重なる月

志生帆 海

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第2部 10章

番外編 安志×涼 「乾いた心」5

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 モデル事務所の中に足を踏み入れるのは初めてで、ついキョロキョロとしてしまう。見渡せば、壁一面にキラキラな女の子のポスターがずらりと貼ってある。

 えっと……サオリはどの子なのか。女性の水着姿の脚とか胸の谷間とかずらりと並んでいるが、眼中にないとはこのことを言うのか。大きな感動も何も起きない。

 もう俺……涼一筋なんだ。そのことを確信した。

「おぉ、鷹野久しぶりだな!どうだ美女のお出迎えは」

「山田さん! お元気でしたか。転職先は随分と華やかですね。えっと……目のやり場に困りますよ」

「ははっ相変わらずだな。今日は無理言って悪かったな。うちの姫のご所望に適うイケメンボディガードが見当たらなくてな。そこにお前が今日付けで部署移動して来たって聞いて、適任だと思ったわけさ」

「はぁ、でも俺、別にイケメンじゃないですけど?いいんですか。そんなハッタリ」

「おーそうか? まぁモデルのようにはいかんが、ガタイもいいし、誠実そうなところがウリだろう」

「はぁ」

「ちょうどサオリがロケから戻ってきたようだ。挨拶させるから待っていてくれ」

「はい」

 いよいよ御対面か。

 ドアが開くと、色白で栗色のロングヘアの女の子が微笑みながら入って来た。細面の顔に黒目がちな大きな目、桜貝のような唇は艶やかで、まさに雑誌から飛び出してきたような華やかな九頭身の美女だった。

 顔、小さい!

 美少年の涼を見慣れているから、ちょっとやそっとじゃ動じないはずだったが、確かにすごく可愛い女の子だった。

「はじめまして! こちらがサオリのボディガードさん?」
「そうだよ。お前専属のボディガードの鷹野くんだ」

 あまりの可愛さについ見惚れてしまったことが恥ずかしくなった。そして心の中で、涼ごめんっと謝った。

 もちろん涼と比べる対象でもないのだが、ただ素直に可愛さに感動しただけなんだ。それ以上の感情はもちろん沸かない。信じてくれ!ともう一度謝った。

「鷹野安志です。よろしくお願いします」
「わぁ~サオリのリク通りカッコイイボディガードさんね~山田さんありがとう!」
「いい男だろ?それにまだ独身だぜ」

 ちょっ……それ、なんか余計な情報だ。

「やった! 鷹野さん、下でお茶でもしませんか。サオリ今日は早起きして仕事終わらせたから、午後まで時間あるから」

「おお、鷹野、姫からのお誘いだ。行って来い、クライアントと親睦をしっかり深めて来い」

「え?いや……そんな、俺なんかといたらサオリさんにご迷惑が……」

「社内の喫茶室だから問題ないよ」

「はぁ」


****

 そんな謎の後押しを受けて、俺は今何故かとびっきり可愛い女の子と向かい合わせで、コーヒーを飲んでいる。

「鷹野さんって、背高いですね。身長どの位あるんですか」
「……184cm程ですかね」
「わぁすごい!あの、何かスポーツとか、やっていたんですか」
「高校まで野球を」
「野球! サオリも観るの大好きなの。お兄ちゃんがずっとやっていたから」
「そうなんですね」

 しかし久しぶりに女の子と面と向かってしゃべっているような気がする。

 上手いこと会話が続かない。それにしてもこの子どこかで見たような……この横顔どこかで。
 
 モヤモヤとした記憶の糸を手繰り寄せると、ふと彼女の華奢な腕に目がとまった。

「あっ!その時計って」

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