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第2部 10章
ただいまとお帰り 9
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「あっそうか」
風呂から上がりバスタオルで躰を拭きながら、着替えがないことにようやく気が付いた。昨日の肌着をつけるのは流石に憚られて、結局そのまま再びバスローブを羽織った。
「丈、お待たせ」
キッチンへ行くと、丈が朝食の仕度を手際良くしている最中だった。
「やっぱり丈は器用だよな」
「上がったのか。洋服は?」
「まだ洋服はこっちに移していなかったよ。昨日ここに泊まると思っていなくて……あれ? なんで丈は着替え持っているんだ」
「先に準備しておいた」
「えっいつの間にずるいな。俺はまだバスローブ姿なのに……」
「洋はその方が色っぽいぞ。懐かしいな、そういう姿。今、下着つけているのか」
「馬鹿!ほら焦げるぞ」
「おっと」
そんなに嬉しそうに笑うなよ。陽だまりの中で。
俺は未だにまだこの幸せに慣れなくて、ぎこちないっていうのに。
「まぁ後で取って来てやるから、まずは食べよう」
「ん、それ美味しそうだね」
キッチンカウンターで調理中のサンドイッチを覗き込むと、淹れたてのコーヒーを手渡された。
「運んでおいて」
「OK」
ソファに座ると、キッチンで料理をする丈の姿が真正面に見えた。
背が高い丈に合わせたのか、後ろの棚の位置もキッチンカウンターの高さも丁度良いらしく動きがスムーズだ。
「丈は料理や家事が本当に手際いいよな。いつ覚えたんだ?」
「どうした? 急にそんなこと」
「ほら、さっき教えてっていったじゃないか。丈のこと、これからはもっと知りたいと思っている。俺に出会うまで、どんな人生を送ってきたのか知りたい」
「ふっ、洋がそんなこと言うなんてな」
「駄目か」
「ははっ、最近の洋は少し翠兄さんに似て来たよ。流兄さんの気持ちが分かるな。お前に頼まれて嫌と言えるはずないじゃないか」
「そう?」
「少しずつでいいか。ゆっくり話していこう。時間はいくらでもある」
「うん聞かせてくれ」
****
「なぁ流、駄目か」
「翠兄さん……また俺を使うんですか」
「だってきっと困っているよ」
「そのうち自分で取りに来ますよ」
「いや……やっぱり届けてあげた方がいい」
「はいはい、分かりましたよ」
朝食を食べ終え、学校へ行く薙を見送ってから再び台所に戻ると、兄さんが手に紙袋を持って立っていた。
どうやら昨日母屋に戻らなかった洋くんの着替えを、洗濯物の中から詰めたらしい。
まぁ確かに下着の着替えがないのは困るよな。きっと昨夜はあいつらにとって初夜みたいなもんだ。洋くんの当然下着は汚れているだろうしな。
おっとこんな不埒な妄想をするなんて、下世話だよな。
しかし俺が急に行ったらお邪魔だろうに。
洋くん、頼むから……何か身に着けていてくれよ。
翠はそういうのに鈍感というか、まぁせっかくの翠の心遣いを無駄にするわけにもいかないし……っていうか自分で届ければいいのに!
まったく意地が悪い。俺が翠の頼みを断れないことを知っての悪行だな。
それでも、やれやれと言う気持ちだけではない。
新婚さんの初日を冷やかすような好奇心もあって、離れまで荷物を届けに行くことにした。
離れへの道すがら、俺も翠と気兼ねなく過ごせる空間が欲しいと思った。
どんな部屋がいいか想像してみると楽しい作業だ。まずは風呂場は必須だ。檜の香がする風呂なんて翠の清らかな雰囲気と合うだろうな。茶室もあるから、全体的に和風な家になるだろう。
考えだしたら止まらない。
愛しい人との住まいを想像するのは、こんなに楽しいものなのか。
俺は離れの外観に、翠との架空の新居を重ねて仰ぎ見た。
風呂から上がりバスタオルで躰を拭きながら、着替えがないことにようやく気が付いた。昨日の肌着をつけるのは流石に憚られて、結局そのまま再びバスローブを羽織った。
「丈、お待たせ」
キッチンへ行くと、丈が朝食の仕度を手際良くしている最中だった。
「やっぱり丈は器用だよな」
「上がったのか。洋服は?」
「まだ洋服はこっちに移していなかったよ。昨日ここに泊まると思っていなくて……あれ? なんで丈は着替え持っているんだ」
「先に準備しておいた」
「えっいつの間にずるいな。俺はまだバスローブ姿なのに……」
「洋はその方が色っぽいぞ。懐かしいな、そういう姿。今、下着つけているのか」
「馬鹿!ほら焦げるぞ」
「おっと」
そんなに嬉しそうに笑うなよ。陽だまりの中で。
俺は未だにまだこの幸せに慣れなくて、ぎこちないっていうのに。
「まぁ後で取って来てやるから、まずは食べよう」
「ん、それ美味しそうだね」
キッチンカウンターで調理中のサンドイッチを覗き込むと、淹れたてのコーヒーを手渡された。
「運んでおいて」
「OK」
ソファに座ると、キッチンで料理をする丈の姿が真正面に見えた。
背が高い丈に合わせたのか、後ろの棚の位置もキッチンカウンターの高さも丁度良いらしく動きがスムーズだ。
「丈は料理や家事が本当に手際いいよな。いつ覚えたんだ?」
「どうした? 急にそんなこと」
「ほら、さっき教えてっていったじゃないか。丈のこと、これからはもっと知りたいと思っている。俺に出会うまで、どんな人生を送ってきたのか知りたい」
「ふっ、洋がそんなこと言うなんてな」
「駄目か」
「ははっ、最近の洋は少し翠兄さんに似て来たよ。流兄さんの気持ちが分かるな。お前に頼まれて嫌と言えるはずないじゃないか」
「そう?」
「少しずつでいいか。ゆっくり話していこう。時間はいくらでもある」
「うん聞かせてくれ」
****
「なぁ流、駄目か」
「翠兄さん……また俺を使うんですか」
「だってきっと困っているよ」
「そのうち自分で取りに来ますよ」
「いや……やっぱり届けてあげた方がいい」
「はいはい、分かりましたよ」
朝食を食べ終え、学校へ行く薙を見送ってから再び台所に戻ると、兄さんが手に紙袋を持って立っていた。
どうやら昨日母屋に戻らなかった洋くんの着替えを、洗濯物の中から詰めたらしい。
まぁ確かに下着の着替えがないのは困るよな。きっと昨夜はあいつらにとって初夜みたいなもんだ。洋くんの当然下着は汚れているだろうしな。
おっとこんな不埒な妄想をするなんて、下世話だよな。
しかし俺が急に行ったらお邪魔だろうに。
洋くん、頼むから……何か身に着けていてくれよ。
翠はそういうのに鈍感というか、まぁせっかくの翠の心遣いを無駄にするわけにもいかないし……っていうか自分で届ければいいのに!
まったく意地が悪い。俺が翠の頼みを断れないことを知っての悪行だな。
それでも、やれやれと言う気持ちだけではない。
新婚さんの初日を冷やかすような好奇心もあって、離れまで荷物を届けに行くことにした。
離れへの道すがら、俺も翠と気兼ねなく過ごせる空間が欲しいと思った。
どんな部屋がいいか想像してみると楽しい作業だ。まずは風呂場は必須だ。檜の香がする風呂なんて翠の清らかな雰囲気と合うだろうな。茶室もあるから、全体的に和風な家になるだろう。
考えだしたら止まらない。
愛しい人との住まいを想像するのは、こんなに楽しいものなのか。
俺は離れの外観に、翠との架空の新居を重ねて仰ぎ見た。
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