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第2部 10章
番外編 安志×涼 「君を守る」3
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僕が舞台に上がると暗転していた照明がつき、スポットライトを浴びた。
途端に大歓声が上がる。
「今日のスペシャルサプライズゲストは、なんとなんと! 広告の相手役の月乃 涼くんです」
司会の紹介の後、耳鳴りがするほどの黄色い歓声に驚いた。男性ばかりだと思っていた観客だったのに。
「涼くん~いらっしゃい」
サオリちゃんが舞台の上で、にっこり微笑んでいる。
微笑み返そうとした途端、さっき安志さんと抱き合っていた姿を思い出し、胸の奥がズキッと痛んでしまった。
(馬鹿、またっ! しっかりしろ)
何事もなかったように、僕もなんとか微笑み返すことが出来た。
それから舞台で二人で挨拶して、広告撮影時の秘話などのインタビューをいくつか受けた。その後サオリちゃんと向かい合って手を繋ぎ微笑み合うシーンを観客の前で再現することになった。このカットが好評で人気が出たようなものだから、未だに多くの人から望まれるのは光栄なことだ。
「では、いよいよあの有名なシーンをここで再現します!」
その時痛い位の視線を感じた。視線を辿ると、舞台袖に立っている安志さんと目があった。
安志さんは、このコーナーの前の握手会ではサオリちゃんのすぐ横に立っていた。まるで寄り添うように守るような姿は、カレシとカノジョみたいで、眩しかった。
流石に今は広告シーンの再現になるので、舞台袖まで引いている。
僕が来ると知らなかったようで、驚いて目を見開いているのが分かる。
口唇が動き、「リョウ」と呼ばれた気がした。なのに……僕は、笑顔で返そう思ったのに上手く笑えなかった。
僕の硬い反応に訝し気な表情を浮かべているのが分かり、申し訳ないような気がした。それでもそれは一瞬で、すぐに安志さんは見たこともないような表情に戻って行った。
仕事の顔だ。初めて面と向かって……業務に就く安志さんを見た。
これが僕の好きな安志さんのボディガード姿だ。
黒いスーツを颯爽と着こなし、全体に緊張感を纏い、片耳にはイヤホンで何か指示を出している姿。
凛々しくてスマートで素敵だった。
思わず見惚れてしまっていると、サオリちゃんに促された。
「涼くんどうしたの? さぁ始まるわよ。よろしくね」
「ごめんっ。よろしくな」
舞台に再び淡いピンク色のスポットライトがあたり、僕たちが共に照らされる。
雪がちらつく映像と共に、僕たちは向かい合い微笑み合う。それから互いの手を取り握り締めて微笑み合う。
腕時計が軽くぶつかる音がする。
そこで、ナレーションが入る。
「腕時計の贈りもの、それは互いの存在を感じる場所の提供です」
「スマートフォンではなく、時を刻む時計を敢えて身につけて街へ飛び出しましょう! 二人で刻む時というものを肌で感じてみませんか」
会場からは一斉に拍手と歓声が沸いた。
反応が良かったので、ほっとした。
ナレーションの後は、指示ではサプライズで抱擁しあうとのこと。
少しの躊躇いのあと、サオリちゃんの身体をふわりと軽く抱きしめると、安志さんの香りが微かにしたのが、切なかった。
っとその時突然、罵声と怒声をあげながらドカドカと近づいてくる男性を確認した。
「くそおおおお! お前ー俺のサオリに触れんなぁ!」
スピットライトに光るのは鋭利なナイフ!
会場は悲鳴に包まれる。
観客が一斉に悲鳴を上げ逃げ出し、パニックになっていく。
「危ないっ!サオリちゃん、早く逃げて」
「でもっ」
「ほらっ行って!」
僕が狙いだと思った。
とにかく彼女をドンっと投げるように舞台袖へと突き飛ばし、振り返った瞬間、僕の前に立ちはだかる男とナイフを確認した。
「くそぉお! お前なんかっお前なんか消えろっ!」
サオリちゃんを逃がそうと背を向けた一瞬の隙だった。
真正面からまともにそれを受ける形になってしまった。
あのナイフで斬られてしまう!
足が竦んで動けない!
目を瞑って衝撃に耐えるしか、もう道はなかった。
( 安志さんっ!)
心の中で、いや口に出してしまったかもしれない。
僕は必死に彼を呼んだ!
安志さんが今、何処にいるか分からないけれども、暗闇に手を必死に伸ばした。
届け!
途端に大歓声が上がる。
「今日のスペシャルサプライズゲストは、なんとなんと! 広告の相手役の月乃 涼くんです」
司会の紹介の後、耳鳴りがするほどの黄色い歓声に驚いた。男性ばかりだと思っていた観客だったのに。
「涼くん~いらっしゃい」
サオリちゃんが舞台の上で、にっこり微笑んでいる。
微笑み返そうとした途端、さっき安志さんと抱き合っていた姿を思い出し、胸の奥がズキッと痛んでしまった。
(馬鹿、またっ! しっかりしろ)
何事もなかったように、僕もなんとか微笑み返すことが出来た。
それから舞台で二人で挨拶して、広告撮影時の秘話などのインタビューをいくつか受けた。その後サオリちゃんと向かい合って手を繋ぎ微笑み合うシーンを観客の前で再現することになった。このカットが好評で人気が出たようなものだから、未だに多くの人から望まれるのは光栄なことだ。
「では、いよいよあの有名なシーンをここで再現します!」
その時痛い位の視線を感じた。視線を辿ると、舞台袖に立っている安志さんと目があった。
安志さんは、このコーナーの前の握手会ではサオリちゃんのすぐ横に立っていた。まるで寄り添うように守るような姿は、カレシとカノジョみたいで、眩しかった。
流石に今は広告シーンの再現になるので、舞台袖まで引いている。
僕が来ると知らなかったようで、驚いて目を見開いているのが分かる。
口唇が動き、「リョウ」と呼ばれた気がした。なのに……僕は、笑顔で返そう思ったのに上手く笑えなかった。
僕の硬い反応に訝し気な表情を浮かべているのが分かり、申し訳ないような気がした。それでもそれは一瞬で、すぐに安志さんは見たこともないような表情に戻って行った。
仕事の顔だ。初めて面と向かって……業務に就く安志さんを見た。
これが僕の好きな安志さんのボディガード姿だ。
黒いスーツを颯爽と着こなし、全体に緊張感を纏い、片耳にはイヤホンで何か指示を出している姿。
凛々しくてスマートで素敵だった。
思わず見惚れてしまっていると、サオリちゃんに促された。
「涼くんどうしたの? さぁ始まるわよ。よろしくね」
「ごめんっ。よろしくな」
舞台に再び淡いピンク色のスポットライトがあたり、僕たちが共に照らされる。
雪がちらつく映像と共に、僕たちは向かい合い微笑み合う。それから互いの手を取り握り締めて微笑み合う。
腕時計が軽くぶつかる音がする。
そこで、ナレーションが入る。
「腕時計の贈りもの、それは互いの存在を感じる場所の提供です」
「スマートフォンではなく、時を刻む時計を敢えて身につけて街へ飛び出しましょう! 二人で刻む時というものを肌で感じてみませんか」
会場からは一斉に拍手と歓声が沸いた。
反応が良かったので、ほっとした。
ナレーションの後は、指示ではサプライズで抱擁しあうとのこと。
少しの躊躇いのあと、サオリちゃんの身体をふわりと軽く抱きしめると、安志さんの香りが微かにしたのが、切なかった。
っとその時突然、罵声と怒声をあげながらドカドカと近づいてくる男性を確認した。
「くそおおおお! お前ー俺のサオリに触れんなぁ!」
スピットライトに光るのは鋭利なナイフ!
会場は悲鳴に包まれる。
観客が一斉に悲鳴を上げ逃げ出し、パニックになっていく。
「危ないっ!サオリちゃん、早く逃げて」
「でもっ」
「ほらっ行って!」
僕が狙いだと思った。
とにかく彼女をドンっと投げるように舞台袖へと突き飛ばし、振り返った瞬間、僕の前に立ちはだかる男とナイフを確認した。
「くそぉお! お前なんかっお前なんか消えろっ!」
サオリちゃんを逃がそうと背を向けた一瞬の隙だった。
真正面からまともにそれを受ける形になってしまった。
あのナイフで斬られてしまう!
足が竦んで動けない!
目を瞑って衝撃に耐えるしか、もう道はなかった。
( 安志さんっ!)
心の中で、いや口に出してしまったかもしれない。
僕は必死に彼を呼んだ!
安志さんが今、何処にいるか分からないけれども、暗闇に手を必死に伸ばした。
届け!
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