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11章
いにしえの声 18
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「じゃあな!拓人」
「あぁ薙、バスに気を付けろよ」
いつもの曲がり角で拓人と別れた。
結局、拓人とは一緒に帰った。部活がお互いにないのだから、それも筋だろうと思った。それに俺が泣いたこと見抜いたお前の事は、オレも一目置いている。強がっているオレのことを気にしてくれて、気恥ずかしいけれども、こんな関係も悪くないと思ったよ。
こんな友人……今までにいたかな。
あの夏休み前に最後に一緒に歩いたクラスメイトはどうしただろう?
結局、引っ越し先も知らせなかった。
そんなことを珍しく思い出した。東京のことなんて、もう考えるのも嫌だったのに。
細い街道をはみ出しそうに路線バスが走っていくのを避けながら、月影寺までの道を急いだ。相変わらず危なっかしい道だよな。歩道が狭いし道も狭い。
「ただいまっ!」
勢いよく玄関の扉を開くと、見知らぬ靴を見つけた。
誰だ?
怪訝に思いながら靴を脱いで上がった。
「おう!お帰り」
「おお……薙か。大きくなったな」
流さんと一緒に出迎えてくれたのは……そうか、靴は祖父のものだったのか。
実際に会うのは久しぶりだ。最後に会ったのは二年前の夏休みだった。オレがこの夏の終わりにこの寺に来た時は、祖父母はもう月影寺に住んでいなかったから。
「……おじいさん」
なんとなく気まずくて、呆然としていると、流さんに肩を叩かれた。
「悪いな。俺、ちょっと今から京都に行ってくる」
「え?」
なんで……オレと過ごすんじゃなかった?
昨日約束したじゃん!
そう言いたかったけれども、ぐっと我慢した。
流さんはそんなオレの気持を察してくれたようだ。
「ごめんな。昨日のお前との約束は来週でもいいか。緊急なんだ」
「どうかしたの?」
自分でも驚くほど暗く冷たい声だった。
その声に流さんも一瞬たじろいだようだった。
「あぁ翠……いや兄さんと連絡が取れなくてな、嫌な胸騒ぎがするんだ」
「父さんと?」
何か変だよな。
俺の父さんはもう確かもう38歳のいい大人だろう。なんでそんな子供が迷子になったように心配してんだよ。
オレとの約束は簡単に破ってさ。
「薙? 怒っているよな。ごめんな」
「なんでもないよっ!勝手に行けば!」
「薙……本当に悪かった。だがな、お前の父さんでもあるんだ。心配じゃないのか」
「別に……あんな人……どうでもいい」
約束を破られた腹いせに悪態をついてしまう。
自分でも最低だって思うのに、言葉は止まらない。
「薙、そんな言い方はよせ」
「うるさいなっ! 早く行けよっ」
双方の様子を見ていた祖父が溜息をついた。
「薙や、そんな態度は駄目だ。人を赦せるようにならないと駄目だ。これも一つの修行だと思いなさい。世の中は思い通りにはいかないものだよ」
そんな風に諭されても効き目はない。
「俺はこんな寺なんて大っ嫌いだ! 大きくなったら絶対出て行ってやる! 縛られたくない。仏の教えとかそんなんに……もっと自由に生きたい!」
もう爆発した勢いは止まらない。
悪態をつけるだけついて、部屋に逃げた。
やがて流さんが出かけて行く気配を感じた。
でもその前に俺の部屋のドアをノックしてくれた。
「薙。本当に悪かったな。お前のその反発する気持ち、分かるんだ。俺もそうだったから。ここまで来るのに遠回りもしたし足踏みもした。でもな、やっぱりじーさんの言うことは間違ってはいない。大きく……大きく捉えることが大事だ。おにぎり置いておくよ。とにかく、お前の父さんの行方がこんな時間になっても分からないんだ。探してくるから」
父さんのこと、俺だって心配していないわけじゃないんだ。
ただ……ただ素直になれないだけ。
自分の中の気持に整理が出来なくて、悔し涙が零れた。
こんな自分は好きじゃない。
「あぁ薙、バスに気を付けろよ」
いつもの曲がり角で拓人と別れた。
結局、拓人とは一緒に帰った。部活がお互いにないのだから、それも筋だろうと思った。それに俺が泣いたこと見抜いたお前の事は、オレも一目置いている。強がっているオレのことを気にしてくれて、気恥ずかしいけれども、こんな関係も悪くないと思ったよ。
こんな友人……今までにいたかな。
あの夏休み前に最後に一緒に歩いたクラスメイトはどうしただろう?
結局、引っ越し先も知らせなかった。
そんなことを珍しく思い出した。東京のことなんて、もう考えるのも嫌だったのに。
細い街道をはみ出しそうに路線バスが走っていくのを避けながら、月影寺までの道を急いだ。相変わらず危なっかしい道だよな。歩道が狭いし道も狭い。
「ただいまっ!」
勢いよく玄関の扉を開くと、見知らぬ靴を見つけた。
誰だ?
怪訝に思いながら靴を脱いで上がった。
「おう!お帰り」
「おお……薙か。大きくなったな」
流さんと一緒に出迎えてくれたのは……そうか、靴は祖父のものだったのか。
実際に会うのは久しぶりだ。最後に会ったのは二年前の夏休みだった。オレがこの夏の終わりにこの寺に来た時は、祖父母はもう月影寺に住んでいなかったから。
「……おじいさん」
なんとなく気まずくて、呆然としていると、流さんに肩を叩かれた。
「悪いな。俺、ちょっと今から京都に行ってくる」
「え?」
なんで……オレと過ごすんじゃなかった?
昨日約束したじゃん!
そう言いたかったけれども、ぐっと我慢した。
流さんはそんなオレの気持を察してくれたようだ。
「ごめんな。昨日のお前との約束は来週でもいいか。緊急なんだ」
「どうかしたの?」
自分でも驚くほど暗く冷たい声だった。
その声に流さんも一瞬たじろいだようだった。
「あぁ翠……いや兄さんと連絡が取れなくてな、嫌な胸騒ぎがするんだ」
「父さんと?」
何か変だよな。
俺の父さんはもう確かもう38歳のいい大人だろう。なんでそんな子供が迷子になったように心配してんだよ。
オレとの約束は簡単に破ってさ。
「薙? 怒っているよな。ごめんな」
「なんでもないよっ!勝手に行けば!」
「薙……本当に悪かった。だがな、お前の父さんでもあるんだ。心配じゃないのか」
「別に……あんな人……どうでもいい」
約束を破られた腹いせに悪態をついてしまう。
自分でも最低だって思うのに、言葉は止まらない。
「薙、そんな言い方はよせ」
「うるさいなっ! 早く行けよっ」
双方の様子を見ていた祖父が溜息をついた。
「薙や、そんな態度は駄目だ。人を赦せるようにならないと駄目だ。これも一つの修行だと思いなさい。世の中は思い通りにはいかないものだよ」
そんな風に諭されても効き目はない。
「俺はこんな寺なんて大っ嫌いだ! 大きくなったら絶対出て行ってやる! 縛られたくない。仏の教えとかそんなんに……もっと自由に生きたい!」
もう爆発した勢いは止まらない。
悪態をつけるだけついて、部屋に逃げた。
やがて流さんが出かけて行く気配を感じた。
でもその前に俺の部屋のドアをノックしてくれた。
「薙。本当に悪かったな。お前のその反発する気持ち、分かるんだ。俺もそうだったから。ここまで来るのに遠回りもしたし足踏みもした。でもな、やっぱりじーさんの言うことは間違ってはいない。大きく……大きく捉えることが大事だ。おにぎり置いておくよ。とにかく、お前の父さんの行方がこんな時間になっても分からないんだ。探してくるから」
父さんのこと、俺だって心配していないわけじゃないんだ。
ただ……ただ素直になれないだけ。
自分の中の気持に整理が出来なくて、悔し涙が零れた。
こんな自分は好きじゃない。
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