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11章
解けていく 16
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胸先を弄る流の手の動きが、一段と妖しくなってくる。
僕は漏れそうなる声を必死に噛み殺しながら、高められていく躰の熱に悶えていた。
「うっ……はっ」
白い蒸気に包まれながら、はしたない声をあげてしまうことが無性に恥ずかしく、思わず俯いてしまう。
「翠、顔を見せろ」
「……」
「なぜ顔を隠す?」
「……だってここは明るすぎる。それに借り物の風呂だから早く上がらないと、道昭が怪しむだろう」
「ふっ……長い理由だな。しょうがない。続きはあがってからにしよう。俺のは、もうこんなだけどな」
そう言いながら、流が僕の手を股間へと導くので、びくっと肩を震わせてしまった。
「あっ……流のこんなに? これじゃ辛いだろう……すまない」
「あーこんなのもう慣れてるさ。いつも翠のことを見てはこんなになっていたからな」
「ばっ馬鹿っ!」
「なぁ翠……春には新しい家が出来る。楽しみだな」
流の手が、すっと僕から離れた。
トーンダウンさせようとしているのだ。
出さないで大丈夫なのだろうかと案じたが、流なりに処置は心得ているようで、必死に話を切り替えて、高まりを静めようとしているのが分かり、不憫に思った。
「流の工房……楽しみだな」
「俺のことはどうでもいいんだ。あれは翠のための家だ」
「そうか……着工は来年になってからだよね。もうかなり具体的になってきているのか。お前はいつもひとりで打ち合わせしてしまうから、僕はいまだに詳細が分からないよ。そろそろ図面だけでも見せて欲しいな」
「楽しみにしていろ。どこにいても翠を見ることが出来る家さ」
「……それって僕がどこにいても、流のことを見られる家ってことだな。ずっと見つめていられるのか」
流の言葉を言い直してやると、流の顔は珍しく真っ赤になった。
「どうした?」
流は明らかに照れていた。
弟の流の……こんな顔は久しぶりに見る。
「流……?」
そっと汗と蒸気で湿った黒髪をなでてやると、はにかんだ笑顔を浮かべた。
「……嘘みたいだ。翠からそんな言葉を聞けるなんて」
****
今日の学会も無事に終わった。
当初、高瀬くんと丈の三人で飲む予定だったが、昼食を共にしたメンバーも合流しての大きな飲み会になってしまった。
創作の焼き鳥やさんはカウンター席のみで入りきれないので、居酒屋に行くことになってしまったのもがっかりだが、もっと気がかりなことがある。
高瀬君のさっきの言葉を反芻していた。
今、高瀬くんは他のメンバーに囲まれ楽しそうに歩いている。
俺はその背中を見つめながら、眉をひそめてしまった。
そんな訳で歩調が遅れがちな俺に、丈がさり気なく合わせてくれた。
「どうした? 洋は浮かない顔だな」
「……大丈夫だ」
「大丈夫じゃないな? 何か心配ごとがあるようだ」
「……」
まったく丈って奴は、いつだって鋭い。
「飲み会では……丈の隣に座れるかな」
なんと伝えていいのか分からなかったが、子供みたいに丈の傍にいたいと願ってしまった。そんな俺の様子を丈はじっと見つめ、やがて柔らかく微笑んで肩をぽんっと叩いてくれた。
「あぁ隣に座ろう」
触れてもらった部分が温かいと思った。
いつだって俺の不安を察して拭ってくれるのは、丈だった。
いつの時代も、いつも傍に。
僕は漏れそうなる声を必死に噛み殺しながら、高められていく躰の熱に悶えていた。
「うっ……はっ」
白い蒸気に包まれながら、はしたない声をあげてしまうことが無性に恥ずかしく、思わず俯いてしまう。
「翠、顔を見せろ」
「……」
「なぜ顔を隠す?」
「……だってここは明るすぎる。それに借り物の風呂だから早く上がらないと、道昭が怪しむだろう」
「ふっ……長い理由だな。しょうがない。続きはあがってからにしよう。俺のは、もうこんなだけどな」
そう言いながら、流が僕の手を股間へと導くので、びくっと肩を震わせてしまった。
「あっ……流のこんなに? これじゃ辛いだろう……すまない」
「あーこんなのもう慣れてるさ。いつも翠のことを見てはこんなになっていたからな」
「ばっ馬鹿っ!」
「なぁ翠……春には新しい家が出来る。楽しみだな」
流の手が、すっと僕から離れた。
トーンダウンさせようとしているのだ。
出さないで大丈夫なのだろうかと案じたが、流なりに処置は心得ているようで、必死に話を切り替えて、高まりを静めようとしているのが分かり、不憫に思った。
「流の工房……楽しみだな」
「俺のことはどうでもいいんだ。あれは翠のための家だ」
「そうか……着工は来年になってからだよね。もうかなり具体的になってきているのか。お前はいつもひとりで打ち合わせしてしまうから、僕はいまだに詳細が分からないよ。そろそろ図面だけでも見せて欲しいな」
「楽しみにしていろ。どこにいても翠を見ることが出来る家さ」
「……それって僕がどこにいても、流のことを見られる家ってことだな。ずっと見つめていられるのか」
流の言葉を言い直してやると、流の顔は珍しく真っ赤になった。
「どうした?」
流は明らかに照れていた。
弟の流の……こんな顔は久しぶりに見る。
「流……?」
そっと汗と蒸気で湿った黒髪をなでてやると、はにかんだ笑顔を浮かべた。
「……嘘みたいだ。翠からそんな言葉を聞けるなんて」
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今日の学会も無事に終わった。
当初、高瀬くんと丈の三人で飲む予定だったが、昼食を共にしたメンバーも合流しての大きな飲み会になってしまった。
創作の焼き鳥やさんはカウンター席のみで入りきれないので、居酒屋に行くことになってしまったのもがっかりだが、もっと気がかりなことがある。
高瀬君のさっきの言葉を反芻していた。
今、高瀬くんは他のメンバーに囲まれ楽しそうに歩いている。
俺はその背中を見つめながら、眉をひそめてしまった。
そんな訳で歩調が遅れがちな俺に、丈がさり気なく合わせてくれた。
「どうした? 洋は浮かない顔だな」
「……大丈夫だ」
「大丈夫じゃないな? 何か心配ごとがあるようだ」
「……」
まったく丈って奴は、いつだって鋭い。
「飲み会では……丈の隣に座れるかな」
なんと伝えていいのか分からなかったが、子供みたいに丈の傍にいたいと願ってしまった。そんな俺の様子を丈はじっと見つめ、やがて柔らかく微笑んで肩をぽんっと叩いてくれた。
「あぁ隣に座ろう」
触れてもらった部分が温かいと思った。
いつだって俺の不安を察して拭ってくれるのは、丈だった。
いつの時代も、いつも傍に。
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