774 / 1,657
第2部 10章
番外編 安志×涼 「君を守る」7
しおりを挟む
安志さんの病室へは、見舞客の一人として堂々と向かった。
変にコソコソしたくない。僕のことを安志さんが命懸けで守って助けてくれたのは、周知の事実だ。
病院の長い廊下。
もう夜だからか、誰ともすれ違わない。
教えてもらった個室のプレートに『鷹野安志』の名前を見つけ、ほっとすると同時に胸が締め付けられる。
僕を庇って無茶をして!
トントン──
ノックすると、「どうぞ」と穏かな声。
クリームイエローの長いカーテンを潜り抜けると、安志さんがベッドにもたれていた。七分袖の病院着から覗く、腕の白い包帯や顔の絆創膏が痛々しい。
「やっぱり! 涼だと思った」
でも……いつも通り太陽のような明るい笑顔を浮かべてくれたので、ほっとした。
この笑顔を失わなくてよかった。本当に怖かった。
思わず僕は安志さんの胸に飛びついてしまった。
「安志さんっ」
「いてっ」
「あっごめん」
肩にも切り傷があったのか。
暗闇でよく見えなかったけれども、事前にマネージャーから聞いていたいたよりも傷が多く、しかも深いようだった。
「悪い悪い。肩の傷、ちょっと深くて縫合したからさ」
「ごめんなさい。僕を庇って……僕はなんの役にも立てず足手纏いなだけだった」
途端に込み上げてくるのは、安志さんを守れなかった後悔。
僕だって男だから、好きな人を守りたいと思う気持ちは同じはずなのに、鋭利なナイフのギラツキに足が竦んで動けなかった。
眼の端に熱いものが込み上げてくるのを感じた。
これは悔し涙だ。
その涙を……安志さんがすぐに気が付いて指で拭ってくれた。
「涼、なんで泣く?」
「だって僕を庇って安志さんがこんなに傷だらけに……情けないよ。男なのに、ちっとも役に立てなくて」
「馬鹿だな。涼だって真っ先にサオリちゃんを庇って逃がしてやったじゃないか。男らしかったぞ、俺のボディガードの仕事を涼がやってくれて助かった。あの時は頼りになるなって思った」
「うっ……」
もうっ、何でこの人はこんなに優しいのか。
お人好し過ぎる程の穏やかな性格。
少しでもこの温かい人に触れたくて、包帯を巻いていない腕に手を伸ばし、肩を気遣いながら躰を寄せた。
消毒液の匂いの向こうに、僕の安志さん自身の匂いを感じほっとする。
「安志さんが怪我して怖かった。もしものことがあったらと思うと震えて、加勢に入ることもできなくて……」
「この傷? 心配かけたよな。思ったより舞台が暗くて避けたつもりが、全部かすっていたという情けなさ。あーカッコ悪いよな」
「そんなことない! 満身創痍の安志さんの躰は、僕の自慢だ」
「わっ照れるな。涼、嬉しいことを……じゃあご褒美もらえるのか」
嬉しそうに屈託なく笑う安志さんの笑顔に、胸の奥がときめくのを感じた。
淡いクリームイエローのカーテンに隠れて、僕は安志さんの唇にキスをした。
感謝と愛情をたっぷり込めた、とびっきり甘いキス。
初めは僕がリードしていたはずなのに、すぐにもっていかれた。
安志さんの腕が後頭部の伸びて、そのまま僕の頭を固定する。息が出来ない程激しく唇も舌も吸われ、口腔内を弄られる。
すごく幸せだ。
熱い舌と息遣いに安志さんの無事を噛みしめ、また涙が出てしまう。その零れる涙も、安志さんがすぐに優しく吸い取ってくれる。
僕は本当にこの人のことが好きだ。
安志さんのことを、心から愛している。
ありきたりの言葉だが、素直な心の声。
「安志さんが無事で良かった」
「涼も無事でよかった。ちゃんと君を守れたな」
安志さんも感慨深くそう呟いた。
そしてまた僕の唇を塞いで、角度を変えたキスを熱心に重ねてくれる。僕も必死にそれに応じていくが……熱く求められれば、僕の躰は病院だというのに高まってしまう。
もう、キスだけで達してしまいそうだ。
「ずっと前……撮影現場で怪我した涼を見舞ったことを思い出す。あの時は心配でたまらなかった」
「ん……あっ……だめ……もう」
安志さんがキスの合間に耳元で囁いて来たが、僕の方は余裕がなくなっていた。
変にコソコソしたくない。僕のことを安志さんが命懸けで守って助けてくれたのは、周知の事実だ。
病院の長い廊下。
もう夜だからか、誰ともすれ違わない。
教えてもらった個室のプレートに『鷹野安志』の名前を見つけ、ほっとすると同時に胸が締め付けられる。
僕を庇って無茶をして!
トントン──
ノックすると、「どうぞ」と穏かな声。
クリームイエローの長いカーテンを潜り抜けると、安志さんがベッドにもたれていた。七分袖の病院着から覗く、腕の白い包帯や顔の絆創膏が痛々しい。
「やっぱり! 涼だと思った」
でも……いつも通り太陽のような明るい笑顔を浮かべてくれたので、ほっとした。
この笑顔を失わなくてよかった。本当に怖かった。
思わず僕は安志さんの胸に飛びついてしまった。
「安志さんっ」
「いてっ」
「あっごめん」
肩にも切り傷があったのか。
暗闇でよく見えなかったけれども、事前にマネージャーから聞いていたいたよりも傷が多く、しかも深いようだった。
「悪い悪い。肩の傷、ちょっと深くて縫合したからさ」
「ごめんなさい。僕を庇って……僕はなんの役にも立てず足手纏いなだけだった」
途端に込み上げてくるのは、安志さんを守れなかった後悔。
僕だって男だから、好きな人を守りたいと思う気持ちは同じはずなのに、鋭利なナイフのギラツキに足が竦んで動けなかった。
眼の端に熱いものが込み上げてくるのを感じた。
これは悔し涙だ。
その涙を……安志さんがすぐに気が付いて指で拭ってくれた。
「涼、なんで泣く?」
「だって僕を庇って安志さんがこんなに傷だらけに……情けないよ。男なのに、ちっとも役に立てなくて」
「馬鹿だな。涼だって真っ先にサオリちゃんを庇って逃がしてやったじゃないか。男らしかったぞ、俺のボディガードの仕事を涼がやってくれて助かった。あの時は頼りになるなって思った」
「うっ……」
もうっ、何でこの人はこんなに優しいのか。
お人好し過ぎる程の穏やかな性格。
少しでもこの温かい人に触れたくて、包帯を巻いていない腕に手を伸ばし、肩を気遣いながら躰を寄せた。
消毒液の匂いの向こうに、僕の安志さん自身の匂いを感じほっとする。
「安志さんが怪我して怖かった。もしものことがあったらと思うと震えて、加勢に入ることもできなくて……」
「この傷? 心配かけたよな。思ったより舞台が暗くて避けたつもりが、全部かすっていたという情けなさ。あーカッコ悪いよな」
「そんなことない! 満身創痍の安志さんの躰は、僕の自慢だ」
「わっ照れるな。涼、嬉しいことを……じゃあご褒美もらえるのか」
嬉しそうに屈託なく笑う安志さんの笑顔に、胸の奥がときめくのを感じた。
淡いクリームイエローのカーテンに隠れて、僕は安志さんの唇にキスをした。
感謝と愛情をたっぷり込めた、とびっきり甘いキス。
初めは僕がリードしていたはずなのに、すぐにもっていかれた。
安志さんの腕が後頭部の伸びて、そのまま僕の頭を固定する。息が出来ない程激しく唇も舌も吸われ、口腔内を弄られる。
すごく幸せだ。
熱い舌と息遣いに安志さんの無事を噛みしめ、また涙が出てしまう。その零れる涙も、安志さんがすぐに優しく吸い取ってくれる。
僕は本当にこの人のことが好きだ。
安志さんのことを、心から愛している。
ありきたりの言葉だが、素直な心の声。
「安志さんが無事で良かった」
「涼も無事でよかった。ちゃんと君を守れたな」
安志さんも感慨深くそう呟いた。
そしてまた僕の唇を塞いで、角度を変えたキスを熱心に重ねてくれる。僕も必死にそれに応じていくが……熱く求められれば、僕の躰は病院だというのに高まってしまう。
もう、キスだけで達してしまいそうだ。
「ずっと前……撮影現場で怪我した涼を見舞ったことを思い出す。あの時は心配でたまらなかった」
「ん……あっ……だめ……もう」
安志さんがキスの合間に耳元で囁いて来たが、僕の方は余裕がなくなっていた。
10
お気に入りに追加
445
あなたにおすすめの小説
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる