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11章
有明の月 6
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優しい丈。
いつも俺のことを労わり、優しく接してくれる。
そんな丈に俺は何を返せているだろうか、何を与えられているのだろうか。
「洋……今何を考えている」
丈の熱いものを躰の奥に受け止めながら、そんなことを考えてしまった。
「何も……」
「洋は嘘つきだな」
グイっと腰を更に抱きかかえられ、脚が震える。
前後に大きく揺さぶられると、快楽の波に躰がどんどん呑まれていくのを感じた。仰向けの姿勢で見上げれば、丈の額にも汗がうっすら浮かんでいた。
「あっ……うっ……」
「丈……俺は」
「洋、考え過ぎるな。今は身を任せて」
「う……ん」
悪い癖だ。
頭の中でいろいろ考え過ぎてしまうのは、いつになっても変われない。
それでも丈に触れていると、心が落ち着いて来る。
躰の奥を開かれ、迸る体温を感じていると、その温かさに涙が滲むほど気持ち良くなってくる。
「あ……あっ……いい……すごく気持ちが……」
次の瞬間はっと目覚めると、俺は丈の腕の中で眠っていた。
裸に剥かれていた躰は綺麗に処理してもらったようでさっぱりしているし、しっかりとホテルのパジャマを着ていた。
「ん……」
喉が渇いて何か飲みたいと身じろぎすると丈を起こしてしまったようで、暗闇で目があった。
「洋、水か」
「うん」
「やっぱり体調が悪かったな」
「え……そうかな」
「一度達したら…そのまま眠るように気を失ってしまって心配したぞ。それに今日は気もそぞろだったろう」
「……っつ」
何もかも丈にはお見通しなのが恥ずかしいが、やっぱり俺の丈なんだなぁとしみじみと思う。
確かに疲れていたのに無理したのがいけなかったのか、一度丈のものを受け止めた後の記憶が定かではない。
丈は起き上がり、冷蔵庫から冷たい水を持って来てくれた。
「ありがとう」
喉を降りていくヒンヤリとした感触にほっと溜息をつくと丈が覗き込んで、額に手を当ててくれた。
心配そうな表情を浮かべさせてしまったことに、小さな罪悪感が芽生える。
「やっぱり少し熱っぽいな」
「そうかな、この位なら大丈夫だよ」
「とにかくまだ夜が明けるには時間がある。ちゃんと寝てろ」
「丈は?」
「あぁ目が覚めてしまったから、少し仕事でもするか、洋が少しでもゆっくり眠れるようにな」
そう言ってベッドから出て行こうとする丈の腕を引き留めてしまった。
「ここにいて欲しい」
「洋、どうした? 甘えた声だな」
「……甘えている」
そう素直に伝えると、丈は困ったような笑顔を浮かべながらも、布団の中に戻ってきてくれた。だから俺は丈の腕の中に再び飛び込んだ。
「丈、俺……何か変だった」
「どうした?」
「昨日はやみくもに焦って、嫉妬もしたり意地も張った」
「おいおい、どうした?ずいぶん殊勝だな」
「とにかく、ごめん」
それだけ言うと、肩の荷が降りたようにほっとした。
照れくさくなって背を向けると……
丈はそんな俺を目を細めて見つめ、優しく背中をさすってくれた。
「洋の感情、うまく受け止めてやれなくて私も悪かった」
「いや……丈はいつだって、根気よく受け止めてくれるのに、意地を張ったのは俺だ」
「洋……」
ギュッと背中が丈の胸につく程、キツク抱きしめられる。
「前を見るのは大事なことだ。前を向いて歩くことも。特に洋の場合、過去をもうこれ以上振り返りたくない気持ちもあるのも分かる。でもすべての過去が今の洋を作っているんだ。洋の過去も含めて私は洋のことを愛しているのだから」
「丈……俺は……」
ふと窓の外を見れば、月がまだ残っているのに夜が明けていこうとしていた。
空は少しずつ明るくなっていく。
でもそこには、透けそうなほど儚い有明の月が、控えめにひっそりと残っていた。
いつも俺のことを労わり、優しく接してくれる。
そんな丈に俺は何を返せているだろうか、何を与えられているのだろうか。
「洋……今何を考えている」
丈の熱いものを躰の奥に受け止めながら、そんなことを考えてしまった。
「何も……」
「洋は嘘つきだな」
グイっと腰を更に抱きかかえられ、脚が震える。
前後に大きく揺さぶられると、快楽の波に躰がどんどん呑まれていくのを感じた。仰向けの姿勢で見上げれば、丈の額にも汗がうっすら浮かんでいた。
「あっ……うっ……」
「丈……俺は」
「洋、考え過ぎるな。今は身を任せて」
「う……ん」
悪い癖だ。
頭の中でいろいろ考え過ぎてしまうのは、いつになっても変われない。
それでも丈に触れていると、心が落ち着いて来る。
躰の奥を開かれ、迸る体温を感じていると、その温かさに涙が滲むほど気持ち良くなってくる。
「あ……あっ……いい……すごく気持ちが……」
次の瞬間はっと目覚めると、俺は丈の腕の中で眠っていた。
裸に剥かれていた躰は綺麗に処理してもらったようでさっぱりしているし、しっかりとホテルのパジャマを着ていた。
「ん……」
喉が渇いて何か飲みたいと身じろぎすると丈を起こしてしまったようで、暗闇で目があった。
「洋、水か」
「うん」
「やっぱり体調が悪かったな」
「え……そうかな」
「一度達したら…そのまま眠るように気を失ってしまって心配したぞ。それに今日は気もそぞろだったろう」
「……っつ」
何もかも丈にはお見通しなのが恥ずかしいが、やっぱり俺の丈なんだなぁとしみじみと思う。
確かに疲れていたのに無理したのがいけなかったのか、一度丈のものを受け止めた後の記憶が定かではない。
丈は起き上がり、冷蔵庫から冷たい水を持って来てくれた。
「ありがとう」
喉を降りていくヒンヤリとした感触にほっと溜息をつくと丈が覗き込んで、額に手を当ててくれた。
心配そうな表情を浮かべさせてしまったことに、小さな罪悪感が芽生える。
「やっぱり少し熱っぽいな」
「そうかな、この位なら大丈夫だよ」
「とにかくまだ夜が明けるには時間がある。ちゃんと寝てろ」
「丈は?」
「あぁ目が覚めてしまったから、少し仕事でもするか、洋が少しでもゆっくり眠れるようにな」
そう言ってベッドから出て行こうとする丈の腕を引き留めてしまった。
「ここにいて欲しい」
「洋、どうした? 甘えた声だな」
「……甘えている」
そう素直に伝えると、丈は困ったような笑顔を浮かべながらも、布団の中に戻ってきてくれた。だから俺は丈の腕の中に再び飛び込んだ。
「丈、俺……何か変だった」
「どうした?」
「昨日はやみくもに焦って、嫉妬もしたり意地も張った」
「おいおい、どうした?ずいぶん殊勝だな」
「とにかく、ごめん」
それだけ言うと、肩の荷が降りたようにほっとした。
照れくさくなって背を向けると……
丈はそんな俺を目を細めて見つめ、優しく背中をさすってくれた。
「洋の感情、うまく受け止めてやれなくて私も悪かった」
「いや……丈はいつだって、根気よく受け止めてくれるのに、意地を張ったのは俺だ」
「洋……」
ギュッと背中が丈の胸につく程、キツク抱きしめられる。
「前を見るのは大事なことだ。前を向いて歩くことも。特に洋の場合、過去をもうこれ以上振り返りたくない気持ちもあるのも分かる。でもすべての過去が今の洋を作っているんだ。洋の過去も含めて私は洋のことを愛しているのだから」
「丈……俺は……」
ふと窓の外を見れば、月がまだ残っているのに夜が明けていこうとしていた。
空は少しずつ明るくなっていく。
でもそこには、透けそうなほど儚い有明の月が、控えめにひっそりと残っていた。
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