938 / 1,657
12章
明日があるから 4
しおりを挟む
茶室の前まで来て、足がぴたりと停まった。
滝の音と風にのって微かに聴こえてきたのは、愛を紡ぐ声だった。
あっそうか……昨夜は翠さんも流さんも……彩乃さんが帰国されて大変だったもんな。
ふたりが今、茶室でそういう状況になっている理由は分かりすぎる程だ。
これは野暮なことは出来ない。かといって丈の出かける時間があるから、いつまでも呑気に待ってもいられないし……事が終わったタイミングで声をかけるべきなのかな。迷うな。こういう気遣いが下手で嫌になる。
それにして翠さんも本当に重たいものを背負っているとつくづく思った。昨日奥さんと薙くんに囲まれている翠さんはちゃんと父親に見えたし、今朝、奥さんと共に車に乗り込む姿は、旦那さんらしかった。
結婚とか奥さんの出産とか、父親になるとか……俺には縁がないものなのに、翠さんはそれらをすべて経ているんだなと、改めて実感できたよ。
もう本当に未知の世界だし、翠さんがすべて乗り越えて、今、こうやって流さんと結ばれた事実が深すぎるよ。
もう少し……ふたりの時間を楽しんで欲しい。
解き放たれた想いを、今は重ねて欲しい。
茶室の縁側にそっと腰をかけ、そのメロディを聴いた。
ここは昼下がりの長閑な太陽がよくあたって十二月だというのにポカポカだ。
陽だまりの温かさに、うとうとし出した。
****
絡み合う口づけ。
僕からも流からも共に求めあった。最近の僕たちは、積極的にこうやって対等に求めあうことが多くなった。
最初は戸惑い、流を受け入れるので精一杯だった僕が、変わったものだ。いや変わったのではなく、僕はきっとずっと……こうしたかったのだ。
長い間……何かに制御されるように、僕は流のことを求めすぎてはいけないと思っていた。そして流が平和に生きていけるなら、どんなことでも犠牲になるという気持ちばかりが先走っていた。
きっと過去の湖翠さんの後悔の念に支配されていたのだろう。湖翠さんは、最期まで後悔していたのかもしれない。だから僕の心をあんなにも強く支配していたのだろう。
「翠、よそ見するな」
「あっ……んっ」
流と結合している部分をぐちゅりと擦られ、堪らない疼きが躰をのぼりつめてくる。
「余裕だな」
「あうっ」
「おっと、もう少し声押さえて」
「無理だ。お前がそんなに揺さぶるからっ」
「止まらないんだ。感じている翠の顔に煽られる……」
低い声で耳元で囁かれ、腰を両手で掴まれ、何度も何度も穿たれた。
痺れるような甘美な感覚で、下半身がいっぱいになる。
僕はこんなに感じて……濡れるはずもない器官が濡れたように、ぐちゅぐちゅとお互いの蜜が交じり合う音を立て……なんて卑猥なんだ。
もうこの快楽から逃れられない。
数回にわたって吐き出された流のものを、身体の奥で受け止め続けた。
しばらく胸を上下させ茫然としていると、流が素早く蒸しタオルを持って来てくれ、丁寧に処理してくれた。
「大丈夫か。悪かったな。昼間から……」
「大丈夫だ……もう慣れた。流の暴走には」
「ははっそうか? それにしてもこの茶室、次に雨が降ったら終わりかもな」
「そんなに? 」
「朝確認したら屋根にデカい穴があってな。昨日結構雨漏りしたから、畳がヤバイし、窓も傾いてちゃんと閉まらないぞ。翠の声が外に漏れたんじゃってひやひやしたぜ」
ギョッとしてしまった。
「え……それっ早く言ってくれよ」
「やだね、翠に話したら、声出してくれなくなるだろう」
「それは当たり前だ! 」
「やってる時の翠のエロい声が好きだから、もったいない。あー早く茶室を建て替えたいよ。本格的に話を進めてもいいか」
「あ……うん、いいよ。流に任せている」
「ありがとな。翠のための家だよ。俺にはそれ位しか贈れないが、最高の家にしてやるから」
「流……」
甘いキスを額に落とされた。
こんなに甘やかされて……やっぱり僕は駄目になりそうだよ。
流が傍にいてくれて、僕を抱いてくれるのが嬉しい。
滝の音と風にのって微かに聴こえてきたのは、愛を紡ぐ声だった。
あっそうか……昨夜は翠さんも流さんも……彩乃さんが帰国されて大変だったもんな。
ふたりが今、茶室でそういう状況になっている理由は分かりすぎる程だ。
これは野暮なことは出来ない。かといって丈の出かける時間があるから、いつまでも呑気に待ってもいられないし……事が終わったタイミングで声をかけるべきなのかな。迷うな。こういう気遣いが下手で嫌になる。
それにして翠さんも本当に重たいものを背負っているとつくづく思った。昨日奥さんと薙くんに囲まれている翠さんはちゃんと父親に見えたし、今朝、奥さんと共に車に乗り込む姿は、旦那さんらしかった。
結婚とか奥さんの出産とか、父親になるとか……俺には縁がないものなのに、翠さんはそれらをすべて経ているんだなと、改めて実感できたよ。
もう本当に未知の世界だし、翠さんがすべて乗り越えて、今、こうやって流さんと結ばれた事実が深すぎるよ。
もう少し……ふたりの時間を楽しんで欲しい。
解き放たれた想いを、今は重ねて欲しい。
茶室の縁側にそっと腰をかけ、そのメロディを聴いた。
ここは昼下がりの長閑な太陽がよくあたって十二月だというのにポカポカだ。
陽だまりの温かさに、うとうとし出した。
****
絡み合う口づけ。
僕からも流からも共に求めあった。最近の僕たちは、積極的にこうやって対等に求めあうことが多くなった。
最初は戸惑い、流を受け入れるので精一杯だった僕が、変わったものだ。いや変わったのではなく、僕はきっとずっと……こうしたかったのだ。
長い間……何かに制御されるように、僕は流のことを求めすぎてはいけないと思っていた。そして流が平和に生きていけるなら、どんなことでも犠牲になるという気持ちばかりが先走っていた。
きっと過去の湖翠さんの後悔の念に支配されていたのだろう。湖翠さんは、最期まで後悔していたのかもしれない。だから僕の心をあんなにも強く支配していたのだろう。
「翠、よそ見するな」
「あっ……んっ」
流と結合している部分をぐちゅりと擦られ、堪らない疼きが躰をのぼりつめてくる。
「余裕だな」
「あうっ」
「おっと、もう少し声押さえて」
「無理だ。お前がそんなに揺さぶるからっ」
「止まらないんだ。感じている翠の顔に煽られる……」
低い声で耳元で囁かれ、腰を両手で掴まれ、何度も何度も穿たれた。
痺れるような甘美な感覚で、下半身がいっぱいになる。
僕はこんなに感じて……濡れるはずもない器官が濡れたように、ぐちゅぐちゅとお互いの蜜が交じり合う音を立て……なんて卑猥なんだ。
もうこの快楽から逃れられない。
数回にわたって吐き出された流のものを、身体の奥で受け止め続けた。
しばらく胸を上下させ茫然としていると、流が素早く蒸しタオルを持って来てくれ、丁寧に処理してくれた。
「大丈夫か。悪かったな。昼間から……」
「大丈夫だ……もう慣れた。流の暴走には」
「ははっそうか? それにしてもこの茶室、次に雨が降ったら終わりかもな」
「そんなに? 」
「朝確認したら屋根にデカい穴があってな。昨日結構雨漏りしたから、畳がヤバイし、窓も傾いてちゃんと閉まらないぞ。翠の声が外に漏れたんじゃってひやひやしたぜ」
ギョッとしてしまった。
「え……それっ早く言ってくれよ」
「やだね、翠に話したら、声出してくれなくなるだろう」
「それは当たり前だ! 」
「やってる時の翠のエロい声が好きだから、もったいない。あー早く茶室を建て替えたいよ。本格的に話を進めてもいいか」
「あ……うん、いいよ。流に任せている」
「ありがとな。翠のための家だよ。俺にはそれ位しか贈れないが、最高の家にしてやるから」
「流……」
甘いキスを額に落とされた。
こんなに甘やかされて……やっぱり僕は駄目になりそうだよ。
流が傍にいてくれて、僕を抱いてくれるのが嬉しい。
10
お気に入りに追加
444
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる