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第2部 10章
振り向けばそこに… 7
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リビングには暖炉があった。
つまりこの家には、煙突があるということか。
「洋くん、暖炉は珍しいかしら?」
「ええ、あまり馴染みはないです」
「もうこの家は丸ごと丈先生の希望通りなのよ。だから暖炉を設置することももちろん先生の鶴の一声よ。洋くんが冬場風邪をひきやすいって言っていたわ」
「確かに……喉が弱くてよく扁桃腺を腫らしてしまって……」
「暖炉の炎は優しく体を温めてくれますよ。暖炉の上でシチューを煮込んだり、焼き林檎を作ったり楽しまれてね」
「あっはい」
なんだか、もうこれが本当に夢か現か、あまりに幸せ過ぎる贈り物の連続で眩暈がするほどだよ。
黒い大理石の重厚な雰囲気のキッチンカウンターには既に赤ワインが横に置かれていた。そして正面の大きな窓一面が、吹き抜けの棚になっていて、そこにはワイングラスやリキュール類が飾るように並んでいて、まるでミニバーのようだ。
丈も俺もアルコールが好きだから、このソファに座って二人で酒を飲むことになるだろう。
もう俺の頭の中にはその様子が浮かんで、ドキドキしてしまう。
ふとソファの横のテレビの上の白壁を見ると、ちょうど俺達のデスクの前が室内窓になっていた。
あ……これ、すごくいいな。
机で仕事をしながら外の風景も、キッチンに立つ丈の姿も見えるのか。逆に俺がソファに座りながら、持ち帰った仕事でPC作業している丈の顔を見ることが出来る。
丈がこのリフォームを本当に細かいところまで気を配って考えてくれたことが分かって、感動した。
動線と視線のすべてが、俺と丈を結んでいる。
すごい……すごいよ。こんな家……見たことがない。
「洋くん、以上で確認は終わりです。確認もありがとうございました。はいこれ、このお家の鍵、今日からもう住めますよ」
野口さんから俺の手の平に落とされた鍵の重みを噛みしめた。
今すぐ丈に会ってお礼を言いたい。
無性にその気持ちが募って、もう爆発しそうだ!
時計を見ればまだ十一時。今から行けば丈の昼休みに間に合うだろうか。
「あの翠さん、俺、ちょっと出かけて来てもいいですか」
「うん?どこへ……あ、もしかして丈のところへ?」
「はい、どうしても今すぐお礼を言いたくて」
「いいね、きっと喜ぶよ。気を付けて行っておいで」
「おっ洋くん熱々だな!丈の奴、羨ましいよ。俺はちょっと野口さんに相談があるから、駅まで車で送ってやれないが大丈夫か」
「はい。バスで行きます」
「気を付けるんだぞ」
急いで部屋に戻り、出かける支度をしてバスに飛び乗った。
初めて向かう丈の職場の病院だ。
俺が急に訪ねて行ったら、さぞかし驚くだろうな。
高揚した気分はバスを降りても、電車に乗っている間もずっと続いていた。
つまりこの家には、煙突があるということか。
「洋くん、暖炉は珍しいかしら?」
「ええ、あまり馴染みはないです」
「もうこの家は丸ごと丈先生の希望通りなのよ。だから暖炉を設置することももちろん先生の鶴の一声よ。洋くんが冬場風邪をひきやすいって言っていたわ」
「確かに……喉が弱くてよく扁桃腺を腫らしてしまって……」
「暖炉の炎は優しく体を温めてくれますよ。暖炉の上でシチューを煮込んだり、焼き林檎を作ったり楽しまれてね」
「あっはい」
なんだか、もうこれが本当に夢か現か、あまりに幸せ過ぎる贈り物の連続で眩暈がするほどだよ。
黒い大理石の重厚な雰囲気のキッチンカウンターには既に赤ワインが横に置かれていた。そして正面の大きな窓一面が、吹き抜けの棚になっていて、そこにはワイングラスやリキュール類が飾るように並んでいて、まるでミニバーのようだ。
丈も俺もアルコールが好きだから、このソファに座って二人で酒を飲むことになるだろう。
もう俺の頭の中にはその様子が浮かんで、ドキドキしてしまう。
ふとソファの横のテレビの上の白壁を見ると、ちょうど俺達のデスクの前が室内窓になっていた。
あ……これ、すごくいいな。
机で仕事をしながら外の風景も、キッチンに立つ丈の姿も見えるのか。逆に俺がソファに座りながら、持ち帰った仕事でPC作業している丈の顔を見ることが出来る。
丈がこのリフォームを本当に細かいところまで気を配って考えてくれたことが分かって、感動した。
動線と視線のすべてが、俺と丈を結んでいる。
すごい……すごいよ。こんな家……見たことがない。
「洋くん、以上で確認は終わりです。確認もありがとうございました。はいこれ、このお家の鍵、今日からもう住めますよ」
野口さんから俺の手の平に落とされた鍵の重みを噛みしめた。
今すぐ丈に会ってお礼を言いたい。
無性にその気持ちが募って、もう爆発しそうだ!
時計を見ればまだ十一時。今から行けば丈の昼休みに間に合うだろうか。
「あの翠さん、俺、ちょっと出かけて来てもいいですか」
「うん?どこへ……あ、もしかして丈のところへ?」
「はい、どうしても今すぐお礼を言いたくて」
「いいね、きっと喜ぶよ。気を付けて行っておいで」
「おっ洋くん熱々だな!丈の奴、羨ましいよ。俺はちょっと野口さんに相談があるから、駅まで車で送ってやれないが大丈夫か」
「はい。バスで行きます」
「気を付けるんだぞ」
急いで部屋に戻り、出かける支度をしてバスに飛び乗った。
初めて向かう丈の職場の病院だ。
俺が急に訪ねて行ったら、さぞかし驚くだろうな。
高揚した気分はバスを降りても、電車に乗っている間もずっと続いていた。
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