重なる月

志生帆 海

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11章

夏休み番外編『SUMMER VACATION 2nd』8

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「ふぅ、やっと邪魔者は帰ったな」
「流、そんな風にいうもんじゃないよ。大事な弟だろう」

 翠が窘めるように、俺の肩に手を置いてくれた。

「まぁな。なぁそれにしても最近、丈の奴、面白くなったと思わないか。あいつがまさか裸になるとはな。くくくっ思い出してもウケるな」
「ふふっそうだね。僕もまさか丈があんな行動をとるなんて思わなかった」

 俺が笑えば翠も目を細めて、優しく甘く微笑んでくれる。

 翠はもう兄の顔ではなく、俺の恋人の顔に戻っていた。

 こんな和やかなひと時は、少し前には絶対に望めないものだった。

 ようやくだ。

 ようやく俺たちここまで辿り着いた。

 ここまで来るのに、どれだけお互い密かに泣いたことか。

「そろそろ寝ないと……」

 翠が伏し目がちに誘う。

 分かっている、続きをご所望だろう。

「行こう。もう一度あの部屋へ」
「いいか流、今日は一度だけだぞ。その……僕もさっきのままじゃ辛いから……許すんだ」

 言い訳がましく言う様子も、はっきり言って可愛いだけだ。

「ふっ、俺が欲しい時は、翠も欲しい時だろう」
「それ……言うな」

 困惑した表情にも、ぐっとくる。

 この端正な顔を、早く染め上げて乱れさせたい。

 和室に入ると、さっき俺たちが乱した布団がそのまま敷かれていた。

 翠が乱れて作ったシーツの波が生々しい。

「あっ……」
「どうした?」
「この布団……もしかして洋くんが見たんじゃ」
「あー気にすんなよ。お互い様だ」
「うっ……恥ずかしいよ」

 翠が真っ赤になっている。

 洋くんの前では、せめて凛とした兄でいたいのだろう。

「気にするな。どうせあいつらだって、今頃さ」
「流……僕は……でも」

 恥じらいを捨てきれない様子で翠が後ずさるので、腕を腰に回して引き留めた。そしてそのまま、再び布団へと押し倒す。

「あっ、流っ……」
「時間ないんだろう? 一度しか駄目なんだろう?」
「……う、ん」

 忙しなく翠に口づけを繰り返すと、翠の薄い胸は酸素を求めて上下する。

 その様子に、なぜか感極まる。

 生きている。

 お互い生きて愛し合える。

 そのことへの喜びが募る。

 翠の浴衣を、大きく崩していく。

 手でガバッっと胸元を左右に開き、心臓の下の傷跡に口づける。

 翠はこれがお好みではないらしく、決まって抗うのだ。

 首を横に振り嫌そうな顔をする。

 だがそんな表情も俺を煽ってしまうことを知っているのか。

「流……そこに触れるな。そこは……いやだ」

 ここのせいで、兄さんはこの寺を捨てた。

 憎い。

 でもこの傷のおかげで……

 翠は巡り巡って、俺のものになった。

 そう思ったら、やっぱり愛おしい。

 恭しく口づけを施し、さらにその上の小さな突起を丸ごとしゃぶる。

「んんっ!!」

 過敏に反応した腰が跳ねる。

 浮いた腰に手を差し込み、ぐっと俺の胸に密着させる。

「あぁ」

 翠の手が、畳の上で藻掻く。

 ふと、その先に一本の紐が見えた。

 まだ翠の浴衣の帯は解いていないのに、何だろう?

 手に取って確認すると、洋くんに着付けした時に出した腰紐だった。仕舞い忘れたのか。

 普段なら絶対に思いつかないのに、夏の宵のせいか翠に対して妖しい欲望が欲情が生まれてしまった。

 やばいな。

「流……どうした?」

 手を停めたのを不思議に思ったのだろう、翠がギュッと瞑っていた目を大きく開いた。

 無防備な顔だ。

 俺にだけ見せる、無垢な姿にソソラレル。

 もっと俺だけのものにしたいという独占欲が湧いて……しょうがない。

「翠、一度やってみたいことがある」



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