重なる月

志生帆 海

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11章

初心をもって 11

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R18

「洋、部屋に本当に翠兄さんはいないのか」
「あぁ、一時間程したら戻るって言っていたよ」
「ふっそうか、じゃあいいか」
「えっ何が」
「……繋がりたい」
「えぇっ?」

 まったく丈は、電話の向こうで突拍子もないことを言う。

 だいたいさっきから俺は丈の低く響く声に、ドキドキしっぱなしだっていうのに。

 こんな風に離れた場所で、電話しあうなんて久しぶりだ。ソウルでも北鎌倉でも、いつだって俺のすぐ横には丈がいたから。

「洋、布団はもう敷いたのか」
「……うん」
「じゃあそこに行け」

 丈は平然と言い放った。

 狡いよ。丈に抱かれ慣れた俺の躰が過敏に疼くことを知っている癖に……そんな風に低く下半身に響く声で、俺に命令するなんて。

 俺は言われた通りに布団の上に座り、和室の壁に背をつけた。そして、手にしていたスマホをスピーカーホンに切り替えた。

「丈、俺どうしたらいい?」
「今、浴衣か」
「……そうだよ」
「じゃあ胸元に手を入れて」
「う……ん」

 そっと自分の手を忍ばせ、胸元をまさぐってみた。乳首に指があたると、そこはビクンと震え、想像以上に感度が良くて驚いた。

 ここ……いつの間に、こんなに過敏になっていたのか。
 自分で触れても、こんな風になるなんて思わなかった。

 指先で丈がしてくれるように撫でてみるだけでも、どんどん芯を持って尖ってくる。

 尖ったらその次は……丈はいつもここを指先で摘まんで弄って来たよな……

 あっ気持ちいい。
 ここ……もっと触って欲しい。

「おいおい洋、もう勝手にし出しているのか」
「あっ……」

 恥ずかしい。
 勝手に俺……感じてた。

 こんな風になった躰で、丈の色香漂う声を聴いちゃダメだ。下半身が疼き出してしまう。

「ごっ、ごめん」

 でも、もう我慢できない。
 こんな……はしたないことをひとりでしちゃダメだ。

「洋、お前可愛いよ」

 もう俺はおかしい。
 丈の言葉でこんなに躰が痺れるなんて。

「洋の方から積極的にしてくれるなんてな。今どこを触っている?」
「ん……胸を……少しだけ」
「ならば下半身も辛いだろう、下着を下に降ろせ」
「あっ……ん」

 言われるままに浴衣を寛げ、下着を太腿のあたりまでずらすと、勃ちあがりつつある性器がぷるんと現れた。

「もうだいぶ勃っているだろう。そこを握り込んでみろ」
「うっ……こう?」
「そうだ。そのまま上下に扱け」

 まるで自分の手が、丈の手のように動き出す。

 するとどんどん硬さが増し、そそり立ってしまう。
 あ……駄目だ。こんなところで、ひとりで……

「もう……無理だ」
「大丈夫だ。ひとりじゃない。私の手だ」

 丈の誘うような声に躰はますます過敏に反応し、甘く疼き出す。

 先端から先走りが滲みだし、俺の手を湿らせていく。

「洋、先走りが溢れているぞ」
「あ……いやだ……そんな言い方するな」
「音が聴こえる」

 そう言わればヌルつく液が手の摩擦でねっとりした音を立てている。ヌチャヌチャと……張り詰めて苦しくて、吐く息も熱を持って激しくなってしまう。

「はぁ……んっ、丈」
「おいっ……そんな声で呼ぶな」
「丈も一緒にシテくれよ」
「あぁ」

 どんどん電話越しの丈の声も、熱を帯びてくる。

 毎晩のように丈に抱かれて過ごしていたので、自分で慰めるなんて、本当に久しぶりで……一度弄り出したら止まることを知らない快楽に襲われてしまう。

 でもこれは『自慰』ではない。だって電話越しに丈の声と息遣いを感じているのだから。

「洋、気持ちいいか」
「ん……すごくイイ。でもこれじゃ」

 欲情という海に溺れそうだ。
 羞恥心よりも快楽の方が勝るなんて。

「よし……次は横になって脚を開け。そして指先を唾液で濡らし中に挿れてみろ」
「えっ……そんなっ無理だ」
「出来るよ。洋になら」

 言われるがままに、俺は布団に仰向けになり、膝を立てて脚を開いた。

「ん……したよ」
「指をちゃんと挿入したか」
「それは……無理だ」
「ほらっ」
「あっ、はっ……あぁ」

 丈の声に反応して自分の指先を潜り込ましてみた。
 熱い!ここ……いつもこんなに火照っているのか。

 さらに深く潜らせると躰がビクンっと跳ねた。
 丈のものの侵入を思い出し、丈のものが欲しくなる。
 声が噛みしめられなくて漏れ出してしまう。

「んっもっと……もっと」

 もどかしい。丈が欲しい。

「洋、洋、愛してる」

 ストレートな言葉に限界近い躰が持って行かれてしまう。
 頭の中で丈を思い描き、丈に抱かれる。

「丈、俺も愛してる!」
「あぁ……いい子だ。もうイッテいいぞ」
「んっ……はぁ……あぁあっ……」

 指を増やし後ろを弄り、左手で前を弄るという破廉恥な姿で俺はとうとう弾けてしまった。先端から白濁の生暖かい液体が、ドクドクと溢れ出ていた。

「くっ」

 同時に電話の向こうの丈も弾けたようで、低く堪えた呻き声が聞こえた。

 はぁはぁと全速力で走り抜けたあとのように息があがって、肩が上下し、開ききった脚がガクガクと震えていた。

 しばらくぼんやりしていると、電話越しに丈に呼ばれた。

「洋、大丈夫か。もう一度風呂に入って来るといい」
「丈……馬鹿……何でこんなことを」
「いやだったか」
「いやじゃない……けど」
「けど?」
「うっ……」

 恥ずかしかったけれども、凄く気持ち良かった。

「洋、いつもと違って新鮮だったな。でもやっぱり生身の洋を抱きたくなるな。金曜日の夜は覚悟しておけよ」

「丈っ」

 すっかり丈にのせられた。

 京都で電話越しにするなんて、俺も相当な淫乱になったものだ。

 でも嫌じゃない。
 嬉しかった。

 躰は心地よい疲労感に包まれていた。

 俺は本当に丈が好きだ。

 その思いを込めて、湿った唇でスマートフォンにキスした。

 ちゅっとリップ音が丈に届いたらしい。

「お休みのキスをありがとう」

 俺達……離れていても心はひとつだ。

 今は触れられない距離にいるのに、ふたりはこんなにも満ちて潤って繋がっている。

 キスを交わそう。
 眠りに落ちるまで。

 今は隣りにいない君だけど、一番近くにいる君と共に。






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