重なる月

志生帆 海

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11章

第11章 プロローグ 

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 長年僕のことを思い続けてくれた流と、夏に結ばれた。

 ずっと僕の中で堰き止めていた気持ちは、一度決壊すると溢れ出してしまった。

 求めすぎちゃ駄目だ。
 僕から流を求めては絶対に駄目だ。

 永遠に失うことになる。

 なぜかいつも心に灯っていた危険信号は、今はもう点滅していない。

 流から僕の胸に飛び込んできてくれた。

 あの夏の日から流に抱かれると、嬉しいのに切なくて何故だか泣きたくなる。
 
 遠い昔に叶えられなかった切なる願いが、記憶の海から溢れて来る。

 そんな恋と愛を……この歳になって、初めて知った。

 遠い回り道だったのか。

 いやすべての事柄には、深い意味はあるはずだ。

 僕は秋が深まっても、人知れず手に入れた幸せを大切に温めていた。

 誰にも知られないでいたい。二人きりで過ごす時があればいい。

 そう思っているのに、最近心が落ち着かない。

 何かすべき使命が近くに迫っているのを感じ、ざわついている。

 誰かが僕を呼んでいる。

「早く……来てくれ」と……


****

 俺がこの寺にやってきた意味。

 丈と暮らすだけでなく、もっと根底に深い理由があるような気がしてならない。

 翠さんが、流さんに愛されていることに気づいてしまった。

 その事実は何故だかとてもしっくりと来た。

 兄弟とかそういうこと以前に、彼らには深い因縁がある気がするのだ。

 誰が何と言おうと俺は、応援したい。

 きっと彼らには前世から決まった深い縁があることを、俺は身をもって理解出来る。

 俺と丈が経験したような輪廻転生が、ここにもあるのだろうか。

 今度は俺が、彼らを手助けする番だ。

 かつて大勢の人に支えられ、今があるように。

 役に立ちたい。

 ずっとこんな俺でも……誰かの役に立ちたいと願っていた。

 秋が深まっていく。

 誰かが遠くから俺達を呼んでいる。

「来て欲しい……」と、俺を誘う。










補足 (不要な方はスルー)



****

志生帆 海です、おはようございます。本日より11章に入りました。

今度は翠さんと流さんの輪廻転生物語をじっくりと書いていきます。もちろん洋も丈も奮闘します!

いよいよ『夕凪の空、京の香り』との最終的なリンクが始まっていきます。どうぞよろしくお願いします。

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