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第2部 10章
番外編 安志×涼 「乾いた心」9
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8階に停まったエレベーターを待つ時間すら惜しく、階段を跳ねるように上がった。
部屋の明り。
クリスマスに渡したキー。
涼が来てくれた。
キーを再び渡した時から、いつかまたこういう日もくればいいのにと心の奥底で願っていた。
涼が日本に帰国した当初、俺の部屋の鍵を渡した。涼の部屋の鍵も、俺はもらった。
互いに行き来することが多かった頃が懐かしい。でもお互い短い間に一度引っ越して、その間に涼は人気モデルになってしまったので、なんとなくもう一度交換出来ないでいた。
だがあのクリスマスの日、寒い廊下で涼が震えながら蹲っていたのを見て、堪らずに渡してしまった。
鍵が涼の首を絞めることにならないか心配しながらも、止められなかった。俺の方が年上なんだし、涼を様々なスキャンダルから守りたいのに……
くそっ! それにしても焦って手が震える。
鍵をガチャガチャと乱暴にまわしドアを開け、靴を蹴とばすように脱ぎ捨て、リビングの扉を開けた。
「涼! 涼だろう?」
ところが蛍光灯の明りはついているのに、返事がない。
いやそんなはずはない。玄関に涼のスニーカーがあったのを知っている。
もしかして……そっと寝室の扉を開けると、そこに俺の涼がいた。
疲れた天使が羽を休めるように、俺のベッドに頭をもたれさせ眠っていた。
静かに近づくと、安らかな寝息が聞こえた。
涼の明るい栗毛色の髪に桜の花びらが一枚絡まっていた。
淡い淡い桜色。
仄かで繊細な色合いに、大事にしたい人を大事にする気持ちが寄り添うようだ。
俺は涼の横に座り、久しぶりにじっくりと寝顔を見つめた。
長い睫毛は滑らかな肌に陰影を生み、すっと通った鼻梁は品が良くこじんまりしている。薄い唇は紅色を帯び、健康的だった。
相変わらずの美人さんだな。そして可愛い。
疲れているのに会いに来てくれたのか。
嬉しい……でも眠ってしまったのか。
なんだかいろんなことを期待し過ぎた俺が悪いのだが、拍子抜けしてしまったのも事実だ。
参ったな。
とにかく先に風呂に入ってこよう。
涼もそのうち目覚めるかもしれないという甘い期待を抱いていた。
****
風呂から出たら起こそうか。それとも自然に起きてくれるか。
このままじゃ涼の寝込みを襲ってしまいそうだ。
風呂場で俺は悶々と格闘していた。
いい歳をしてしょうもないと思うが、あんな可愛い無防備な寝顔を見せられたら男として我慢できるはずがない。
とりあえず……一度抜くべきか。抜いた方がいいよな。
乱暴な獣のように求めそうになっている自分をなんとか制御しようと必死だ。
はぁ……これはなんの拷問だ。
恋人がせっかく忙しい中会いに来てくれたのだから、眠っていても抱いてしまえばいい。そう鼓舞するが、そうもいかない気持ちも押してくる。
昨夜も遅くまで論文を書いていて寝不足のはずだ。
今朝は早朝からロケだったと聞いてる。少しでも寝かしてやりたい。
それが恋人としての優しさだろう?
結局、風呂から上がってドライヤーの大音量にも涼は起きなかった。
これは相当疲れて眠いのだろう。
なぁ……せめて…添い寝ぐらいしてもいいか。
涼をベッドに寝かし俺も寄り添うように横になり、そっと涼の背中に手をまわし、躰を絡めるように抱きしめた。
ロケのあとシャワーを事務所で浴びてきたようで、涼の髪の毛からはシャンプーのよい香りが漂ってきた。ヤバイ……その香りだけで、もう一度抜ける。
はぁ、本当に俺って奴は。こんな状態で眠れるのか。
「ん……」
寝惚けた涼の声にすら、反応してしまう。あどけない表情で俺の胸に顔を摺り寄せてくれる仕草が可愛すぎて、クラクラと眩暈がする。
「涼、どうしたらいい?」
「……」
「なぁ……抱いてもいいか」
部屋の明り。
クリスマスに渡したキー。
涼が来てくれた。
キーを再び渡した時から、いつかまたこういう日もくればいいのにと心の奥底で願っていた。
涼が日本に帰国した当初、俺の部屋の鍵を渡した。涼の部屋の鍵も、俺はもらった。
互いに行き来することが多かった頃が懐かしい。でもお互い短い間に一度引っ越して、その間に涼は人気モデルになってしまったので、なんとなくもう一度交換出来ないでいた。
だがあのクリスマスの日、寒い廊下で涼が震えながら蹲っていたのを見て、堪らずに渡してしまった。
鍵が涼の首を絞めることにならないか心配しながらも、止められなかった。俺の方が年上なんだし、涼を様々なスキャンダルから守りたいのに……
くそっ! それにしても焦って手が震える。
鍵をガチャガチャと乱暴にまわしドアを開け、靴を蹴とばすように脱ぎ捨て、リビングの扉を開けた。
「涼! 涼だろう?」
ところが蛍光灯の明りはついているのに、返事がない。
いやそんなはずはない。玄関に涼のスニーカーがあったのを知っている。
もしかして……そっと寝室の扉を開けると、そこに俺の涼がいた。
疲れた天使が羽を休めるように、俺のベッドに頭をもたれさせ眠っていた。
静かに近づくと、安らかな寝息が聞こえた。
涼の明るい栗毛色の髪に桜の花びらが一枚絡まっていた。
淡い淡い桜色。
仄かで繊細な色合いに、大事にしたい人を大事にする気持ちが寄り添うようだ。
俺は涼の横に座り、久しぶりにじっくりと寝顔を見つめた。
長い睫毛は滑らかな肌に陰影を生み、すっと通った鼻梁は品が良くこじんまりしている。薄い唇は紅色を帯び、健康的だった。
相変わらずの美人さんだな。そして可愛い。
疲れているのに会いに来てくれたのか。
嬉しい……でも眠ってしまったのか。
なんだかいろんなことを期待し過ぎた俺が悪いのだが、拍子抜けしてしまったのも事実だ。
参ったな。
とにかく先に風呂に入ってこよう。
涼もそのうち目覚めるかもしれないという甘い期待を抱いていた。
****
風呂から出たら起こそうか。それとも自然に起きてくれるか。
このままじゃ涼の寝込みを襲ってしまいそうだ。
風呂場で俺は悶々と格闘していた。
いい歳をしてしょうもないと思うが、あんな可愛い無防備な寝顔を見せられたら男として我慢できるはずがない。
とりあえず……一度抜くべきか。抜いた方がいいよな。
乱暴な獣のように求めそうになっている自分をなんとか制御しようと必死だ。
はぁ……これはなんの拷問だ。
恋人がせっかく忙しい中会いに来てくれたのだから、眠っていても抱いてしまえばいい。そう鼓舞するが、そうもいかない気持ちも押してくる。
昨夜も遅くまで論文を書いていて寝不足のはずだ。
今朝は早朝からロケだったと聞いてる。少しでも寝かしてやりたい。
それが恋人としての優しさだろう?
結局、風呂から上がってドライヤーの大音量にも涼は起きなかった。
これは相当疲れて眠いのだろう。
なぁ……せめて…添い寝ぐらいしてもいいか。
涼をベッドに寝かし俺も寄り添うように横になり、そっと涼の背中に手をまわし、躰を絡めるように抱きしめた。
ロケのあとシャワーを事務所で浴びてきたようで、涼の髪の毛からはシャンプーのよい香りが漂ってきた。ヤバイ……その香りだけで、もう一度抜ける。
はぁ、本当に俺って奴は。こんな状態で眠れるのか。
「ん……」
寝惚けた涼の声にすら、反応してしまう。あどけない表情で俺の胸に顔を摺り寄せてくれる仕草が可愛すぎて、クラクラと眩暈がする。
「涼、どうしたらいい?」
「……」
「なぁ……抱いてもいいか」
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