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第2部 10章
番外編 安志×涼 「君を守る」7
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安志さんの病室へは、見舞客の一人として堂々と向かった。
変にコソコソしたくない。僕のことを安志さんが命懸けで守って助けてくれたのは、周知の事実だ。
病院の長い廊下。
もう夜だからか、誰ともすれ違わない。
教えてもらった個室のプレートに『鷹野安志』の名前を見つけ、ほっとすると同時に胸が締め付けられる。
僕を庇って無茶をして!
トントン──
ノックすると、「どうぞ」と穏かな声。
クリームイエローの長いカーテンを潜り抜けると、安志さんがベッドにもたれていた。七分袖の病院着から覗く、腕の白い包帯や顔の絆創膏が痛々しい。
「やっぱり! 涼だと思った」
でも……いつも通り太陽のような明るい笑顔を浮かべてくれたので、ほっとした。
この笑顔を失わなくてよかった。本当に怖かった。
思わず僕は安志さんの胸に飛びついてしまった。
「安志さんっ」
「いてっ」
「あっごめん」
肩にも切り傷があったのか。
暗闇でよく見えなかったけれども、事前にマネージャーから聞いていたいたよりも傷が多く、しかも深いようだった。
「悪い悪い。肩の傷、ちょっと深くて縫合したからさ」
「ごめんなさい。僕を庇って……僕はなんの役にも立てず足手纏いなだけだった」
途端に込み上げてくるのは、安志さんを守れなかった後悔。
僕だって男だから、好きな人を守りたいと思う気持ちは同じはずなのに、鋭利なナイフのギラツキに足が竦んで動けなかった。
眼の端に熱いものが込み上げてくるのを感じた。
これは悔し涙だ。
その涙を……安志さんがすぐに気が付いて指で拭ってくれた。
「涼、なんで泣く?」
「だって僕を庇って安志さんがこんなに傷だらけに……情けないよ。男なのに、ちっとも役に立てなくて」
「馬鹿だな。涼だって真っ先にサオリちゃんを庇って逃がしてやったじゃないか。男らしかったぞ、俺のボディガードの仕事を涼がやってくれて助かった。あの時は頼りになるなって思った」
「うっ……」
もうっ、何でこの人はこんなに優しいのか。
お人好し過ぎる程の穏やかな性格。
少しでもこの温かい人に触れたくて、包帯を巻いていない腕に手を伸ばし、肩を気遣いながら躰を寄せた。
消毒液の匂いの向こうに、僕の安志さん自身の匂いを感じほっとする。
「安志さんが怪我して怖かった。もしものことがあったらと思うと震えて、加勢に入ることもできなくて……」
「この傷? 心配かけたよな。思ったより舞台が暗くて避けたつもりが、全部かすっていたという情けなさ。あーカッコ悪いよな」
「そんなことない! 満身創痍の安志さんの躰は、僕の自慢だ」
「わっ照れるな。涼、嬉しいことを……じゃあご褒美もらえるのか」
嬉しそうに屈託なく笑う安志さんの笑顔に、胸の奥がときめくのを感じた。
淡いクリームイエローのカーテンに隠れて、僕は安志さんの唇にキスをした。
感謝と愛情をたっぷり込めた、とびっきり甘いキス。
初めは僕がリードしていたはずなのに、すぐにもっていかれた。
安志さんの腕が後頭部の伸びて、そのまま僕の頭を固定する。息が出来ない程激しく唇も舌も吸われ、口腔内を弄られる。
すごく幸せだ。
熱い舌と息遣いに安志さんの無事を噛みしめ、また涙が出てしまう。その零れる涙も、安志さんがすぐに優しく吸い取ってくれる。
僕は本当にこの人のことが好きだ。
安志さんのことを、心から愛している。
ありきたりの言葉だが、素直な心の声。
「安志さんが無事で良かった」
「涼も無事でよかった。ちゃんと君を守れたな」
安志さんも感慨深くそう呟いた。
そしてまた僕の唇を塞いで、角度を変えたキスを熱心に重ねてくれる。僕も必死にそれに応じていくが……熱く求められれば、僕の躰は病院だというのに高まってしまう。
もう、キスだけで達してしまいそうだ。
「ずっと前……撮影現場で怪我した涼を見舞ったことを思い出す。あの時は心配でたまらなかった」
「ん……あっ……だめ……もう」
安志さんがキスの合間に耳元で囁いて来たが、僕の方は余裕がなくなっていた。
変にコソコソしたくない。僕のことを安志さんが命懸けで守って助けてくれたのは、周知の事実だ。
病院の長い廊下。
もう夜だからか、誰ともすれ違わない。
教えてもらった個室のプレートに『鷹野安志』の名前を見つけ、ほっとすると同時に胸が締め付けられる。
僕を庇って無茶をして!
トントン──
ノックすると、「どうぞ」と穏かな声。
クリームイエローの長いカーテンを潜り抜けると、安志さんがベッドにもたれていた。七分袖の病院着から覗く、腕の白い包帯や顔の絆創膏が痛々しい。
「やっぱり! 涼だと思った」
でも……いつも通り太陽のような明るい笑顔を浮かべてくれたので、ほっとした。
この笑顔を失わなくてよかった。本当に怖かった。
思わず僕は安志さんの胸に飛びついてしまった。
「安志さんっ」
「いてっ」
「あっごめん」
肩にも切り傷があったのか。
暗闇でよく見えなかったけれども、事前にマネージャーから聞いていたいたよりも傷が多く、しかも深いようだった。
「悪い悪い。肩の傷、ちょっと深くて縫合したからさ」
「ごめんなさい。僕を庇って……僕はなんの役にも立てず足手纏いなだけだった」
途端に込み上げてくるのは、安志さんを守れなかった後悔。
僕だって男だから、好きな人を守りたいと思う気持ちは同じはずなのに、鋭利なナイフのギラツキに足が竦んで動けなかった。
眼の端に熱いものが込み上げてくるのを感じた。
これは悔し涙だ。
その涙を……安志さんがすぐに気が付いて指で拭ってくれた。
「涼、なんで泣く?」
「だって僕を庇って安志さんがこんなに傷だらけに……情けないよ。男なのに、ちっとも役に立てなくて」
「馬鹿だな。涼だって真っ先にサオリちゃんを庇って逃がしてやったじゃないか。男らしかったぞ、俺のボディガードの仕事を涼がやってくれて助かった。あの時は頼りになるなって思った」
「うっ……」
もうっ、何でこの人はこんなに優しいのか。
お人好し過ぎる程の穏やかな性格。
少しでもこの温かい人に触れたくて、包帯を巻いていない腕に手を伸ばし、肩を気遣いながら躰を寄せた。
消毒液の匂いの向こうに、僕の安志さん自身の匂いを感じほっとする。
「安志さんが怪我して怖かった。もしものことがあったらと思うと震えて、加勢に入ることもできなくて……」
「この傷? 心配かけたよな。思ったより舞台が暗くて避けたつもりが、全部かすっていたという情けなさ。あーカッコ悪いよな」
「そんなことない! 満身創痍の安志さんの躰は、僕の自慢だ」
「わっ照れるな。涼、嬉しいことを……じゃあご褒美もらえるのか」
嬉しそうに屈託なく笑う安志さんの笑顔に、胸の奥がときめくのを感じた。
淡いクリームイエローのカーテンに隠れて、僕は安志さんの唇にキスをした。
感謝と愛情をたっぷり込めた、とびっきり甘いキス。
初めは僕がリードしていたはずなのに、すぐにもっていかれた。
安志さんの腕が後頭部の伸びて、そのまま僕の頭を固定する。息が出来ない程激しく唇も舌も吸われ、口腔内を弄られる。
すごく幸せだ。
熱い舌と息遣いに安志さんの無事を噛みしめ、また涙が出てしまう。その零れる涙も、安志さんがすぐに優しく吸い取ってくれる。
僕は本当にこの人のことが好きだ。
安志さんのことを、心から愛している。
ありきたりの言葉だが、素直な心の声。
「安志さんが無事で良かった」
「涼も無事でよかった。ちゃんと君を守れたな」
安志さんも感慨深くそう呟いた。
そしてまた僕の唇を塞いで、角度を変えたキスを熱心に重ねてくれる。僕も必死にそれに応じていくが……熱く求められれば、僕の躰は病院だというのに高まってしまう。
もう、キスだけで達してしまいそうだ。
「ずっと前……撮影現場で怪我した涼を見舞ったことを思い出す。あの時は心配でたまらなかった」
「ん……あっ……だめ……もう」
安志さんがキスの合間に耳元で囁いて来たが、僕の方は余裕がなくなっていた。
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