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12章
愛しい人 5
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「俺さ、最近ちょっと変なんだよ」
「何が? 」
「薙のこと見るとドキドキって心臓がなって……男相手に恋煩いはないだろうから、これって何だろう? 」
「はぁ? 何言ってんだか」
拓人が困った顔で変なことを言うので、動揺してしまった。それから頭の中で、また流さんのこと考えてしまった。月影寺で流さんの姿をつい目で追ってしまう自分のことを。これというのも父さんたちが俺を置いて京都に行くから悪いんだ。あの朝、流さんに泣いているところ見られて、甘えたこと言ってしまった。あんな姿見せたせいなのかな。
「……男相手でも心臓って、ざわつくってことあるよ」
「薙? 」
不思議そうに拓人が見つめ返してきたので、慌てて話をそらした。
「しかしお前の弁当はいつも海苔弁だな」
「あーまぁな。しょうがないんだよ」
「お前んちって? あ、いや……なんでもない」
踏み込んで聞けば、オレのことも言わなくてはいけない。だから聞かない。
「なぁ薙。今度お前んち行っていい? 」
「え……」
オレんちは特殊だから見せたくない。その言葉は無邪気な笑顔の拓人を前に……言えなかった。
「……あっいいよ。無理にじゃないし。じゃあな」
「うん……また明日!」
拓人と別れて、少し憂鬱な気持で帰宅した。
山門に続く階段を一段抜かしで上っていると、後ろから声をかけられた。振り返ると洋さんで、はぁはぁと肩で息をしている。
「ふぅ……薙くんは足が随分速いな」
「まぁな。洋さんは息あがってるな」
「君の姿がバスから見えたので慌てて追いかけたけど、歩くのすごい早いから……」
相変わらず、ゾクっとする程綺麗な顔をしていると間近で見て、しみじみと思う。男にする形容詞じゃないのは分かっているけど、美人という言葉以外浮かばない人だな。
「あの……なんか……顔色悪いけど」
「うん、ごめん。ちょっと急ぎすぎたかな」
おいおい、この前みたいに貧血起こさないでくれよ。今日は丈さんはいないし。
「あそこで休んだら?」
オレは洋さんの手を掴んで、寺の山門の横の東屋に座らせ、鞄の中のペットボトル飲料を手に握らせてあげた。
洋さんが子供みたいだな。これじゃ……
「ごめん。なんか君にこんなことしてもらうと情けなくなるな」
「もしかして……どっか病気? 違うよな。医者が恋人だもんな」
「え……」
もうバレバレなのに、改めて言われるのは恥ずかしいらしく顔を赤くする。
そんな様子に、これじゃ丈さん放っておけないよな。オレにも洋さんみたいな可愛げがあれば……もっと流さんに可愛がってもらえるのかな。
「薙くんさ……中学でいい友達が出来たみたいだね」
額の汗を拭きながら、洋さんが突然聞いてくる。
「なんで?」
「君が通りで友達と別れるところから見ていたんだ。その子ずっと薙くんが曲がるまで見送っていたから」
「拓人か……」
「へぇ、タクトくんっていうのか。俺にも中学の時親友がいたよ。今ももちろん親友だけど」
何故だか今日拓人から言われたことを、洋さんに喋りたくなった。
「実はさ…その親友に、今日オレのことみるとドキドキするって言われたんだけど……」
「え? そんなことを」
「恋煩いじゃないから、なんだろうってさ」
一応補足しておいた。いくら洋さんと丈さんが恐らく恋人同士だからって、オレの質問まで、その手の話に取られるのは心外だから。
「ふぅん……でもそんな友達が出来てよかったね。なんか俺の親友のこと思い出すよ」
「洋さんにもいたんだ。丈さんが妬かない? 妬くとあの人、意地悪しそうだ」
「なっ……」
なんかこの人は子供みたいに素直な反応をするんだな。最初に会った時は澄ました美人なだけかと思ったから意外だ。顔がますます赤くなっていて可愛いし面白い。
「もしかして……俺のこと子供みたいだと思った? 俺さ……今頃やりなおしているのかも。中学や高校……大学で出来なかったことを。だからね、薙くんと俺、年齢は結構離れているけれども、友達になれたらいいなと思っているよ。俺でよかったら、何でも相談して欲しい」
ふと真顔で、そんなことを言われて照れくさくなった。
「俺には薙くん位の時、何もかもを晒して相談できる相手がいなかったから」
今度は真顔になっていた。この人の過去は一体?
「あっうん。まぁオレもそいつのこと嫌いじゃないから。ドキドキされて悪い気はしなかった」
「そっか、じゃあ今度ここに連れておいでよ。友達は家に呼ぶもんだろう。俺でよかったら英語なら見てあげられるし」
「そっか、洋さん英語だけは得意だったな。料理は最悪だけど」
「あっ、それ言う?」
くすぐったく笑う洋さんは、やっぱり綺麗だった。
ってこんなこと思うオレもどうなんだか。
ふと洋さんの笑顔の向こうに、父さんの顔を思い浮かべた。
父さんの笑顔なんて、ほとんど見ていないな。
あの人……今、幸せなのか。
「何が? 」
「薙のこと見るとドキドキって心臓がなって……男相手に恋煩いはないだろうから、これって何だろう? 」
「はぁ? 何言ってんだか」
拓人が困った顔で変なことを言うので、動揺してしまった。それから頭の中で、また流さんのこと考えてしまった。月影寺で流さんの姿をつい目で追ってしまう自分のことを。これというのも父さんたちが俺を置いて京都に行くから悪いんだ。あの朝、流さんに泣いているところ見られて、甘えたこと言ってしまった。あんな姿見せたせいなのかな。
「……男相手でも心臓って、ざわつくってことあるよ」
「薙? 」
不思議そうに拓人が見つめ返してきたので、慌てて話をそらした。
「しかしお前の弁当はいつも海苔弁だな」
「あーまぁな。しょうがないんだよ」
「お前んちって? あ、いや……なんでもない」
踏み込んで聞けば、オレのことも言わなくてはいけない。だから聞かない。
「なぁ薙。今度お前んち行っていい? 」
「え……」
オレんちは特殊だから見せたくない。その言葉は無邪気な笑顔の拓人を前に……言えなかった。
「……あっいいよ。無理にじゃないし。じゃあな」
「うん……また明日!」
拓人と別れて、少し憂鬱な気持で帰宅した。
山門に続く階段を一段抜かしで上っていると、後ろから声をかけられた。振り返ると洋さんで、はぁはぁと肩で息をしている。
「ふぅ……薙くんは足が随分速いな」
「まぁな。洋さんは息あがってるな」
「君の姿がバスから見えたので慌てて追いかけたけど、歩くのすごい早いから……」
相変わらず、ゾクっとする程綺麗な顔をしていると間近で見て、しみじみと思う。男にする形容詞じゃないのは分かっているけど、美人という言葉以外浮かばない人だな。
「あの……なんか……顔色悪いけど」
「うん、ごめん。ちょっと急ぎすぎたかな」
おいおい、この前みたいに貧血起こさないでくれよ。今日は丈さんはいないし。
「あそこで休んだら?」
オレは洋さんの手を掴んで、寺の山門の横の東屋に座らせ、鞄の中のペットボトル飲料を手に握らせてあげた。
洋さんが子供みたいだな。これじゃ……
「ごめん。なんか君にこんなことしてもらうと情けなくなるな」
「もしかして……どっか病気? 違うよな。医者が恋人だもんな」
「え……」
もうバレバレなのに、改めて言われるのは恥ずかしいらしく顔を赤くする。
そんな様子に、これじゃ丈さん放っておけないよな。オレにも洋さんみたいな可愛げがあれば……もっと流さんに可愛がってもらえるのかな。
「薙くんさ……中学でいい友達が出来たみたいだね」
額の汗を拭きながら、洋さんが突然聞いてくる。
「なんで?」
「君が通りで友達と別れるところから見ていたんだ。その子ずっと薙くんが曲がるまで見送っていたから」
「拓人か……」
「へぇ、タクトくんっていうのか。俺にも中学の時親友がいたよ。今ももちろん親友だけど」
何故だか今日拓人から言われたことを、洋さんに喋りたくなった。
「実はさ…その親友に、今日オレのことみるとドキドキするって言われたんだけど……」
「え? そんなことを」
「恋煩いじゃないから、なんだろうってさ」
一応補足しておいた。いくら洋さんと丈さんが恐らく恋人同士だからって、オレの質問まで、その手の話に取られるのは心外だから。
「ふぅん……でもそんな友達が出来てよかったね。なんか俺の親友のこと思い出すよ」
「洋さんにもいたんだ。丈さんが妬かない? 妬くとあの人、意地悪しそうだ」
「なっ……」
なんかこの人は子供みたいに素直な反応をするんだな。最初に会った時は澄ました美人なだけかと思ったから意外だ。顔がますます赤くなっていて可愛いし面白い。
「もしかして……俺のこと子供みたいだと思った? 俺さ……今頃やりなおしているのかも。中学や高校……大学で出来なかったことを。だからね、薙くんと俺、年齢は結構離れているけれども、友達になれたらいいなと思っているよ。俺でよかったら、何でも相談して欲しい」
ふと真顔で、そんなことを言われて照れくさくなった。
「俺には薙くん位の時、何もかもを晒して相談できる相手がいなかったから」
今度は真顔になっていた。この人の過去は一体?
「あっうん。まぁオレもそいつのこと嫌いじゃないから。ドキドキされて悪い気はしなかった」
「そっか、じゃあ今度ここに連れておいでよ。友達は家に呼ぶもんだろう。俺でよかったら英語なら見てあげられるし」
「そっか、洋さん英語だけは得意だったな。料理は最悪だけど」
「あっ、それ言う?」
くすぐったく笑う洋さんは、やっぱり綺麗だった。
ってこんなこと思うオレもどうなんだか。
ふと洋さんの笑顔の向こうに、父さんの顔を思い浮かべた。
父さんの笑顔なんて、ほとんど見ていないな。
あの人……今、幸せなのか。
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