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12章
出逢ってはいけない 1
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「薙、よかったのか。家族水入らずの休日って奴だったんじゃ」
横須賀線に揺られながら、拓人は申し訳なさそうな顔を浮かべていた。
「いいんだよ。なんか今日は気分が良くてさ……出かけたい気分だった」
「ふぅん……いい事でもあった? 」
「いい事ってわけじゃないけど、母さんが母さんらしくなって、父さんが父さんらしかったってところかな」
初めて自分から両親について話した。
夏に鎌倉に引っ越してきてから、両親のことに触れられるのがイヤで避けてきた。気を許した拓人にさえ言えなかったのに、どうしてだろう?
「へぇ、さっき車から降りてきたのは薙のお父さんだろう」
「あぁ」
「ずいぶん若くて……男の人なのに綺麗な人なんだな。正直、驚いた」
「そうか。もう見慣れたけど……」
「薙は父親似なんだな」
「お前もそう思う? 皆に言われるよ。驚かれる程、若い頃の父さんにそっくりだってさ」
「へぇ、俺は母親似かな。どっちかっていうと」
「え? だってお前は全然女顔じゃないぞ」
「ははっ当たり前だよ。男だからな」
「……いいよな。オレは父親似なのに、何故か女顔って言われることが多くてうんざりだよ」
「くくっ特殊だな……それ」
顔を見合わせて軽く笑い合った。
同い年なのにどこか卓越したような風貌の男らしい拓人の顔に、ハッとした。それに学校以外の場所で拓人と会うのは初めてで、ちょっと照れ臭い。
「ところで、東京に何しに行くんだ? 」
「あ……悪い、ちゃんと話してなかったな」
「渋谷まで、どうやって行けばいい? 」
「渋谷、前住んでいたところの近くだ」
「へぇーすごいな! 薙は垢抜けていると思ったけど、本当に都会育ちなんだな」
「まぁね、なら横浜で東横線に乗り換えるぞ」
「おう。よろしくな」
オレはコイツのこと、本当に何も知らないんだな。
でもそんなこと必要なかった。同じ日の転校生同士だったし、流されない自分を持っているスタイルが好きで、すっかり意気投合し、信頼していた。
渋谷駅に着くと、拓人はマンションの住所を書いた紙を提示した。
「ここに行きたいんだ、道分かるか」
「えっと……あぁここなら前住んでいた所から結構近いな。ちょっと歩くけどいいか」
「もちろん」
「ここに会いたい人でもいるのか」
何気ない一言に、拓人は見たこともないような暗い顔をし、そのまま無言になってしまった。あまり無理に聞かない方がいいのかと、深追いはしなかった。
渋谷から徒歩で二十分程で、目的地に迷いなく到着した。
「流石だなぁ薙、地元感漂っていたぞ」
「まぁね、結構この辺はウロウロしたからな」
マンションの表札は、拓人の苗字と同じ『岩本』となっていた。もしかして親戚の家なのか。拓人は一呼吸してからインターホンを押すと、相手は年配の女性だった。
「どなた?」
「ばーちゃん、俺、拓人」
「まぁ、たっくんなの。よくひとりで来られたわね」
すぐにドアが開いて、白髪混じりの女性が笑顔で出てきた。
「薙、俺のばーちゃん、ばーちゃん、向こうの中学で出来た友達だよ」
「まぁお友達と一緒なのね。嬉しいわ。さぁあがって頂戴」
嬉しそうに招き入れられたので、躊躇しながらもお邪魔することになった。
さっきの拓人の暗い表情が気になったが……
****
「脱いじゃうのか。勿体ない」
「洋、何言ってる。重たくて大変なんだぞ」
「そんなに? 翠さんはいつも涼しい顔をして着ているのに」
「兄さんとは心の鍛え方が違うんだよ」
離れで丈の着替えを手伝った。
袈裟から脱皮するように、丈のよく鍛えられた身体が徐々に見えてくると、少なからず興奮してしまった。
「洋、そんなに見つめて……私に見惚れているのか」
「え? そんなことないっ」
「嘘をつけ、ここ火照っているぞ」
頬を指さされ、慌てて手で覆った。俺って……どうしてこう顔に出やすいんだ!
「さっき兄さんたちを迎えに行って……何か見たのか」
丈が目を細めて俺のことを見下ろしてくる。なんか余裕の笑みだよな。何もかもお見通しといった感じで……もう、その目……やめろよ。見つめられるだけで、俺がどうなるか知っている癖に。
「見てはない……けど」
「けど?」
「……聞いちゃったんだ」
「なるほど」
裸身の上半身ですっぽりと包まれて、丈の素肌の温もりを直に感じてしまうと、節操もない俺の身体が疼き出す。
「それで?」
焦らすように腰の曲線を大きな手のひらで撫でられて、ヒップを深く揉まれてしまう。
「丈、駄目だ……仕事に遅刻するぞ」
「洋が誘うからだ」
「誘ってないって……もうっ早く行けよ。続きは帰ったらな」
タイムリミットだ。俺の方から丈の後頭部に手をまわし、唇を押し付けた。ディープなキスを贈ると、丈も嬉しそうに応えてくれ、一気に立場は逆転する。
「うっ……はぁ……丈、待て! ストップ! 」
「洋は煽るのも、キスも上手くなったな。それにしても……今日は当直で戻らないのに、本当にいいのか」
「う……」
本当はもう丈が欲しくなっていた。
さっきのふたりの熱い声のせいだ……これ!
横須賀線に揺られながら、拓人は申し訳なさそうな顔を浮かべていた。
「いいんだよ。なんか今日は気分が良くてさ……出かけたい気分だった」
「ふぅん……いい事でもあった? 」
「いい事ってわけじゃないけど、母さんが母さんらしくなって、父さんが父さんらしかったってところかな」
初めて自分から両親について話した。
夏に鎌倉に引っ越してきてから、両親のことに触れられるのがイヤで避けてきた。気を許した拓人にさえ言えなかったのに、どうしてだろう?
「へぇ、さっき車から降りてきたのは薙のお父さんだろう」
「あぁ」
「ずいぶん若くて……男の人なのに綺麗な人なんだな。正直、驚いた」
「そうか。もう見慣れたけど……」
「薙は父親似なんだな」
「お前もそう思う? 皆に言われるよ。驚かれる程、若い頃の父さんにそっくりだってさ」
「へぇ、俺は母親似かな。どっちかっていうと」
「え? だってお前は全然女顔じゃないぞ」
「ははっ当たり前だよ。男だからな」
「……いいよな。オレは父親似なのに、何故か女顔って言われることが多くてうんざりだよ」
「くくっ特殊だな……それ」
顔を見合わせて軽く笑い合った。
同い年なのにどこか卓越したような風貌の男らしい拓人の顔に、ハッとした。それに学校以外の場所で拓人と会うのは初めてで、ちょっと照れ臭い。
「ところで、東京に何しに行くんだ? 」
「あ……悪い、ちゃんと話してなかったな」
「渋谷まで、どうやって行けばいい? 」
「渋谷、前住んでいたところの近くだ」
「へぇーすごいな! 薙は垢抜けていると思ったけど、本当に都会育ちなんだな」
「まぁね、なら横浜で東横線に乗り換えるぞ」
「おう。よろしくな」
オレはコイツのこと、本当に何も知らないんだな。
でもそんなこと必要なかった。同じ日の転校生同士だったし、流されない自分を持っているスタイルが好きで、すっかり意気投合し、信頼していた。
渋谷駅に着くと、拓人はマンションの住所を書いた紙を提示した。
「ここに行きたいんだ、道分かるか」
「えっと……あぁここなら前住んでいた所から結構近いな。ちょっと歩くけどいいか」
「もちろん」
「ここに会いたい人でもいるのか」
何気ない一言に、拓人は見たこともないような暗い顔をし、そのまま無言になってしまった。あまり無理に聞かない方がいいのかと、深追いはしなかった。
渋谷から徒歩で二十分程で、目的地に迷いなく到着した。
「流石だなぁ薙、地元感漂っていたぞ」
「まぁね、結構この辺はウロウロしたからな」
マンションの表札は、拓人の苗字と同じ『岩本』となっていた。もしかして親戚の家なのか。拓人は一呼吸してからインターホンを押すと、相手は年配の女性だった。
「どなた?」
「ばーちゃん、俺、拓人」
「まぁ、たっくんなの。よくひとりで来られたわね」
すぐにドアが開いて、白髪混じりの女性が笑顔で出てきた。
「薙、俺のばーちゃん、ばーちゃん、向こうの中学で出来た友達だよ」
「まぁお友達と一緒なのね。嬉しいわ。さぁあがって頂戴」
嬉しそうに招き入れられたので、躊躇しながらもお邪魔することになった。
さっきの拓人の暗い表情が気になったが……
****
「脱いじゃうのか。勿体ない」
「洋、何言ってる。重たくて大変なんだぞ」
「そんなに? 翠さんはいつも涼しい顔をして着ているのに」
「兄さんとは心の鍛え方が違うんだよ」
離れで丈の着替えを手伝った。
袈裟から脱皮するように、丈のよく鍛えられた身体が徐々に見えてくると、少なからず興奮してしまった。
「洋、そんなに見つめて……私に見惚れているのか」
「え? そんなことないっ」
「嘘をつけ、ここ火照っているぞ」
頬を指さされ、慌てて手で覆った。俺って……どうしてこう顔に出やすいんだ!
「さっき兄さんたちを迎えに行って……何か見たのか」
丈が目を細めて俺のことを見下ろしてくる。なんか余裕の笑みだよな。何もかもお見通しといった感じで……もう、その目……やめろよ。見つめられるだけで、俺がどうなるか知っている癖に。
「見てはない……けど」
「けど?」
「……聞いちゃったんだ」
「なるほど」
裸身の上半身ですっぽりと包まれて、丈の素肌の温もりを直に感じてしまうと、節操もない俺の身体が疼き出す。
「それで?」
焦らすように腰の曲線を大きな手のひらで撫でられて、ヒップを深く揉まれてしまう。
「丈、駄目だ……仕事に遅刻するぞ」
「洋が誘うからだ」
「誘ってないって……もうっ早く行けよ。続きは帰ったらな」
タイムリミットだ。俺の方から丈の後頭部に手をまわし、唇を押し付けた。ディープなキスを贈ると、丈も嬉しそうに応えてくれ、一気に立場は逆転する。
「うっ……はぁ……丈、待て! ストップ! 」
「洋は煽るのも、キスも上手くなったな。それにしても……今日は当直で戻らないのに、本当にいいのか」
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本当はもう丈が欲しくなっていた。
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