重なる月

志生帆 海

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第2部 10章

番外編 安志×涼 「乾いた心」3

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 課長の運転する車で、依頼先へ向かった。

「課長。どこへ向かっているのですか」
「おおモデル事務所だよ。お前をボディガードに指名してきたから」
「なんで俺を?」
「さぁ分からん」

 そこまで聞いて、モデル事務所という言葉に心が躍った。もしかして俺を指名してくるモデルなんて……思い当たるのはただ一人。

 俺の恋人の涼しかいない。

 もちろん俺達が恋仲なのは、洋たち以外誰も知らないことだから、逸る気持ちを押し隠し、こっそり胸を高鳴らしていた。

 道路の表示を見れば、車は順調に渋谷方面に向かっている。やはりそうなのか、涼の事務所は恵比寿にあるからいよいよ濃厚だ。

 もしも涼のボディガードが出来たら、そんな嬉しいことはない。仕事中一緒にいられるのだから最高だ。

 涼のことを護れるなんて、本望だ。

 ところが車は恵比寿を通過してしまい、中目黒の瀟洒な白いオフィスビルの前で停車した。

「えっここですか」
「あぁモデルのサオリって知っているだろう? 」
「サオリ?」
「馬鹿、知らないのか」

 いや……だってモデルっていったら涼のことしか興味ないし。

「だって俺、面識ないですよ。そのサオリさんって子」

「あーほんとお前って奴は呑気だな。サオリは有名なモデルだ。なんでお前のこと知ってんだよ。知っているのは元社員の山田だよ。お前もあいつの下にいたことあるだろ」

「あー課長代理だった山田さんですか! そういえば中途退職されましたよね」

「そっ!今はそのサオリって子のマネージャーなんだよ」

「はぁ……」

「だから山田さんの推薦でお前ってわけ。サオリが今度サイン会を渋谷の雑踏でするから必要なんだってさ」

「あーそういうことですか」

 やっと合点した。

「まぁな、今回はボディガードまでイケメンがご希望だとよ」
「イケメンって、もしかして俺がですか」
「はははっそう思っておけ!」

 うーむ、期待した分がっかりした。いや待てよ。そのサイン会っていつなんだ?

「サイン会の日取りはいつですか」
「今度の日曜日だ」

 うっ、しかも最悪だ。

 せっかく涼と約束していたのに。鎌倉で花見の予定も、月影寺の庭でのデートも何もかも飛んだってことか。

 あー参ったな、涼に何て言おう。思わず頭を抱えてしまうと、課長に頭をペシッと叩かれた。

「ほらっ行くぞ! 何やってんだ」



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