783 / 1,657
第2部 10章
振り向けばそこに… 7
しおりを挟む
リビングには暖炉があった。
つまりこの家には、煙突があるということか。
「洋くん、暖炉は珍しいかしら?」
「ええ、あまり馴染みはないです」
「もうこの家は丸ごと丈先生の希望通りなのよ。だから暖炉を設置することももちろん先生の鶴の一声よ。洋くんが冬場風邪をひきやすいって言っていたわ」
「確かに……喉が弱くてよく扁桃腺を腫らしてしまって……」
「暖炉の炎は優しく体を温めてくれますよ。暖炉の上でシチューを煮込んだり、焼き林檎を作ったり楽しまれてね」
「あっはい」
なんだか、もうこれが本当に夢か現か、あまりに幸せ過ぎる贈り物の連続で眩暈がするほどだよ。
黒い大理石の重厚な雰囲気のキッチンカウンターには既に赤ワインが横に置かれていた。そして正面の大きな窓一面が、吹き抜けの棚になっていて、そこにはワイングラスやリキュール類が飾るように並んでいて、まるでミニバーのようだ。
丈も俺もアルコールが好きだから、このソファに座って二人で酒を飲むことになるだろう。
もう俺の頭の中にはその様子が浮かんで、ドキドキしてしまう。
ふとソファの横のテレビの上の白壁を見ると、ちょうど俺達のデスクの前が室内窓になっていた。
あ……これ、すごくいいな。
机で仕事をしながら外の風景も、キッチンに立つ丈の姿も見えるのか。逆に俺がソファに座りながら、持ち帰った仕事でPC作業している丈の顔を見ることが出来る。
丈がこのリフォームを本当に細かいところまで気を配って考えてくれたことが分かって、感動した。
動線と視線のすべてが、俺と丈を結んでいる。
すごい……すごいよ。こんな家……見たことがない。
「洋くん、以上で確認は終わりです。確認もありがとうございました。はいこれ、このお家の鍵、今日からもう住めますよ」
野口さんから俺の手の平に落とされた鍵の重みを噛みしめた。
今すぐ丈に会ってお礼を言いたい。
無性にその気持ちが募って、もう爆発しそうだ!
時計を見ればまだ十一時。今から行けば丈の昼休みに間に合うだろうか。
「あの翠さん、俺、ちょっと出かけて来てもいいですか」
「うん?どこへ……あ、もしかして丈のところへ?」
「はい、どうしても今すぐお礼を言いたくて」
「いいね、きっと喜ぶよ。気を付けて行っておいで」
「おっ洋くん熱々だな!丈の奴、羨ましいよ。俺はちょっと野口さんに相談があるから、駅まで車で送ってやれないが大丈夫か」
「はい。バスで行きます」
「気を付けるんだぞ」
急いで部屋に戻り、出かける支度をしてバスに飛び乗った。
初めて向かう丈の職場の病院だ。
俺が急に訪ねて行ったら、さぞかし驚くだろうな。
高揚した気分はバスを降りても、電車に乗っている間もずっと続いていた。
つまりこの家には、煙突があるということか。
「洋くん、暖炉は珍しいかしら?」
「ええ、あまり馴染みはないです」
「もうこの家は丸ごと丈先生の希望通りなのよ。だから暖炉を設置することももちろん先生の鶴の一声よ。洋くんが冬場風邪をひきやすいって言っていたわ」
「確かに……喉が弱くてよく扁桃腺を腫らしてしまって……」
「暖炉の炎は優しく体を温めてくれますよ。暖炉の上でシチューを煮込んだり、焼き林檎を作ったり楽しまれてね」
「あっはい」
なんだか、もうこれが本当に夢か現か、あまりに幸せ過ぎる贈り物の連続で眩暈がするほどだよ。
黒い大理石の重厚な雰囲気のキッチンカウンターには既に赤ワインが横に置かれていた。そして正面の大きな窓一面が、吹き抜けの棚になっていて、そこにはワイングラスやリキュール類が飾るように並んでいて、まるでミニバーのようだ。
丈も俺もアルコールが好きだから、このソファに座って二人で酒を飲むことになるだろう。
もう俺の頭の中にはその様子が浮かんで、ドキドキしてしまう。
ふとソファの横のテレビの上の白壁を見ると、ちょうど俺達のデスクの前が室内窓になっていた。
あ……これ、すごくいいな。
机で仕事をしながら外の風景も、キッチンに立つ丈の姿も見えるのか。逆に俺がソファに座りながら、持ち帰った仕事でPC作業している丈の顔を見ることが出来る。
丈がこのリフォームを本当に細かいところまで気を配って考えてくれたことが分かって、感動した。
動線と視線のすべてが、俺と丈を結んでいる。
すごい……すごいよ。こんな家……見たことがない。
「洋くん、以上で確認は終わりです。確認もありがとうございました。はいこれ、このお家の鍵、今日からもう住めますよ」
野口さんから俺の手の平に落とされた鍵の重みを噛みしめた。
今すぐ丈に会ってお礼を言いたい。
無性にその気持ちが募って、もう爆発しそうだ!
時計を見ればまだ十一時。今から行けば丈の昼休みに間に合うだろうか。
「あの翠さん、俺、ちょっと出かけて来てもいいですか」
「うん?どこへ……あ、もしかして丈のところへ?」
「はい、どうしても今すぐお礼を言いたくて」
「いいね、きっと喜ぶよ。気を付けて行っておいで」
「おっ洋くん熱々だな!丈の奴、羨ましいよ。俺はちょっと野口さんに相談があるから、駅まで車で送ってやれないが大丈夫か」
「はい。バスで行きます」
「気を付けるんだぞ」
急いで部屋に戻り、出かける支度をしてバスに飛び乗った。
初めて向かう丈の職場の病院だ。
俺が急に訪ねて行ったら、さぞかし驚くだろうな。
高揚した気分はバスを降りても、電車に乗っている間もずっと続いていた。
10
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)



そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる