重なる月

志生帆 海

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11章

夏休み番外編『SUMMER VACATION 2nd』3

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「やれやれ今日は散々だったな」
「丈、このスーツどうするつもりだ?」

 洋が苦笑しながら、バスルームでスーツに含まれた水分を絞ってる。

「駄目になったか」
「うーん……なんでスーツのまま来たんだよ」
「それは決まっているだろう」

 洗面所に立つ洋をバックハグし、華奢な肩に顎を載せて耳元で囁くと、彼はくすぐったそうに長い睫毛を伏せた。

「んっそんなところで喋るなよ」
「洋に早く会いたかったんだ」
「……そ、そうか」
「バスローブを纏った洋の姿だけでもソソラレルのに、さっきは裸なんて驚いたぞ」
「あれは! その、いやらしい意味はなくて……純粋にゲームだ。そう遊びの一環で」
「くくっ、洋の可愛いの丸見えだったな」

 恥ずかしそうに身をよじる洋の腰を固定し、バスローブの裾から太股へと手を這わす。そのまま股間の中央のものを探し当て、手のひらですっぽりと包み込んでやった。

「んっ……馬鹿。ダメだ」
「やっぱり手のひらサイズだ」
「おい! それ言うな!」
「もう少し大きくなるのか」
「うっ……」

 そのまま包み込んだモノをしごき上げていくと、洋の腰がカタカタと小さく震え出した。身体が揺れるたびに洋の手も揺れ、洗面所に張った水がぴちゃぴちゃとタイルの床に跳ねていく。

「丈、今はスーツ洗ってるから、駄目だって」
「プールであんな姿を見せられて、我慢しろと?」
「だからあれは、遊びで」
「洋がリラックスしては入れるようにプールを設置したが、まさかあそこまでリラックスした姿になるとはな」
「悪かったから、だから……もう離してくれよ」

 涙目で洋が訴えてくるので、さすがにやりすぎたかと思い解放してやった。

 夜はまだ長い。しかしあのシャワールームで、まさかイチモツの大きさを測定されるとは思わなかった。

 まさか私が最下位だったなんて、流石にショックだったぞ。

 いやあれは相手が悪かったのだ。でも安志くんに負けたのは不覚だった。

 彼にはどうしても敵わないものがある。それは洋がこの世に生まれた時から一緒だったということ。あどけない乳飲み子だった頃、幼稚園、小学校、中学校、高校と、私が知らない洋を彼は知っている。

「丈、どうした?」

 私が黙ると、洋が心配そうに振り返った。

 悟られるまい。

 さっきの結果を洋に知られなくてよかった。

(私は洋をいつも満足させているか)

 そんな問いは……問うことが出来ず呑み込んだ。

(しっかりしろ……)

 頭を振り、バカげた質問は追い出すことにした。すると今度はふと今日の帰り道に見かけた浴衣姿のカップルのことが脳裏に蘇った。

「そうだ洋、今日は浴衣を着てくれるか」
「え……また変なこと考えているだろう? 前は温泉宿で散々な目に……外でも剥かれて大変だったんだぞ」
「よく覚えているな。まだ出会って間もない頃のことを」
「当たり前だ。白昼堂々とあんなことするなんて」

 洋は当時を思い出したのか頬を赤らめていた。

「ははっ悪かったよ。なぁ夕凪の浴衣を流兄さんに預かってもらっただろう? お盆だし供養も込めて着てみないか」
「夕凪のか……そうだね……それなら、いいよ」

 夕凪の名を出したのはフェアじゃない気もするが、どうしても浴衣を着て欲しかった。

「よし、じゃあ今から借りに行こう」
「今から? お邪魔じゃないか」
「大丈夫だろう。まだ夜は更けていない」
「うっうん」

 洋の手を引いて、翠兄さんの部屋へ向かう。

 今日は安志くんと涼くんが母屋の二階を使っているので、兄さんたちはそれぞれの離れの家で過ごしているはずだ。


****

「翠さ、今日、ズルしたわけじゃないよな」

 そう問うと、テーブルで冷酒が入った硝子の杯を傾けていた翠が目を見開いた。

「何のことだ?」
「だからシャワールームでの測定のことだよ」
「あぁそのことか。なにを言い出すのかと思ったら、お前は全く」

 翠が柔和に微笑む……
 そうだ、その笑顔が好きだ。

「当たり前だろう。公明正大な測定で、私心なんて挟んでいない」
「だよな。翠はそういう男だもんな。でも俺が勝って嬉しかっただろう」
「流……変なこと聞くな」

 身を乗り出して翠の髪に触れると、翠は頬を赤らめた。

「俺の好きか」
「お……前……」

 普段は取り澄ました顔を剥がしていくのが、堪らない。

 酒を交わしながら言葉で翠を追い詰めていけば、寝床でも花咲くように乱れてくれるのを知っているから、煽りたくなるよ。

 久しぶりの二人きりの夜だ。

 薙には申し訳ないと思うが、あいつの合宿にかこつけて羽目を外したい。

「今日は寝かさない……」
「馬鹿、明日からお盆だよ。朝から忙しいんだから無理させるな」
「そうか……じゃあ一度だけ、濃厚なのを」
「ふっ……お前は全く……いいよ。流……お前の逞しいの……あっ」
「いいね。最後まで言って……」
「うっ……」

 酔った勢いで滑った言葉なのかもしれないが、俺の翠の口からそんな卑猥な言葉な漏れるなんて……幸せすぎる!


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