重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
749 / 1,657
第2部 10章

引き継ぐということ 29

しおりを挟む
「洋さん? 洋さんっ」

 薙くんが必死に呼ぶ声が、随分遠くに聴こえる。

「なっ……」

 必死に声を出そうとするが、喉にな何かが詰まったように息苦しくて声が出ない。足元へと血が下がり頭がくらくらとして、ガクガクと震える躰が制御できない。目を開けても閉じても、そこには闇しかない。

 薙くんが俺の腕に触れた時、急に怖くなって跳ね飛ばしてしまった。

「やっ!」

 暫くして再び人の気配がして、闇雲に暴れたような気がする。

 次の瞬間、躰がふわりと宙に浮いた。

 この匂いは……丈の香りだ。

 途端にほっとして……意識をカクンと失ってしまった。

****

 目が覚めると白く明るい世界で、和室の丸い電灯が白々しく頭上で光っていた。

「んっ」
「洋、大丈夫か」

 枕元に座っていたのは、俺の恋人の丈だ。

「丈……」

 ほっとした。手を伸ばせばちゃんと握り返してくれ、俺の上半身を起こしてくれた。俺は丈の肩口に頭を乗せ、縋るように抱きついてしまった。

「どうした? もう大丈夫か。嵐になってきたので早めに帰宅して良かったよ。停電していたな」
「俺……どうして」
「玄関先で薙くんと会ったよ。彼が洋が倒れていることを教えてくれてな……きっと誰か助けを呼ぼうと必死だったんだな、泣きそうな必死な眼をしていたよ」
「そうだったのか、薙くんはどこ? 」

 寝かされていた和室には見当たらない。

「あぁ腹ペコらしくて、とりあえず作ってあったおにぎりを食べている」
「そうなんだ……育ちざかりだもんな」
「私も久しぶりに洋のおにぎりが食べれるなんて、嬉しいよ」

 丈が俺の背中を擦りながら優しく話しかけてくれる。すっかり気持ちも吐き気も、落ち着いていた。

「何かが引き金でパニックを起こすことがあるんだ。洋は暗闇は駄目だな。リフォームでは照明にも拘ったから大丈夫だ。その点は安心しろ。」

「丈の匂い……とにかく落ち着くよ。それにしても、こんな風になったのは初めてで自分でも驚いた。もう終わった忘れたことなのに、自分でも分からない」

「潜在的なものだ。もう気にするな」
「うん……ありがとう。あっそうだ」
「なんだ?」
「あの……トンカツ揚げてくれる?」

 キョトンとした丈の顔に微笑み返すと、丈も破顔した。

「やれやれ、私は洋を少し甘やかしすぎたか。薙くんの手前、もう少し料理を覚えるといい」

****

 離れの茶室……ここは翠と愛を交歓する場所だ。

 近くで轟く雷の音が一際大きく響いた後に、茶室の脇の小さな灯りがすべて消えてしまった。

 停電か。

 だがすでにもう俺達は暗黒の世界にいるのだから、構わない。

 ただ求めるだけ、与えるだけ。

 翠の胸に吸い付き、舌で尖りを嬲るように転がすと、翠の薄い胸が上下し、我慢できないといった風情の喘ぎ声が漏れて来た。

 下肢を手をやれば、辛そうな程、ぎちぎちにたかまっていた。そこを持ち上げ、指で輪をつくり擦るように扱いてやる。

「ん…ん、流、もう駄目だ。出てしまう。手を退けて」
「もう少しで出そうか」

 翠が涙目でコクコクと頷く。

 あぁなんて可愛い顔をするんだよ。

 俺は手は放し、そのまま屹立を咥えこんでやった。

「んあっ!! なっ……なんで」
「離してやったろう」
「違う……そうじゃないっ! あぁっ……やめろ! 駄目だ」





しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...