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第2部 10章
ただいまとお帰り 4
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「……ただいま」
「お帰り」
すぐに玄関に現れたのは流さんだった。
おかえり……その言葉がとても新鮮だった。
母の仕事は年々忙しくなり、俺が中学生になってから夕食を平日一緒に取る事なんて、ほとんどなかった。
いつも真っ暗な部屋に入り、電気をひとりでつけた。食卓にはインスタントの弁当かお金が置いてあった。
母は家事が得意ではないらしく朝も弱いみたいで、とても夕食まで作る暇がないようだった。
「薙、遅かったな。もう夕食だぞ」
「あっうん、部活見学とかもあったから」
「そうか、まぁ詳しいことは食べながら聞こう。おいで」
流さんに促されてダイニングへ入ると、食卓には温かいビーフシチューが用意されていた。湯気の立った濃厚なソースに思わず鼓を打つ。なんというか、新鮮な光景だった。それに突っ張っていても、食べ物には弱いってやつ。
「薙、お帰り」
「あ……うん、ただいま」
今度は父さんにもちゃんと返事が出来た。父さんの顔色も、朝とは違って明るかった。俺が学校に行っている間に何かいいことでもあったのかな、こんな表情する人だったかな。
「学校どうだった? やっぱり父さんも行くべきだったんじゃないか」
「あ……でも大丈夫そうだ。友達ももう出来たし」
担任の先生は不満そうだったが一時的なことだろう。それに今更来られても、やっぱり気まずいし。
「へぇ、薙よかったな」
「同じクラスに転校生がいた」
「それは珍しいな。二学期からなんて」
「うん、あ……そういえば丈さんと洋さんは一緒に食べないの?」
見渡すと、テーブルにいつも必ずいる人の姿が見えないことに気が付いた。実は洋さんの綺麗な顔を眺めるのは悪くないと思っていたから、ちょっと残念だ。
「あぁ、あいつらは今日から別かな」
「どういうこと?」
「二人で暮らす家が出来たからさ」
流さんはあっけらかんと言うけど、このことは俺には疑問だった。
そもそもなんで洋さんが、この家の養子になったのか。
丈さんと二人暮らしって……やっぱりあれなのかな。いや……でも。頭の中でいろいろ想定しては、いやいやと否定して、でもやっぱりと肯定したりと忙しい。
洋さんの美しい顔。
丈さんの洋さんを守る感じ。
あれってやっぱりデキているのかな。
男同士でって奴なのか。
でも気持ち悪いとかそういう感情は、不思議と浮かばなかった。
むしろ先日の落雷での出来事を思い浮かべ、少し赤面してしまった。
あの丈さんの必死な様子。
横抱きにされた洋さんの儚さ……下手な男女よりもずっと絵になっていたもんな。
「薙、なにか聞きたいことがあるなら、はっきり言え」
流さんにそう言われても、聞けるもんじゃない。
それってさ、ヤボだろう。それに俺の心にも流さんを好きかもしれない淡い気持ちが芽生えているのを知っているから、何も言えるはずないじゃないか。
「なんでもねーよ。人は人だし……」
そこで父さんが口を開いた。
「薙、これだけは言っておくよ。お前が何を思っているか分からないが、丈と洋くんは生半可な気持ちじゃないんだよ」
「……分かっている」
言われなくても、分かっている。
人の心を尊重しろってことくらい。
****
すぐにベッドに押し倒されると思ったのに、違った。
「洋ここに立って」
丈がベッドに腰かけ、俺を前に立たす。
「なんで?」
「たまにはこういうのもいいだろう?」
丈が俺の胸を部屋着の上から撫でて来る。
乳首の位置を探して彷徨う指先に、感じてしまう。
「う……ん?」
「酔っ払ってこんなに肌を赤く染めて……本当に淫らな躰だな」
首筋をすぅっと撫でられて、ぞくりと粟立つ。
昼間、聴診器を当てられた時のことを思い出してしまう。
丈はいつもあんな風に診察しているのか。
なんだか少しだけ妬いてしまう。
独占欲。
こんな感情もったことなかったから、戸惑うよ。
丈の方は、何故かとても上機嫌だった。
「丈、今日は機嫌いいんだな」
「洋が職場に来てくれたからな」
「そんなことで?」
「あぁ嬉しかった」
そんな風に素直に言われると照れるし、少し罪悪感がわいてしまう。本当に思いつきで駆け出してしまって、迷惑もかけたのに……
「今日先輩に言われたよ」
「先輩って?」
「ほら貧血で倒れた洋を介抱してくれた医者だよ」
「あぁ、なんかすごく格好良い人だったね」
「おいおい?それはないだろう」
「ははっ、俺には丈が一番だよ」
「まぁあの先輩はまぁ…それなりにイケメンかもしれないが、コホンっそれはさておき、先輩に私の雰囲気が柔らかくなったと言われてな、なんだかそれが嬉しくて機嫌がいいのだ」
「そうなんだ」
「洋のお陰だ。洋のお陰で私は自分のことが好きになってきている。私は今まで面白みがない人間だったからな、ずっと自分の殻に閉じこもって」
「それは俺の方だよ、丈のお陰で家族も愛する人も手に入れたし、愛される喜びも知ったのに……あっ」
気が付くと、丈の手がいつの間にか巧に俺の上半身を裸に剥いていた。そして腰を両手で支えられ、ぐいっと抱き寄せられる。
立ったままの俺の胸が、丈の顔にあたりそうな距離まで近づいて、髪の毛がくすぐったいと思った瞬間に、乳首を口に含まれてびくっとしてしまった。
「んっ……」
始まりの合図だ。
「お帰り」
すぐに玄関に現れたのは流さんだった。
おかえり……その言葉がとても新鮮だった。
母の仕事は年々忙しくなり、俺が中学生になってから夕食を平日一緒に取る事なんて、ほとんどなかった。
いつも真っ暗な部屋に入り、電気をひとりでつけた。食卓にはインスタントの弁当かお金が置いてあった。
母は家事が得意ではないらしく朝も弱いみたいで、とても夕食まで作る暇がないようだった。
「薙、遅かったな。もう夕食だぞ」
「あっうん、部活見学とかもあったから」
「そうか、まぁ詳しいことは食べながら聞こう。おいで」
流さんに促されてダイニングへ入ると、食卓には温かいビーフシチューが用意されていた。湯気の立った濃厚なソースに思わず鼓を打つ。なんというか、新鮮な光景だった。それに突っ張っていても、食べ物には弱いってやつ。
「薙、お帰り」
「あ……うん、ただいま」
今度は父さんにもちゃんと返事が出来た。父さんの顔色も、朝とは違って明るかった。俺が学校に行っている間に何かいいことでもあったのかな、こんな表情する人だったかな。
「学校どうだった? やっぱり父さんも行くべきだったんじゃないか」
「あ……でも大丈夫そうだ。友達ももう出来たし」
担任の先生は不満そうだったが一時的なことだろう。それに今更来られても、やっぱり気まずいし。
「へぇ、薙よかったな」
「同じクラスに転校生がいた」
「それは珍しいな。二学期からなんて」
「うん、あ……そういえば丈さんと洋さんは一緒に食べないの?」
見渡すと、テーブルにいつも必ずいる人の姿が見えないことに気が付いた。実は洋さんの綺麗な顔を眺めるのは悪くないと思っていたから、ちょっと残念だ。
「あぁ、あいつらは今日から別かな」
「どういうこと?」
「二人で暮らす家が出来たからさ」
流さんはあっけらかんと言うけど、このことは俺には疑問だった。
そもそもなんで洋さんが、この家の養子になったのか。
丈さんと二人暮らしって……やっぱりあれなのかな。いや……でも。頭の中でいろいろ想定しては、いやいやと否定して、でもやっぱりと肯定したりと忙しい。
洋さんの美しい顔。
丈さんの洋さんを守る感じ。
あれってやっぱりデキているのかな。
男同士でって奴なのか。
でも気持ち悪いとかそういう感情は、不思議と浮かばなかった。
むしろ先日の落雷での出来事を思い浮かべ、少し赤面してしまった。
あの丈さんの必死な様子。
横抱きにされた洋さんの儚さ……下手な男女よりもずっと絵になっていたもんな。
「薙、なにか聞きたいことがあるなら、はっきり言え」
流さんにそう言われても、聞けるもんじゃない。
それってさ、ヤボだろう。それに俺の心にも流さんを好きかもしれない淡い気持ちが芽生えているのを知っているから、何も言えるはずないじゃないか。
「なんでもねーよ。人は人だし……」
そこで父さんが口を開いた。
「薙、これだけは言っておくよ。お前が何を思っているか分からないが、丈と洋くんは生半可な気持ちじゃないんだよ」
「……分かっている」
言われなくても、分かっている。
人の心を尊重しろってことくらい。
****
すぐにベッドに押し倒されると思ったのに、違った。
「洋ここに立って」
丈がベッドに腰かけ、俺を前に立たす。
「なんで?」
「たまにはこういうのもいいだろう?」
丈が俺の胸を部屋着の上から撫でて来る。
乳首の位置を探して彷徨う指先に、感じてしまう。
「う……ん?」
「酔っ払ってこんなに肌を赤く染めて……本当に淫らな躰だな」
首筋をすぅっと撫でられて、ぞくりと粟立つ。
昼間、聴診器を当てられた時のことを思い出してしまう。
丈はいつもあんな風に診察しているのか。
なんだか少しだけ妬いてしまう。
独占欲。
こんな感情もったことなかったから、戸惑うよ。
丈の方は、何故かとても上機嫌だった。
「丈、今日は機嫌いいんだな」
「洋が職場に来てくれたからな」
「そんなことで?」
「あぁ嬉しかった」
そんな風に素直に言われると照れるし、少し罪悪感がわいてしまう。本当に思いつきで駆け出してしまって、迷惑もかけたのに……
「今日先輩に言われたよ」
「先輩って?」
「ほら貧血で倒れた洋を介抱してくれた医者だよ」
「あぁ、なんかすごく格好良い人だったね」
「おいおい?それはないだろう」
「ははっ、俺には丈が一番だよ」
「まぁあの先輩はまぁ…それなりにイケメンかもしれないが、コホンっそれはさておき、先輩に私の雰囲気が柔らかくなったと言われてな、なんだかそれが嬉しくて機嫌がいいのだ」
「そうなんだ」
「洋のお陰だ。洋のお陰で私は自分のことが好きになってきている。私は今まで面白みがない人間だったからな、ずっと自分の殻に閉じこもって」
「それは俺の方だよ、丈のお陰で家族も愛する人も手に入れたし、愛される喜びも知ったのに……あっ」
気が付くと、丈の手がいつの間にか巧に俺の上半身を裸に剥いていた。そして腰を両手で支えられ、ぐいっと抱き寄せられる。
立ったままの俺の胸が、丈の顔にあたりそうな距離まで近づいて、髪の毛がくすぐったいと思った瞬間に、乳首を口に含まれてびくっとしてしまった。
「んっ……」
始まりの合図だ。
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