重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
802 / 1,657
11章

第11章 プロローグ 

しおりを挟む
 長年僕のことを思い続けてくれた流と、夏に結ばれた。

 ずっと僕の中で堰き止めていた気持ちは、一度決壊すると溢れ出してしまった。

 求めすぎちゃ駄目だ。
 僕から流を求めては絶対に駄目だ。

 永遠に失うことになる。

 なぜかいつも心に灯っていた危険信号は、今はもう点滅していない。

 流から僕の胸に飛び込んできてくれた。

 あの夏の日から流に抱かれると、嬉しいのに切なくて何故だか泣きたくなる。
 
 遠い昔に叶えられなかった切なる願いが、記憶の海から溢れて来る。

 そんな恋と愛を……この歳になって、初めて知った。

 遠い回り道だったのか。

 いやすべての事柄には、深い意味はあるはずだ。

 僕は秋が深まっても、人知れず手に入れた幸せを大切に温めていた。

 誰にも知られないでいたい。二人きりで過ごす時があればいい。

 そう思っているのに、最近心が落ち着かない。

 何かすべき使命が近くに迫っているのを感じ、ざわついている。

 誰かが僕を呼んでいる。

「早く……来てくれ」と……


****

 俺がこの寺にやってきた意味。

 丈と暮らすだけでなく、もっと根底に深い理由があるような気がしてならない。

 翠さんが、流さんに愛されていることに気づいてしまった。

 その事実は何故だかとてもしっくりと来た。

 兄弟とかそういうこと以前に、彼らには深い因縁がある気がするのだ。

 誰が何と言おうと俺は、応援したい。

 きっと彼らには前世から決まった深い縁があることを、俺は身をもって理解出来る。

 俺と丈が経験したような輪廻転生が、ここにもあるのだろうか。

 今度は俺が、彼らを手助けする番だ。

 かつて大勢の人に支えられ、今があるように。

 役に立ちたい。

 ずっとこんな俺でも……誰かの役に立ちたいと願っていた。

 秋が深まっていく。

 誰かが遠くから俺達を呼んでいる。

「来て欲しい……」と、俺を誘う。










補足 (不要な方はスルー)



****

志生帆 海です、おはようございます。本日より11章に入りました。

今度は翠さんと流さんの輪廻転生物語をじっくりと書いていきます。もちろん洋も丈も奮闘します!

いよいよ『夕凪の空、京の香り』との最終的なリンクが始まっていきます。どうぞよろしくお願いします。

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

物語のその後

キサラギムツキ
BL
勇者パーティーの賢者が、たった1つ望んだものは……… 1話受け視点。2話攻め視点。 2日に分けて投稿予約済み ほぼバッドエンドよりのメリバ

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...