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第2部 10章
番外編 安志×涼 「君を守る」2
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握手会が始まってから一時間ほど経過し、一旦休憩を取ることになった。
握手会のテントブースの周りにはスタッフや警備員も多く配置され、サオリさんの真横にはボディガードの俺。
一分の隙もない。何も今のところ起きていない。
それにしてもまぁよくこんなに大勢の男性が集まるものだ。会場は大混雑し、俺も警戒態勢で集中して一時間、有難いブレイクタイムだ。
控室までの通路も、俺が庇うようにサオリさんをガードして歩いた。
「さぁこちらが控室です。今、マネージャーを呼んできます」
「待って!」
マネージャーを呼びに行こうと背を向けようとしたら、突然真正面からサオリちゃんに抱きつかれた。
香水の人口的な香りがふわっと飛び込んで来て驚いた。
ええっ?
何で?
動揺が走る。
「安志さんっ!サオリ怖いっ」
「サッ……サオリさんどうしたんですか。少し落ち着いて。とっとにかく離れてください」
「だって握手に来る男の人って、みんなギラギラしているような気がして。もしもこの人があの手紙の人だったらと思ったら、途中から冷や汗が止まらなかった……怖いっ怖い」
必死に我慢してきたのか。控室に入った途端、糸が切れたように半ばパニックになっているサオリさんが、俺にしがみつくようにギュッと抱きついて来た。
「とっ、とにかく落ち着いて」
サオリさんは俺の雇い主だし、無下なことは出来ない。
参ったな。ナーバスになる気持ちも分かるので、突き放せない。
本気で小刻みに震える肩。助けを求める姿が健気でなんだか可愛い妹のような気分で、自然と守ってあげたい気持ちが芽生えていた。
その華奢な女性の肩を掴んで、眼を見てしっかりと告げた。
「大丈夫です! ちゃんとみんな警戒していますし、もしも何かあったら俺が身を挺してでも守り抜きます!」
「ありがとう……ほっとするわ。サオリなんかおかしいよね。こんな風になるなんて自分でもびっくりしちゃった。ごめんなさい」
サオリさんがようやく身体を離してくれたので、申し訳ないけれども、ほっとした。
俺が本当に抱きしめたいのは、涼だけだから。
****
「涼くん到着です! 控室に案内します」
「おはようございます!今日はよろしくお願いします」
「おー涼くん、今日はよろしくな」
腕時計のイベント会場に到着すると、サオリちゃんのマネージャーが出迎えてくれた。
「予想以上の人手で、バタバタしているんだ。今から握手会の後半で、その後にスペシャルイベントな。涼が飛び入りすること何処からバレたのか、結構女の子も集まっているよ」
「えっ、そうなんですか」
「まぁとにかく気を付けて。あっ控室はそこを真っすぐ行ったところ。今ちょうどサオリが休憩取っているから挨拶する?」
「ええ、僕一人で行けますから」
「悪いな。手が離せなくて」
表参道のファッションビルの一階。
ガラス張りの会場はとてもおしゃれな雰囲気だった。その一角にテントを張り、握手会のブースにしているようだった。
ふぅ……確かにすごい男性陣だ。サオリちゃんも大変だな。
メイン会場には、時計を購入して抽選で選ばれた人のみが参加できる。
その会場の舞台で、僕はこの後サオリちゃんとCMシーンの再現をするというわけだ。
えっとここが控室か。
『サオリ様』と名札がかかっている白い扉を軽くノックするが、返事がない。
あれ? もういないのか。
そう思ってドアをそっと開けた。
「えっ」
固まってしまった。
サオリちゃんが男性と抱き合っていたから……驚いた!
ええっ? こんな場所でラブシーン?
慌ててドアを閉めようと思ったが、抱きつかれている男性の後姿に見覚えがあった。
背が高く短髪の黒髪。あの肩幅、立ち姿。そして竹のような清々しい香り。
まさか……もしかして…あの男性は、安志さんなのか!
「……守ります」
茫然とした頭に「守ります」という最後のフレーズだけが響いた。
どういうこと?
足が震えて動揺が隠せない。
僕はもう一度ドアを閉め、逃げるようにその場を立ち去った。
落ち着け。
なんでこんなところに安志さんがいるんだ。
冷静に考えれば、サオリちゃんが言っていたボディガードを雇ったというのは、安志さんのことだったというのは理解出来た。
安志さんも日曜日に仕事が入ったと言っていた。
お互いに何の仕事か話さなかったことが、悔やまれる。
だが、そこまでは理解できても、控室で抱き合っている意味が分からない。
どうしよう。
心臓がバクバクしてしまうよ。
つい先日安志さんに抱かれてパワーが漲っていたはずの躰が、急激に冷めていくのを感じた。
いつだって安志さんは僕だけを愛してくれると当たり前のようにどこかで思っていた。
奢っていたのか。
バチがあたったのか。
安志さんとサオリちゃんがいつの間に。
分からないことだらけで、なにがなんだか、もうパニックだ。
「涼、こんな所にいたのか。そろそろ出番だぞ。どうした?酷い顔色だな。ほらっ立って!」
探しに来たマネージャーに腕を引っ張られて立たされて、はっと我に返った。
馬鹿っ何やってんだ!
今から仕事の本番だ。
しっかりしろ。
きっと何か訳があったに違いない。
安志さんに限って、僕を裏切るなんてはずはない。
僕が信じないでどうする。
頭をブルっと大きく左右に振って、とにかく今は忘れようと努力した。
「涼、OK!あと三秒で舞台に入って!」
「はい!」
握手会のテントブースの周りにはスタッフや警備員も多く配置され、サオリさんの真横にはボディガードの俺。
一分の隙もない。何も今のところ起きていない。
それにしてもまぁよくこんなに大勢の男性が集まるものだ。会場は大混雑し、俺も警戒態勢で集中して一時間、有難いブレイクタイムだ。
控室までの通路も、俺が庇うようにサオリさんをガードして歩いた。
「さぁこちらが控室です。今、マネージャーを呼んできます」
「待って!」
マネージャーを呼びに行こうと背を向けようとしたら、突然真正面からサオリちゃんに抱きつかれた。
香水の人口的な香りがふわっと飛び込んで来て驚いた。
ええっ?
何で?
動揺が走る。
「安志さんっ!サオリ怖いっ」
「サッ……サオリさんどうしたんですか。少し落ち着いて。とっとにかく離れてください」
「だって握手に来る男の人って、みんなギラギラしているような気がして。もしもこの人があの手紙の人だったらと思ったら、途中から冷や汗が止まらなかった……怖いっ怖い」
必死に我慢してきたのか。控室に入った途端、糸が切れたように半ばパニックになっているサオリさんが、俺にしがみつくようにギュッと抱きついて来た。
「とっ、とにかく落ち着いて」
サオリさんは俺の雇い主だし、無下なことは出来ない。
参ったな。ナーバスになる気持ちも分かるので、突き放せない。
本気で小刻みに震える肩。助けを求める姿が健気でなんだか可愛い妹のような気分で、自然と守ってあげたい気持ちが芽生えていた。
その華奢な女性の肩を掴んで、眼を見てしっかりと告げた。
「大丈夫です! ちゃんとみんな警戒していますし、もしも何かあったら俺が身を挺してでも守り抜きます!」
「ありがとう……ほっとするわ。サオリなんかおかしいよね。こんな風になるなんて自分でもびっくりしちゃった。ごめんなさい」
サオリさんがようやく身体を離してくれたので、申し訳ないけれども、ほっとした。
俺が本当に抱きしめたいのは、涼だけだから。
****
「涼くん到着です! 控室に案内します」
「おはようございます!今日はよろしくお願いします」
「おー涼くん、今日はよろしくな」
腕時計のイベント会場に到着すると、サオリちゃんのマネージャーが出迎えてくれた。
「予想以上の人手で、バタバタしているんだ。今から握手会の後半で、その後にスペシャルイベントな。涼が飛び入りすること何処からバレたのか、結構女の子も集まっているよ」
「えっ、そうなんですか」
「まぁとにかく気を付けて。あっ控室はそこを真っすぐ行ったところ。今ちょうどサオリが休憩取っているから挨拶する?」
「ええ、僕一人で行けますから」
「悪いな。手が離せなくて」
表参道のファッションビルの一階。
ガラス張りの会場はとてもおしゃれな雰囲気だった。その一角にテントを張り、握手会のブースにしているようだった。
ふぅ……確かにすごい男性陣だ。サオリちゃんも大変だな。
メイン会場には、時計を購入して抽選で選ばれた人のみが参加できる。
その会場の舞台で、僕はこの後サオリちゃんとCMシーンの再現をするというわけだ。
えっとここが控室か。
『サオリ様』と名札がかかっている白い扉を軽くノックするが、返事がない。
あれ? もういないのか。
そう思ってドアをそっと開けた。
「えっ」
固まってしまった。
サオリちゃんが男性と抱き合っていたから……驚いた!
ええっ? こんな場所でラブシーン?
慌ててドアを閉めようと思ったが、抱きつかれている男性の後姿に見覚えがあった。
背が高く短髪の黒髪。あの肩幅、立ち姿。そして竹のような清々しい香り。
まさか……もしかして…あの男性は、安志さんなのか!
「……守ります」
茫然とした頭に「守ります」という最後のフレーズだけが響いた。
どういうこと?
足が震えて動揺が隠せない。
僕はもう一度ドアを閉め、逃げるようにその場を立ち去った。
落ち着け。
なんでこんなところに安志さんがいるんだ。
冷静に考えれば、サオリちゃんが言っていたボディガードを雇ったというのは、安志さんのことだったというのは理解出来た。
安志さんも日曜日に仕事が入ったと言っていた。
お互いに何の仕事か話さなかったことが、悔やまれる。
だが、そこまでは理解できても、控室で抱き合っている意味が分からない。
どうしよう。
心臓がバクバクしてしまうよ。
つい先日安志さんに抱かれてパワーが漲っていたはずの躰が、急激に冷めていくのを感じた。
いつだって安志さんは僕だけを愛してくれると当たり前のようにどこかで思っていた。
奢っていたのか。
バチがあたったのか。
安志さんとサオリちゃんがいつの間に。
分からないことだらけで、なにがなんだか、もうパニックだ。
「涼、こんな所にいたのか。そろそろ出番だぞ。どうした?酷い顔色だな。ほらっ立って!」
探しに来たマネージャーに腕を引っ張られて立たされて、はっと我に返った。
馬鹿っ何やってんだ!
今から仕事の本番だ。
しっかりしろ。
きっと何か訳があったに違いない。
安志さんに限って、僕を裏切るなんてはずはない。
僕が信じないでどうする。
頭をブルっと大きく左右に振って、とにかく今は忘れようと努力した。
「涼、OK!あと三秒で舞台に入って!」
「はい!」
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