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11章
夏休み番外編『SUMMER VACATION 2nd』9
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「流がやってみたい事とは……何だ?」
流が宝物を手に入れたように何かを握りしめ、僕を見下ろしている。
ワクワクとした表情に幼き流の面影を見つけ、懐かしく思った。
「これさ」
目の前に差し出されたのは、浴衣を着る時に使う腰紐だった。
「正絹の腰紐だ。夕凪の浴衣と一緒に入っていたのが落ちていた」
触れると、しなやかな手触りで少しひんやりと心地良かった。
「生地が薄いから一見頼りなさそうだが、さすが絹だよな。張りがあって実は丈夫だし身体にも良く馴染む。まるで……これは翠のようだ」
「ん? どこが僕なんだ?」
意味が分からなくて、聞いてみた。
「そうだな、躰に馴染むってところかな」
「おい! もう言うな……お前の口は、まったく」
「で、使っていいか」
「だからそれをどうすると?」
「ちぇっ、翠は初心だな」
そこまで言われて、はっと気が付いた。
紐とは……縛るためにあるのだと。
「りゅ……流は何がしたいんだ?」
「なぁ怒るか。翠を……縛りたいなんて言ったら」
はぁ……やっぱり。
流が哀願するような目で僕を見る。
その目は駄目だ。僕は流の言うことなら何でも聞いてあげたくなる。
いつの間にか立場が逆転していた。弟として従順な流は、今はいない。
「お前は馬鹿だな。そんな目をして……全く」
「翠は初心だからきつく縛らないから」
「やっ……約束できるか」
「あぁ一度だけ……翠のそんな姿見せてくれ」
一度で済むはずがないだろう。そう突っ込みたがったが、気が付けばまたコクリと頷いて了承していた。
僕は流の手を借りて一旦身体を起こされ、改めて自分の姿を見て唖然とした。
浴衣が着崩れるにも、ほどがある。もう上半身は完全に剥かれ、浴衣の裾も割れ太腿が見えている。腰紐だけでかろうじで躰に張り付き、あられもない姿だった。
こんな姿だったら、いっそ裸の方がましではと思ってしまう。
もう流には何もかも見せたつもりだったが、流にとっては、まだまだなのかもしれないな。
「で……どこを縛りたいのか」
「いいのか」
そう返事すると、流の男らしい喉仏がゴクリと音を立てて上下した。
まったく……そんなにしてみたいのか。
お前が欲しがるものは何でもしてあげたいよ。
遠い昔、出来なかったこと。
お前が無念だったことなら、何でもしてやりたい。
だから……
「いいよ、ほら」
流の胸の前に両手を差し出した。
「翠っ!」
その手を頭上で押さえつけるように再び布団に押し倒される。
まるで飢えた野獣みたいに、流が興奮し覆い被さってくる。
「あっ……」
流の大きな手によって、頭上で手首を拘束されただけでも、羞恥に震えた。
同時に、僕の中で何かが弾けた。
流と初めて繋がってから、もう一年が過ぎようとしている。
この一年、流はどこまでも僕を優しく宝物のように抱き、こんな風に拘束することは一度もなく、僕が嫌がることも絶対にしなかった。
でも、もう少し強く……もっと強く……
僕の中でなにかが目覚め、何かを求めだしているのは、自分自身が一番よく知っている。そのことに気が付いてしまったのだ。
「ここを縛ってもいい」
「いいのか」
「あぁ」
「縛ったまま、抱いてくれ」
「翠……翠の口からそんな言葉が漏れるなんて信じられない」
「僕だって……男だ」
自分で発した言葉の意味が分からなかった。
でも僕からも何かをしたくなっていた。
僕は流に縛られることによって、繋ぎ留められたいのかもしれない。
どこまでも一緒に生きていくから、どんな姿にもなってもいい。
様々な僕の姿を、その目に焼き付けて欲しい。
流が宝物を手に入れたように何かを握りしめ、僕を見下ろしている。
ワクワクとした表情に幼き流の面影を見つけ、懐かしく思った。
「これさ」
目の前に差し出されたのは、浴衣を着る時に使う腰紐だった。
「正絹の腰紐だ。夕凪の浴衣と一緒に入っていたのが落ちていた」
触れると、しなやかな手触りで少しひんやりと心地良かった。
「生地が薄いから一見頼りなさそうだが、さすが絹だよな。張りがあって実は丈夫だし身体にも良く馴染む。まるで……これは翠のようだ」
「ん? どこが僕なんだ?」
意味が分からなくて、聞いてみた。
「そうだな、躰に馴染むってところかな」
「おい! もう言うな……お前の口は、まったく」
「で、使っていいか」
「だからそれをどうすると?」
「ちぇっ、翠は初心だな」
そこまで言われて、はっと気が付いた。
紐とは……縛るためにあるのだと。
「りゅ……流は何がしたいんだ?」
「なぁ怒るか。翠を……縛りたいなんて言ったら」
はぁ……やっぱり。
流が哀願するような目で僕を見る。
その目は駄目だ。僕は流の言うことなら何でも聞いてあげたくなる。
いつの間にか立場が逆転していた。弟として従順な流は、今はいない。
「お前は馬鹿だな。そんな目をして……全く」
「翠は初心だからきつく縛らないから」
「やっ……約束できるか」
「あぁ一度だけ……翠のそんな姿見せてくれ」
一度で済むはずがないだろう。そう突っ込みたがったが、気が付けばまたコクリと頷いて了承していた。
僕は流の手を借りて一旦身体を起こされ、改めて自分の姿を見て唖然とした。
浴衣が着崩れるにも、ほどがある。もう上半身は完全に剥かれ、浴衣の裾も割れ太腿が見えている。腰紐だけでかろうじで躰に張り付き、あられもない姿だった。
こんな姿だったら、いっそ裸の方がましではと思ってしまう。
もう流には何もかも見せたつもりだったが、流にとっては、まだまだなのかもしれないな。
「で……どこを縛りたいのか」
「いいのか」
そう返事すると、流の男らしい喉仏がゴクリと音を立てて上下した。
まったく……そんなにしてみたいのか。
お前が欲しがるものは何でもしてあげたいよ。
遠い昔、出来なかったこと。
お前が無念だったことなら、何でもしてやりたい。
だから……
「いいよ、ほら」
流の胸の前に両手を差し出した。
「翠っ!」
その手を頭上で押さえつけるように再び布団に押し倒される。
まるで飢えた野獣みたいに、流が興奮し覆い被さってくる。
「あっ……」
流の大きな手によって、頭上で手首を拘束されただけでも、羞恥に震えた。
同時に、僕の中で何かが弾けた。
流と初めて繋がってから、もう一年が過ぎようとしている。
この一年、流はどこまでも僕を優しく宝物のように抱き、こんな風に拘束することは一度もなく、僕が嫌がることも絶対にしなかった。
でも、もう少し強く……もっと強く……
僕の中でなにかが目覚め、何かを求めだしているのは、自分自身が一番よく知っている。そのことに気が付いてしまったのだ。
「ここを縛ってもいい」
「いいのか」
「あぁ」
「縛ったまま、抱いてくれ」
「翠……翠の口からそんな言葉が漏れるなんて信じられない」
「僕だって……男だ」
自分で発した言葉の意味が分からなかった。
でも僕からも何かをしたくなっていた。
僕は流に縛られることによって、繋ぎ留められたいのかもしれない。
どこまでも一緒に生きていくから、どんな姿にもなってもいい。
様々な僕の姿を、その目に焼き付けて欲しい。
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