらな」
タイムリミットだ。俺の方から丈の後頭部に手をまわし、唇を押し付けた。ディープなキスを贈ると、丈も嬉しそうに応えてくれ、一気に立場は逆転する。
「うっ……はぁ……丈、待て! ストップ! 」
「洋は煽るのも、キスも上手くなったな。それにしても……今日は当直で戻らないのに、本当にいいのか」
「う……」
本当はもう丈が欲しくなっていた。
さっきのふたりの熱い声のせいだ……これ!
横須賀線に揺られながら、拓人は申し訳なさそうな顔を浮かべていた。
「いいんだよ。なんか今日は気分が良くてさ……出かけたい気分だった」
「ふぅん……いい事でもあった? 」
「いい事ってわけじゃないけど、母さんが母さんらしくなって、父さんが父さんらしかったってところかな」
初めて自分から両親について話した。
夏に鎌倉に引っ越してきてから、両親のことに触れられるのがイヤで避けてきた。気を許した拓人にさえ言えなかったのに、どうしてだろう?
「へぇ、さっき車から降りてきたのは薙のお父さんだろう」
「あぁ」
「ずいぶん若くて……男の人なのに綺麗な人なんだな。正直、驚いた」
「そうか。もう見慣れたけど……」
「薙は父親似なんだな」
「お前もそう思う? 皆に言われるよ。驚かれる程、若い頃の父さんにそっくりだってさ」
「へぇ、俺は母親似かな。どっちかっていうと」
「え? だってお前は全然女顔じゃないぞ」
「ははっ当たり前だよ。男だからな」
「……いいよな。オレは父親似なのに、何故か女顔って言われることが多くてうんざりだよ」
「くくっ特殊だな……それ」
顔を見合わせて軽く笑い合った。
同い年なのにどこか卓越したような風貌の男らしい拓人の顔に、ハッとした。それに学校以外の場所で拓人と会うのは初めてで、ちょっと照れ臭い。
「ところで、東京に何しに行くんだ? 」
「あ……悪い、ちゃんと話してなかったな」
「渋谷まで、どうやって行けばいい? 」
「渋谷、前住んでいたところの近くだ」
「へぇーすごいな! 薙は垢抜けていると思ったけど、本当に都会育ちなんだな」
「まぁね、なら横浜で東横線に乗り換えるぞ」
「おう。よろしくな」
オレはコイツのこと、本当に何も知らないんだな。
でもそんなこと必要なかった。同じ日の転校生同士だったし、流されない自分を持っているスタイルが好きで、すっかり意気投合し、信頼していた。
渋谷駅に着くと、拓人はマンションの住所を書いた紙を提示した。
「ここに行きたいんだ、道分かるか」
「えっと……あぁここなら前住んでいた所から結構近いな。ちょっと歩くけどいいか」
「もちろん」
「ここに会いたい人でもいるのか」
何気ない一言に、拓人は見たこともないような暗い顔をし、そのまま無言になってしまった。あまり無理に聞かない方がいいのかと、深追いはしなかった。
渋谷から徒歩で二十分程で、目的地に迷いなく到着した。
「流石だなぁ薙、地元感漂っていたぞ」
「まぁね、結構この辺はウロウロしたからな」
マンションの表札は、拓人の苗字と同じ『岩本』となっていた。もしかして親戚の家なのか。拓人は一呼吸してからインターホンを押すと、相手は年配の女性だった。
「どなた?」
「ばーちゃん、俺、拓人」
「まぁ、たっくんなの。よくひとりで来られたわね」
すぐにドアが開いて、白髪混じりの女性が笑顔で出てきた。
「薙、俺のばーちゃん、ばーちゃん、向こうの中学で出来た友達だよ」
「まぁお友達と一緒なのね。嬉しいわ。さぁあがって頂戴」
嬉しそうに招き入れられたので、躊躇しながらもお邪魔することになった。
さっきの拓人の暗い表情が気になったが……
****
「脱いじゃうのか。勿体ない」
「洋、何言ってる。重たくて大変なんだぞ」
「そんなに? 翠さんはいつも涼しい顔をして着ているのに」
「兄さんとは心の鍛え方が違うんだよ」
離れで丈の着替えを手伝った。
袈裟から脱皮するように、丈のよく鍛えられた身体が徐々に見えてくると、少なからず興奮してしまった。
「洋、そんなに見つめて……私に見惚れているのか」
「え? そんなことないっ」
「嘘をつけ、ここ火照っているぞ」
頬を指さされ、慌てて手で覆った。俺って……どうしてこう顔に出やすいんだ!
「さっき兄さんたちを迎えに行って……何か見たのか」
丈が目を細めて俺のことを見下ろしてくる。なんか余裕の笑みだよな。何もかもお見通しといった感じで……もう、その目……やめろよ。見つめられるだけで、俺がどうなるか知っている癖に。
「見てはない……けど」
「けど?」
「……聞いちゃったんだ」
「なるほど」
裸身の上半身ですっぽりと包まれて、丈の素肌の温もりを直に感じてしまうと、節操もない俺の身体が疼き出す。
「それで?」
焦らすように腰の曲線を大きな手のひらで撫でられて、ヒップを深く揉まれてしまう。
「丈、駄目だ……仕事に遅刻するぞ」
「洋が誘うからだ」
「誘ってないって……もうっ早く行けよ。続きは帰ったらな」
タイムリミットだ。俺の方から丈の後頭部に手をまわし、唇を押し付けた。ディープなキスを贈ると、丈も嬉しそうに応えてくれ、一気に立場は逆転する。
「うっ……はぁ……丈、待て! ストップ! 」
「洋は煽るのも、キスも上手くなったな。それにしても……今日は当直で戻らないのに、本当にいいのか」
「う……」
本当はもう丈が欲しくなっていた。
さっきのふたりの熱い声のせいだ……これ!
10
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」



【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話
六剣
恋愛
社会人の鳳健吾(おおとりけんご)と高校生の鮫島凛香(さめじまりんか)はアパートのお隣同士だった。
兄貴気質であるケンゴはシングルマザーで常に働きに出ているリンカの母親に代わってよく彼女の面倒を見ていた。
リンカが中学生になった頃、ケンゴは海外に転勤してしまい、三年の月日が流れる。
三年ぶりに日本のアパートに戻って来たケンゴに対してリンカは、
「なんだ。帰ってきたんだ」
と、嫌悪な様子で接するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる