重なる月

志生帆 海

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11章

有明の月 4

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「兄さんが見つかったんですね。無事ですか。はい、はい分かりました。本当に良かった!」

 二度目の電話は、丈の腕の中で聴いた。

 丈の早まる鼓動を、背中で受け止めながら。

 流さんとの通話を終え、丈は安堵の溜息をついた。

 そのことで俺も、翠さんの無事を確信できた。

「翠さん無事に見つかったのか」

「あぁ宇治の廃屋で倒れていたそうだ」

「えっ翠さんが倒れて?救急車を呼ばなくていいのか。丈が行かなくていいのか」

 倒れたという言葉に過敏に反応してしまうと、丈が甘く笑った。

「ふっ……洋、お前可愛いな。意外と初心だ」

「なっなんだよ」

「翠兄さんには、特効薬が届いただろう?」

「え……あっ……丈、お前もしかして、気が付いて」

「流兄さんの必死な様子に、流石にな。前からまさかとは思っていたが、やはりそうなのか」

 少し戸惑い気味な表情なのも、もっともなことだろう。丈にとっては血の通った実の兄同士が愛しあっていることになるのだから。

「そういう洋は気が付いていたんだな、もっと前に」

「う……ん、でも俺からは言い出せなかった。だから丈が気づくのを待っていた」

「そうか。でも昔からあの二人の間には特別な空気が流れていたから、自然と納得できた。いろいろ辻褄があった。いつからだ、いつの間にそういう関係に?」

「いにしえの……」

「いにしえ?」

「うん、丈と俺がそうであったように、お兄さんたちにもいにしえからの縁があったんだ。それが今回の京都への旅の目的でもある夕凪を囲む、曾おじいさんたちの世代の話だ」

「そうなのか……だから翠兄さんはあんなに必死に夕凪の行方を追っていたのか」

「夕凪は俺ともつながっているから……複雑な因縁だよ、まったく」

「洋は……」

 そこまで言いかけて丈は苦し気な顔をし、会話が途絶えた。

「丈?どうした」

 いきなりそのまま身体を反転され、ベッドに仰向けにされた。

 手を絡めとられ、頭の横にギュッと固定される。

 思わず身体が強張ってしまう。

 丈に必要以上に力が入っていた。

「なっ何?」

「もうこれ以上はいい。私の洋は私のものだ。もう過去の哀しみを背負わないで欲しい。
洋、君は抱えすぎている。いろんなものを」

「丈……」

 丈がそんなことを言うなんて、驚いた。

 でも伝わって来た。

 ヨウのことや洋月の君の想いだけでも精一杯だったのに、さらに夕凪の想いも抱えていると知って心配しているのが分かる。

 ヨウにはジョウが、洋月には丈の中将がいた。

 では夕凪には誰がいたのだろう。

 やはり丈のような存在がいたのか。

 いや、もうやめよう。これ以上探求しなくてもいいような気がした。

 何故なら、俺たちはもう固い絆で結ばれているから。


「丈……大丈夫だよ。俺は俺だ。丈を今この世で愛しているのが俺だから」

 唇をそっと合わせた。

 丈からも俺からも求め合った。

 それが合図。

 緊張していた身体から力を抜き、丈を今宵も受け入れる合図を送った。


「抱いていいか」

「もちろんだ」




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