重なる月

志生帆 海

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11章

夏休み番外編『SUMMER VACATION 2nd』1

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 今回は更に砕けたコメディ調の話です。
 変な解放感が、作者に漲っています! 

 シリアスだけがお好みの方は飛ばしてくださいね。

 ちょうど裸族プールから上がったシャワールームへ向かう所からスタートします。







****

 翠兄さんの先導で、翠さんの新しい家に設置されたシャワールームへと案内された。

 壁一面が窓になっている、とても明るい空間だ。

 ここからはさっき私たちが大騒ぎしたプールがよく見える。

 というか……この家はどうして全面ガラス張りなんだ?

 これでは、向かいに立つ流兄さんの家が丸見えだ。

 あぁそうか、わざと見えるように造られているのだ。

 ふたりのために。

 私と洋の家がそうであるように、ここは翠兄さんと流兄さんのためだけの家なのだと、改めて強く思った。

「丈さん~シャワー先に俺が使いますよ」

 ぼんやりしていると、安志くんに先を越された。

 何だかそれが癪で、私はその横に割り込んだ。

「いや、私が先だ」
「ちょっ! 狭いっすよ。丈さん」
「何を言う? 少し詰めれば二人でシャワーを浴びることも可能だ」
「まったく、大きさ比べだけじゃ足りず、こんなところまで一番争いですか」
「なっ! 私は大きさなど比べていない!」
「えーだってさっき俺の股間じっと見ていたじゃないですか。俺のは興奮すればもっと太く大きく硬くなるんですよ」
「なっなんだって。私のだって負けてない!!」
「ぷぷぷ……おいおい、お前たちの会話、かなり変態でぶっ飛んでるぞ!」

 声の主を見れば、流兄さんだった。

 肩に白いタオルをかけて全裸で、相変わらず筋肉が均等についたアスリートのように見惚れる身体だ。

 くそっ、私はこの兄にはいつも敵わない。

「流兄さん、じゃあ私と安志くんのどっちが立派ですか」

「それ俺に聞くー? 参ったな。俺は歪んだ目だからジャッジは兄さんに委ねよう。翠兄さん来て下さいよ」

 翠兄さんは半ば呆れ顔で近づいてきた。

「はぁ……流はまた馬鹿なことを、もういい加減にしないと」

 翠兄さんは我関せずをいう面持ちで、檜風呂に優雅につかって微笑んでいた。

 檜の香りと翠兄さんの裸体はとても厳かな雰囲気で、狭いシャワールームにひしめき合っている私たちとは大違いだ。

「確かに馬鹿馬鹿しいな。私はいいから、先に使えばいい」
「あっ逃げるのか。さては丈は自信ないんだな」

 流兄さんが煽るようなことを言うので、立ち止まってしまった。

 一体どうして、こんな下らない事で揉めているのか……

 もはや理解不可能だが、洋の手前、負けられないと思った。

「いいでしょう。翠兄さんメジャーで測ってください。こういうことは正確にしていただかないと!」

「メジャー? くくっ細かいな」
「私は医師ですからね、細かいんですよ」
「ははっ!! 分かったわかった」
「流も丈も強情だね。じゃあ兄として公平に測ろう。安志くんのも、いいのかい?」
「いいっす! お願いします!」

 安志くんはどこかワクワクと少年のような期待に満ちた笑顔で股間を見せて、ふんぞり返った。

 あーあ、小学校の修学旅行の風呂じゃあるまいし。いや小学生の頃だって、私はこんなバカなことしなかったぞ。

 同級生がやっていても冷めた目で見ていたのに、なんでこの年で、イチモツの大きさ比べを?

 訳がわからないな。

 腰にタオルを巻いた翠兄さんが神妙な手つきで、長さを測定し出した。

 私たちは囚人のようにビシッと直立不動だ。

「長さだけでいい? 太さはどうする?」

 翠兄さんの惚けた声に一気に脱力する。

「両方で勝負だ」

 それに乗る流兄さん……

 こんな光景、洋や涼くんに見られたらと思うと冷や冷やする。

「じゃあ一番大きい人が最初にシャワーを使えることにしよう。なぁそれでいいか」

 翠兄さんお得意の長男モードスマイルに、皆、ただコクリと頷いて、結果を待った。

「では、結果を発表するよ」

 緊張するな。洋のためにも一番になりたい。

「長さ部門の一番はね、流。次が丈。安志くんの順番だったよ」

 なんと……やはり流兄さんには負けたか。
 ならば……せめて太さでは勝ちたい。

 目をぎゅっと瞑り、願いを込めた。

「太さはね、一番が安志くん。これは圧倒的だったよ。流も負けていなかったけれども……そして最後が丈だった」

 なんと……嘘だろ。ショックだ。
 洋許してくれ……相手が手ごわかった。

「だから、シャワーの順番はポイントの合計で流、安志くん、丈の順番だよ。これで異議はないね」

 翠兄さんが澄ました顔で、微笑んでいた。

 私はがっくしと肩を落とした。

「やったー番か! バランスいいな、俺の! 」

「イエイ! 太さでは圧倒的だって! ヤッター!」

 流兄さんと安志くんの嬉しそうな声が、浴室に響く。

「……丈は僕と風呂に入ろう」
 
 翠兄さんに肩をポンっと叩かれ、私は檜風呂に浸かった。

「楽しいな。丈。こんな夏休みはいつぶりだろう。いつぶりどころじゃないな。僕たち兄弟にとって初めてだ。賑やかでいい。すごく……明日からお盆で、僕は激務になるけれども、これで頑張れそうだよ。楽しい時間をありがとうな」

 翠兄さんの長男らしい振る舞いと言葉に、癒される。

「ええ。私も楽しかったです。たまには羽目を外すのも悪くないものですね」

「うん、お前はずっと殻に閉じこもっていたからな。やっぱりこの月影寺に新しい風を運んできてくれたのは洋くんだ。僕は洋くんを受け入れて本当に良かったと思っている」

 馬鹿騒ぎだった。

 でもただそれだけはない……思い出が、確実に生まれた。

 堅苦しく閉じこもって生きて来た私にも、孤独に生きて来た洋にとっても、この月影寺は大切な憩いの場所だ。

「ほら、丈の番だぜ」

 豪快に笑う流兄さんに手を差しだされ、私はその手を握った。

 兄たち。

 私の兄たちと笑い合えることが嬉しかった。

 きっと幼い自分もこんな風になりたかった。

 今からでもいい。

 まだ間に合うだろう。

 この空間ではもっと、心を解放していこう。


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