重なる月

志生帆 海

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11章

夜の帳 9

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「まだだ……ちゃんと解さないと」
「あっ」

 私は洋の腰を持ち上げ、脚を左右に大きく割り開き、秘めたる部分へと舌をそっと這わした。洋はこの行為は特に恥ずかしいらしく、目をぎゅっと瞑って苦し気な吐息を漏らす。

「ん……じょ……丈、それいやだ。自分でするから」

 腰を捩って逃げようとするので私は両腕でガシっと抱え込んで、それを許さない。舌先を中心に這わせ、辿り挿し入れる。

「あぁ……いやっ……いやだ」

 だが本気の抵抗ではないのだ。

 洋の細い指先が私の肩や髪にひっきりなしに触れて来るのも愛おしいものだ。好きにさせてやる。その代わりと言わんばかりに今度は指先を挿入させて、洋の弱いところを探す。

「あっ……もうっ、もう大丈夫だから……早く」

 襞を広げられ悶える洋が、耳元で囁く。

 かき回すように動かせば、クチュっと卑猥な音が鳴る。

 感じすぎて目の端に涙が浮かんでいるのを、吸い取ってやる。

 それから汗ばんだ髪の毛を撫でてやると、嬉しそうに顔を綻ばせた。

「丈……」
「もう挿れるぞ」
「うん……」

 ニ本に増やしていた指を抜き、広がったそこにあてがって、一気に屹立で突き上げてやると、洋の腰が上に大きく跳ねた。

「んあっ!」

 何度こうやって抱き合っても、やはり挿入の瞬間には慣れないようで、息を止めそうになる洋の唇を優しく塞いでリラックスさせてやる。

 優しく抱きしめた腰ごと上下に揺らせば、甘い声が漏れて行く。

「あ……あ……俺……幸せだ」

 洋の短い感嘆の言葉。

 洋と躰を繋げる度に、こう囁いてくれるのだから堪らない。

 私の躰が、洋を幸せにしてやれることの喜びで満ち足りた気持ちになる。私のものが洋の躰と溶け合ってドクドクと脈打つことを下半身にしっかり感じている。

 洋のものと馴染むまで、じっと暫くそのまま抱き合った。

「もう……いいか」

 洋が無言で頷くのと引き換えに、辛抱から解き放たれ、おもいっきり腰を使って抽挿を繰り返す。

 何度も何度も……

 洋は啼く。

 私の呼吸も粗くなっていく。

 夜の帳の世界。

 ふたりだけの世界を漕いでいるような錯覚に陥るほど、ここは静かで温かい空間だ。



****

 あの後、もう一度洋を抱いてから共に果て、暫く休んだ後、洋を熱い風呂にいれてやった。洋は少し眠そうに目をこすりながら私の胸にもたれてくる。その仕草がいつもよりあどけない。

「丈……明日朝一番に電話してみるよ」
「あぁ、上手くいくといいな」

 医療系ライターの仕事がうまく軌道に乗ることを祈っている。そして京都への学会に同行して欲しい。

「丈の傍で働いてみたかったんだ。ずっと前から……」
「そうか」

 嬉しいことを。もう半分寝落ちしそうな洋の躰を背後から抱きしめて、細い項へ口づけする。

 シャツに隠れるギリギリのところへ痕をつける。こうやって私はひそかに洋が私のものだと噛みしめている。

 もう洋はどこかにも行かないのに、相変わらず昔の癖が抜けないようだ。

「んっ? 丈またつけたのか」
「あぁ……いやか」

 項を指で辿ると、洋がくすぐったそうに首を竦め、笑った。

「いやじゃない……丈らしいよ」

 幸せな夜。

 こんな夜を繰り返そう。

 夜になったら帳を下ろし、二人で籠ろう。

 その代わり洋も日中は、外の世界に飛び出して行け。

 実は……洋を守るだけの日々から、応援する日々への変化を少し恐れていた。だからこそ洋の目指す世界が私の外の世界に近いことを知り、本当に嬉しかった。

 何も人に求めてこなかったのに、洋にだけは違う。

 いつも傍に、近くに感じていたい存在だから。

「丈となら闇も怖くないな。むしろ夜が楽しみになったよ。抱き合うと……温かいな……」

 そんな洋の一言にも心躍る。
 君の不安。寂しさ。
 全部取り除いてあげたいから。


『夜の帳』了










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