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12章
12章 プロローグ
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読経の声が響いている。
翠さんの澄んだ静かな声が、どこまでも心地よく広がっていく。
ここは宇治駅から一時間ほど、徒歩で山を登った所にある朽ち果てる寸前の廃墟。
こんな場所に夕凪が住んでいたのか。
部屋の中を見渡すと不思議と懐かしい気持ちが満ちてくる。
俺はここを知っているのか……
そう問えば……
知っていると心が教えてくれる。
「洋は、ここを覚えているのか」
「いや、だが懐かしいという気持ちだけは残っている」
「そうか」
丈もどこか感慨深げに室内を見渡していた。ここは夕凪が人生を全うした場所だ。彼は幸せだった。そう確信できる気配が微かに残っていた。
やがて厳かに墓石が動かされ、中から骨壺が取り出された。
骨壺は全部で三つだ。
夕凪
信二郎
そして流水さん……
翠さんの読経の声が静かに広がり、一つ一つの骨壺が流さんの手で丁寧に包まれ、御霊移しの儀式は、終わりを迎えた。
「終わったよ。さぁ家に帰ろう」
翠さんの凛とした声を合図に、俺たちは帰路に就く。
……
道昭が宇治まで車で迎えに来てくれて、京都駅まで送ってくれた。
「翠、気をつけて帰れよ」
「今回は何から何までありがとう。お前がいなかったらこんなに順調にはいかなかったよ」
「いつでも頼ってくれ。お前とまた友達らしいことが出来て嬉しかったから」
「うん、僕もだ。じゃあ……」
「お前さ……」
何か言いたげげな道昭の視線と言葉を断ち切り、僕は歩き出す。
遙か彼方からの思いを抱き、僕たちの故郷、北鎌倉へ。
流水さん……
あなたが生まれ育った場所へ。
あなたが愛した湖翠さんが待っている場所へ。
帰りましょう。
ご挨拶 (不要な方はスルー)
****
志生帆 海です。いつも読んでくださってありがとうございます。
本日から12章スタートです。
長い番外編にお付き合いいただいて、ありがとうございました。
予告通り、舞台は再び月影寺へと戻っていきます。
何が待っているのか。
あと一つ……いや二つかな。
彼らには乗り越えないといけないものがあります。
またコツコツと、更新させていただこうと思っています。
どうぞよろしくお願いします。
翠さんの澄んだ静かな声が、どこまでも心地よく広がっていく。
ここは宇治駅から一時間ほど、徒歩で山を登った所にある朽ち果てる寸前の廃墟。
こんな場所に夕凪が住んでいたのか。
部屋の中を見渡すと不思議と懐かしい気持ちが満ちてくる。
俺はここを知っているのか……
そう問えば……
知っていると心が教えてくれる。
「洋は、ここを覚えているのか」
「いや、だが懐かしいという気持ちだけは残っている」
「そうか」
丈もどこか感慨深げに室内を見渡していた。ここは夕凪が人生を全うした場所だ。彼は幸せだった。そう確信できる気配が微かに残っていた。
やがて厳かに墓石が動かされ、中から骨壺が取り出された。
骨壺は全部で三つだ。
夕凪
信二郎
そして流水さん……
翠さんの読経の声が静かに広がり、一つ一つの骨壺が流さんの手で丁寧に包まれ、御霊移しの儀式は、終わりを迎えた。
「終わったよ。さぁ家に帰ろう」
翠さんの凛とした声を合図に、俺たちは帰路に就く。
……
道昭が宇治まで車で迎えに来てくれて、京都駅まで送ってくれた。
「翠、気をつけて帰れよ」
「今回は何から何までありがとう。お前がいなかったらこんなに順調にはいかなかったよ」
「いつでも頼ってくれ。お前とまた友達らしいことが出来て嬉しかったから」
「うん、僕もだ。じゃあ……」
「お前さ……」
何か言いたげげな道昭の視線と言葉を断ち切り、僕は歩き出す。
遙か彼方からの思いを抱き、僕たちの故郷、北鎌倉へ。
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あなたが愛した湖翠さんが待っている場所へ。
帰りましょう。
ご挨拶 (不要な方はスルー)
****
志生帆 海です。いつも読んでくださってありがとうございます。
本日から12章スタートです。
長い番外編にお付き合いいただいて、ありがとうございました。
予告通り、舞台は再び月影寺へと戻っていきます。
何が待っているのか。
あと一つ……いや二つかな。
彼らには乗り越えないといけないものがあります。
またコツコツと、更新させていただこうと思っています。
どうぞよろしくお願いします。
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