重なる月

志生帆 海

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11章

夏休み番外編『SUMMER VACATION 2nd』10

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 翠のこんな姿と行動は、初めて見た。

 自ら手を差し出し縛っていいだなんて……

 その言葉のひとつひとつに感動すら覚える。

 胸の下に押し倒した翠を見つめ、この一年を反芻した。

 あの宮崎で一気に進んだ俺たちの関係。

 この一年をかけてじっくりと育んできた愛。

 この月影寺で躰を初めて繋げた日のこと。雷雨に打たれ茶室で惜しむように抱き合った時間が、今でも鮮明に浮かぶ。

 京都の宇治の廃屋で過去へと向き合いながら、抱き合い、生きている命を確認した日のことも。

「翠の言う……こことはどこだ?」
「馬鹿、いちいち聞くな。……流が縛りたいところを縛ればいい」

 そんな寛大なお許しをもらえるなんて、動揺するじゃないか。

 即答で断られると思っていたから。

 自分の手に握っているしなやかな絹の腰紐を思わず見つめてしまった。

「流……どうした?」

 片手で兄さんの手を頭上で絡めとって固定したままなので、俺を見上げる兄さんの体勢はひどく淫らなに揺らいでいた。

 手を……その手首を固定してもいいのか。

 それとも……視線は兄さんの憂いを帯びた優しい眼差しへと動く。

 その目を塞いで暗黒の世界へ連れて行っても?

 胸元の突起を見つめれば、その部分を目立つように躰を縛り上げたいという欲望の火が灯り、更に視線は下半身へ……そこを縛って兄さんの欲望を俺で制御したくなる。

 やりたいことだらけで、何からしたらいいのか迷ってしまう。

「……馬鹿だな。流、迷うことなんてない。一度きりではないよ」

 翠は身動きが出来ない状態で首を反らしながら、俺のことを真摯に見つめていた。

「そんなに嬉しいことばかり言うな。俺を甘やかし過ぎだぞ。少し前まで、どうやっても手に入らなかった翠の躰。抱けるだけでも幸せなのに……」

「……何故だろう。流に縛って欲しいと思うなんて、僕も驚いている。でも自然にそう思ったのだから、遠慮しなくていい」

「翠……」

 ならばもう止められない。

「後悔するなよ」
「あぁ、どこでもいい……流に委ねる。僕の全てを……」

 翠は目をゆっくりと閉じた。


****

 そうは言ったものの……

 今頭上でまとめられている手を流に縛られると思っていた。

 だから、ふっと躰の力を抜いた。

 なのに手は解き放たれた。

「えっ?」

 流の手は、そのまま僕の股間へと向かっていた。

「えっ……ちょっと……待て、そこは……」
「どこを縛ってもいいんだろう?」
「そうは言ったが……そこは」

 慌てて手で抗ったが、すぐに力強く制された。

 流の指先がまるで焼き物の土を扱うように股間に触れてくる。それから『ろくろ』を回すように僕のものに触れ、ぐいぐいと育てあげていく。

 巧みな手さばきで僕のもの硬くなって、あっという間に張りつめていく。

「あっ……あ……」

 流が工房で真摯な眼差しで、ろくろを回している姿。

 あの男らしい職人の目だ。

 僕の脳裏には、そんな流の男らしい姿が浮かびあがっていた。

 僕の股間を育てていく流の手は、まるで神の手のよう。

「気持ちいいか……」
「うっ……」

 流は僕の股間を丁寧に愛撫しながら、脚の付け根に向かって舌を這わす。

 大事な地点まで辿り着きそうで、辿りつかないのが、ひどくもどかしい。

 いつも寸止め状態で戻っていってしまう。じれったい。

「そろそろいいか」
「あ……」

 ピンと張りつめた僕のもの。

 流が腰紐でその根本を器用にきゅっと縛り上げていく。

「んんっ……いや……だ」

 そんな。もう限界だ。

 今すぐ出したいのに、こんな状態で待てなんて耐えられないよ。

 流のその口で愛撫して欲しい。

 じらさないで……

 野獣のように、しゃぶりついてもいいから。

「翠にも俺の長年の苦しみを少し理解して欲しいのかもな」

 そんなことを言って、勝手に放出できないように縛り上げられてしまった。

 着付けが上手な流らしく、少しの緩みもなくきゅっと縛り上げられた部分が食い込んで痛い。

「なんだか……いいな。この光景。まるで贈り物のようだ」
「馬鹿……もういいだろう。もう解いてくれ」
「これからだよ」

 戸惑った。

 いつも僕の欲望を積極的に出すことを勧める流が、こんなことをするなんて。

「もっと感じて……」

 流の唇が、普段触れない部分へと触れだした。

 足の指と指の股。

「やだ……そこは汚い……」

 そんな場所に触れると思っていなくて、風呂上りとはいえ羞恥心で一杯だ。

「じゃあここは?」

 今度は膝の裏をべろりと舐められた。

 脚を全部上げられ、そんな場所を舐められたら、僕の白い紐で縛られた性器が丸見えになってしまう。恥ずかしく苦しくて、思わず呻き声を上げてしまった。

 まるで赤子がおむつを替えるような姿勢を取らされ、膝の裏から足の付け根まで愛撫をたっぷりされて、股間がもう痛いくらいに張りつめていた。

 もうもう……出したくて溜まらない。

 苦しくて、流にしがみついて強請ってしまう。

「流……りゅう……もう自由に……してくれ。一緒に……」
「まだだ。俺がいつも我慢していた気持ち伝わるか」
「痛いほどに……」

 充分……分かった。

 僕がいけなかった。

 いつまでも……いつまでも慎重すぎて保身的だった。

 流を守るといいながら、守っていたのは自分なのか。

 若き日々の苦い思い出。

 急に怖くなった。

 また流が僕を置いていってしまうのではと。

 股間が痛い。
 苦しい。
 流が消えてしまう。

「翠……そんなに泣くな」

 何もかも入り混ざって涙がとめどなく溢れてくると、流の手が見事な手さばきで僕の苦しみを解放してくれた。

 白い絹の腰紐がはらりと解かれた瞬間、溢れ出していくのは僕の流への想いの丈。

 ドクドクと零れ落ちていく、僕の想いを流が掬いとっていく。

 大切に愛しそうに、辿る舌先にぞくぞくと震えがとまらない。

 もう止まらないよ……

 僕を求めて。
 僕に挿れて。
 僕を満たして。


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