重なる月

志生帆 海

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第2部 10章

番外編 安志×涼 「乾いた心」1

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 喉が渇いて目が覚めた。時計に手を伸ばせば、まだ夜中の三時だ。

 枕元に置いておいたペットボトルの水をゴクリと口に含んだ。

 それにしても最近変な時間に目が覚めるな。

 春先はまだ朝晩は冷え込むので、毛布が手放せない。毛足の長いふんわりとした毛布を抱きしめるように、もう一度眠る努力をする。

 が、眠れない。

 くそぉ!

 ガバッと飛び起きて、スマホを握りしめた。

 こんな時に決まって眺めるのは、涼の写真。といってもあのクリスマスの日に見つけた時計の広告のトリミング写真だ。

 俺と涼は、ふたりきりの写真を撮らなくなった。

 涼の人気が出れば出る程、俺達は周囲に気を遣うようになった。

 万が一のことがあってからでは、遅いのだ。

 不測の事態を想定して、冷静になってしまうのは大人のつまらない言い訳か。

 いや俺の方が十歳も年上なのだから、涼を守らねばならない。

 でも会いたい。

 もう前回から何日会ってないんだか。

 クリスマスのすれ違い、そこからの抱き合ったあの熱が忘れられないよ。

 結局会えば燃え上がるように求め熱しても、会えない時間はあっという間に俺達を冷ましてしまう。

 いやそうじゃない。涼への想いが冷めたわけじゃなくて……あぁもう!

 俺はわしゃわしゃと髪をかきむしった。

 とにかく俺は乾いている。飢えている。
 喉だけじゃなく、心もカラカラだ。

 時計の広告がブレイクして以来、涼の人気が出れば出る程、外で会うのが困難になり、二人きりで会える時間がめっきり減った。

 クリスマスから月一で会えたらいい方か。

 ゴロンとベッドに仰向けになり、身体を大の字に開き深呼吸する。

 会いたいのに、会えないもどかしさ。
 触れたいのに、触れられないもどかしさ。

 涼不足で、もう干乾びそうだ。

 はぁ……まさかこの歳でこんなに思い煩い苦しむとは、参ったぜ。

………

 4月1日……人事異動

 俺はこれまで何度か助っ人した部署に異動となった。

 ダンボールを抱えたまま、課長の席の前で挨拶をした。

「鷹野安志です。本日からお世話になります!」
「おー鷹野か。待っていたぞ! 早速ご指名の仕事だ。付いて来い」
「えっ指名って?」

 なんだよ、そのホストみたいな言い方とカチンと来たが、もちろん顔には出さない。

「喜べ、クライアントから名指しだぞ!」

 慌てて荷物を机に置いて上着を羽織りながら、スタスタとエレベーターホールへ移動する課長の後を追った。

 そうここは……要人や芸能人のボディガードを専門とする部署だった。











****


今日から本編は一休みで番外編になります。
ボディガードもので、安志のカッコいいところを沢山書きたいと思っています。よろしくお願いします。


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