重なる月

志生帆 海

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12章

明日があるから 4

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 茶室の前まで来て、足がぴたりと停まった。

 滝の音と風にのって微かに聴こえてきたのは、愛を紡ぐ声だった。

 あっそうか……昨夜は翠さんも流さんも……彩乃さんが帰国されて大変だったもんな。

 ふたりが今、茶室でそういう状況になっている理由は分かりすぎる程だ。

 これは野暮なことは出来ない。かといって丈の出かける時間があるから、いつまでも呑気に待ってもいられないし……事が終わったタイミングで声をかけるべきなのかな。迷うな。こういう気遣いが下手で嫌になる。

 それにして翠さんも本当に重たいものを背負っているとつくづく思った。昨日奥さんと薙くんに囲まれている翠さんはちゃんと父親に見えたし、今朝、奥さんと共に車に乗り込む姿は、旦那さんらしかった。
 
 結婚とか奥さんの出産とか、父親になるとか……俺には縁がないものなのに、翠さんはそれらをすべて経ているんだなと、改めて実感できたよ。

 もう本当に未知の世界だし、翠さんがすべて乗り越えて、今、こうやって流さんと結ばれた事実が深すぎるよ。

 もう少し……ふたりの時間を楽しんで欲しい。

 解き放たれた想いを、今は重ねて欲しい。

 茶室の縁側にそっと腰をかけ、そのメロディを聴いた。

 ここは昼下がりの長閑な太陽がよくあたって十二月だというのにポカポカだ。

 陽だまりの温かさに、うとうとし出した。

 
****

 絡み合う口づけ。

 僕からも流からも共に求めあった。最近の僕たちは、積極的にこうやって対等に求めあうことが多くなった。

 最初は戸惑い、流を受け入れるので精一杯だった僕が、変わったものだ。いや変わったのではなく、僕はきっとずっと……こうしたかったのだ。

 長い間……何かに制御されるように、僕は流のことを求めすぎてはいけないと思っていた。そして流が平和に生きていけるなら、どんなことでも犠牲になるという気持ちばかりが先走っていた。

 きっと過去の湖翠さんの後悔の念に支配されていたのだろう。湖翠さんは、最期まで後悔していたのかもしれない。だから僕の心をあんなにも強く支配していたのだろう。

「翠、よそ見するな」
「あっ……んっ」

 流と結合している部分をぐちゅりと擦られ、堪らない疼きが躰をのぼりつめてくる。

「余裕だな」
「あうっ」
「おっと、もう少し声押さえて」
「無理だ。お前がそんなに揺さぶるからっ」
「止まらないんだ。感じている翠の顔に煽られる……」
 
 低い声で耳元で囁かれ、腰を両手で掴まれ、何度も何度も穿たれた。

 痺れるような甘美な感覚で、下半身がいっぱいになる。

 僕はこんなに感じて……濡れるはずもない器官が濡れたように、ぐちゅぐちゅとお互いの蜜が交じり合う音を立て……なんて卑猥なんだ。

 もうこの快楽から逃れられない。

 数回にわたって吐き出された流のものを、身体の奥で受け止め続けた。

 しばらく胸を上下させ茫然としていると、流が素早く蒸しタオルを持って来てくれ、丁寧に処理してくれた。

「大丈夫か。悪かったな。昼間から……」
「大丈夫だ……もう慣れた。流の暴走には」
「ははっそうか? それにしてもこの茶室、次に雨が降ったら終わりかもな」
「そんなに? 」
「朝確認したら屋根にデカい穴があってな。昨日結構雨漏りしたから、畳がヤバイし、窓も傾いてちゃんと閉まらないぞ。翠の声が外に漏れたんじゃってひやひやしたぜ」

 ギョッとしてしまった。

「え……それっ早く言ってくれよ」
「やだね、翠に話したら、声出してくれなくなるだろう」
「それは当たり前だ! 」
「やってる時の翠のエロい声が好きだから、もったいない。あー早く茶室を建て替えたいよ。本格的に話を進めてもいいか」
「あ……うん、いいよ。流に任せている」
「ありがとな。翠のための家だよ。俺にはそれ位しか贈れないが、最高の家にしてやるから」
「流……」

 甘いキスを額に落とされた。

 こんなに甘やかされて……やっぱり僕は駄目になりそうだよ。

 流が傍にいてくれて、僕を抱いてくれるのが嬉しい。

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