重なる月

志生帆 海

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第2部 10章

引き継ぐということ 32

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R18

「翠……」

 小さく呼ばれ、はっとする。

 気が付くと流が小瓶から潤滑剤を指先に掬い取り、僕と流が繋がる場所へたっぷりと塗ってくれていた。

 ドロリとした感触を体の奥に感じ、期待と不安が交差する。

 いよいよだ。

 宮崎で流に抱かれた記憶が舞い戻って来た。

 僕の躰は流を覚えていて自然に躰が求め出す。

「いいか」

 この後に及んで変なことを聞くと、朦朧とした意識の中で思ってしまった。

 口元が少し綻んでしまったのか、すかさず流に問いただされた。

「余裕だな、翠」

 指先をぐっと一気に押し進められ「あうっ」と喉を反らせば、長くて節のある指先の刺激に、どんどん熱が高まっていくのを感じた。

 この指先で生み出されるものを知っている。

 陶芸の茶碗は緩やかなカーブを、繊細な七宝焼きは深い色合いを、流がよく翠の色だというお抹茶の味わいも……僕は全て愛している。

 頭の中で流が僕のために作ってくれたものの残像がちらつく中、増やされていく指先の刺激に悶えていた。

 こんな風に躰に相手を受け入れる側になるのは、男としての矜持があるから戸惑いもある。だが、こんなにも嬉しいことだなんて、僕は知らなかった。

 今の僕は、流の愛を己の躰で受け止めることに喜びを感じ始めている。

「あっ……んっ……」

 ここは月影寺。

 禁忌な行為を興じる場所ではないと理解していても、愛する人を求める気持ちはとめられない。

 せめて声だけは堪えたいと思うが、長く持ちそうもない。

 唇を塞ぐ手は流によって剥がされ、茶室の畳へと縫い留められてしまう。

 少しの不安から自然とずり上がっていく腰も抱きかかえられ、漏れてしまう声は時折、流が唇で直に塞いでくれる。

「そろそろいいか」

 僕の汗ばんだ背中に流が触れながら、耳元で話しかけて来る。

 散々指先だけで焦らされ、その言葉を待ち望んでいたような気がして羞恥に震える。

「翠……どうだ」

 もう一度促されれば……言わざるを得えない。

 飾らない言葉を。

「もう充分だ。早く……」
「言ってくれよ。その先を」
「……」
「ほらっ」

 流の指先で唇を撫でられ、堪らなくなった。

 僕は……もう駄目だ。本当に淫らになってしまった。

 この口で強請るようなことを……言うのか。

「ほ……し………」

 欲しい、そう言うつもりだった。
 その瞬間、僕の言葉を流が吸い取ってしまった。

 何故?

「いいんだ、翠はそんな言葉を言わなくて、ごめん。意地悪したよな。こんな風に躰を開いてくれるだけで信じられない奇跡なのに、俺は欲張りだ」

 後悔したような表情に心打たれる。
 艶めいた流の表情に期待が高まってしまう。

「流……僕だって流が欲しい」

今度は、はっきりそう告げることが出来た。

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