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11章
初心をもって 18
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北鎌倉の朝は爽やかだ。
窓辺のブラインドを上げると、朝陽が眩しく射し込んできた。
同時に本格的な冬を迎える前の、この季節ならではの裏庭の景色が目に飛び込んでくる。
深まる秋に、ここ最近の充実した日々を重ね合わせた。
「……洋、おはよう」
京都にいる洋も、そろそろ起きた頃だろうか。
翠兄さんはいつも早起きだから、きっと起こされているだろうな。洋は寝起きが悪いから心配だ。
ゆっくり歩き出すと少しだけ気怠かった。キッチンで水を一杯飲み干すと、渇いていた身体が一気に潤っていく感じがした。
私は飢えているのか。
昨夜のことを想い出すと、感慨深い。
洋と電話越しに繋がれたのは、新鮮だった。
洋の方もあんなに積極的になってくれるなんて。
結局互いに一度ずつ白濁のものを自身の手のひらに零した。
だがやはり一度なんかじゃ足りないな。
身体の奥に持て余す熱を感じてしまう。
マスターベーションでは満たされない熱が残っている。
だが私も明日には京都に行き、夜にはこの腕で洋を抱ける。
それまでの辛抱だ。
そもそも金曜日から三日間、京都の外科医の学会への参加は、ずっと前から私が担当することに決まっていた。
少し紅葉の時期を過ぎるかもしれないが、深まる京都の秋を洋と歩けたらどんなにいいだろうと思い立ち、随分前から洋の予定も聞かずに宿の予約を入れておいたのは正解だったな。
まさか洋も仕事で行くことになるとは、その時予感すらなかったのだから、本当に人生とは何があるか分からない。
私が予約したのは鷹峯の麓のリゾートホテルだった。
洋が宿泊先を悩んでいたので、その旨を話すと「随分と用意周到だな」と笑っていた。
本当にその通りだ。
何をするにも洋となら、洋と一緒だったらもっと楽しいだろうと思ってしまうのだから、ある意味、病的でもあるよな。
シティホテルでは医者仲間と鉢合わせてしまう可能性が高いので、会員制でプライベートを重視出来るコテージタイプの部屋にした。最悪そこから一歩も出なくても済むしな。
確かに用意周到ではあるな。
くっ……
思わず自分に苦笑してしまった。
鷹峯の麓のリゾートホテルは、何年か前に学会で京都を訪れた時に宿として使った。
そもそも京都駅前や祇園などの繁華街よりも少し外れた分、長閑で、ゆるやかな坂道が伸びる鷹峯街道が好きだ。
リゾートホテルのある鷹峯エリアは、鷹峯三山(鷹ヶ峰、鷲ヶ峰、天ヶ峰)の鷹ヶ峰の南麓一帯で、山々をのぞむ街道沿いには、紅葉の名刹がいくつも点在し、色づく晩秋には多くの参拝者が訪れる恰好の観光名所だ。
そんな素晴らしい光景と、洋の姿を同時に想像すると、洋がいない一時の寂しさは払拭出来た。
****
まだ外は暗い。夜も明けきらぬ早朝だ。
霜月と言われるだけあて、寺の古い廊下は裸足の足にはひんやりと氷のように冷たかった。
「兄さん。起きる時間です。あ……そうか」
つい癖で、翠の部屋をノックして声をかけてしまった。
そうだ……翠は今は京都にいるのだ。
そのまま通りすぎようとしたのだが、薙の部屋から声がしたような気がしたので、そっと中に入ってみた。
布団を跳ね飛ばしたようで、羽毛布団は床に落ちていた。
ベッドの上で寒そうに丸まっている薙の様子がは、どこか寂し気だった。
「無理もないか。コイツ……まだ小さいんだよな」
父親に対して素直になれず突っ張っている所もあるが、まだ14歳だ。
年相応。いや年より若く見える寝顔が、あどけない。
「おい、風邪ひくぞ」
なんともなしに薙の顔を覗き込んで、ドキッとしてしまった。
長めの前髪で隠れた目元に……涙の痕を見つけてしまったから。
おい、どうして泣いている?
何が恋しくて?
何が寂しくて?
窓辺のブラインドを上げると、朝陽が眩しく射し込んできた。
同時に本格的な冬を迎える前の、この季節ならではの裏庭の景色が目に飛び込んでくる。
深まる秋に、ここ最近の充実した日々を重ね合わせた。
「……洋、おはよう」
京都にいる洋も、そろそろ起きた頃だろうか。
翠兄さんはいつも早起きだから、きっと起こされているだろうな。洋は寝起きが悪いから心配だ。
ゆっくり歩き出すと少しだけ気怠かった。キッチンで水を一杯飲み干すと、渇いていた身体が一気に潤っていく感じがした。
私は飢えているのか。
昨夜のことを想い出すと、感慨深い。
洋と電話越しに繋がれたのは、新鮮だった。
洋の方もあんなに積極的になってくれるなんて。
結局互いに一度ずつ白濁のものを自身の手のひらに零した。
だがやはり一度なんかじゃ足りないな。
身体の奥に持て余す熱を感じてしまう。
マスターベーションでは満たされない熱が残っている。
だが私も明日には京都に行き、夜にはこの腕で洋を抱ける。
それまでの辛抱だ。
そもそも金曜日から三日間、京都の外科医の学会への参加は、ずっと前から私が担当することに決まっていた。
少し紅葉の時期を過ぎるかもしれないが、深まる京都の秋を洋と歩けたらどんなにいいだろうと思い立ち、随分前から洋の予定も聞かずに宿の予約を入れておいたのは正解だったな。
まさか洋も仕事で行くことになるとは、その時予感すらなかったのだから、本当に人生とは何があるか分からない。
私が予約したのは鷹峯の麓のリゾートホテルだった。
洋が宿泊先を悩んでいたので、その旨を話すと「随分と用意周到だな」と笑っていた。
本当にその通りだ。
何をするにも洋となら、洋と一緒だったらもっと楽しいだろうと思ってしまうのだから、ある意味、病的でもあるよな。
シティホテルでは医者仲間と鉢合わせてしまう可能性が高いので、会員制でプライベートを重視出来るコテージタイプの部屋にした。最悪そこから一歩も出なくても済むしな。
確かに用意周到ではあるな。
くっ……
思わず自分に苦笑してしまった。
鷹峯の麓のリゾートホテルは、何年か前に学会で京都を訪れた時に宿として使った。
そもそも京都駅前や祇園などの繁華街よりも少し外れた分、長閑で、ゆるやかな坂道が伸びる鷹峯街道が好きだ。
リゾートホテルのある鷹峯エリアは、鷹峯三山(鷹ヶ峰、鷲ヶ峰、天ヶ峰)の鷹ヶ峰の南麓一帯で、山々をのぞむ街道沿いには、紅葉の名刹がいくつも点在し、色づく晩秋には多くの参拝者が訪れる恰好の観光名所だ。
そんな素晴らしい光景と、洋の姿を同時に想像すると、洋がいない一時の寂しさは払拭出来た。
****
まだ外は暗い。夜も明けきらぬ早朝だ。
霜月と言われるだけあて、寺の古い廊下は裸足の足にはひんやりと氷のように冷たかった。
「兄さん。起きる時間です。あ……そうか」
つい癖で、翠の部屋をノックして声をかけてしまった。
そうだ……翠は今は京都にいるのだ。
そのまま通りすぎようとしたのだが、薙の部屋から声がしたような気がしたので、そっと中に入ってみた。
布団を跳ね飛ばしたようで、羽毛布団は床に落ちていた。
ベッドの上で寒そうに丸まっている薙の様子がは、どこか寂し気だった。
「無理もないか。コイツ……まだ小さいんだよな」
父親に対して素直になれず突っ張っている所もあるが、まだ14歳だ。
年相応。いや年より若く見える寝顔が、あどけない。
「おい、風邪ひくぞ」
なんともなしに薙の顔を覗き込んで、ドキッとしてしまった。
長めの前髪で隠れた目元に……涙の痕を見つけてしまったから。
おい、どうして泣いている?
何が恋しくて?
何が寂しくて?
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