747 / 1,657
第2部 10章
引き継ぐということ 27
しおりを挟む
相変わらず激しい落雷が続いていた。もう明日から九月になるので、夏の終わりを告げる嵐なのか。
何度も玄関の方へ耳を澄ますが、翠さんと流さんが帰宅する気配はない。
この雨だ。葬儀場でそのまま雨宿りでもしているのか。
それにしたって電話くらいあってもいいのに。
もうっ!夕食のトンカツどうするんだよ。
ジジ…ジ……
変な音と共に、先ほどから電灯が付いたり消えたりするのは、落雷の影響か。とにかくおにぎりだけは作ってしまわないと、作業する手を速めることにした。
「さてと用意できたよ。握ろうか」
厚焼き玉子と冷蔵庫に入っていた鮭、それから梅干しや昆布などの具を食卓に並べた。すると薙くんは皿の上の卵焼きを摘まんで、ひょいと口に頬張った。
「あっ!つまみ食いするな」
「へぇ甘くておいしいじゃん」
「……ありがとう。これは母のレシピなんだ」
「……そっか」
懐かしい。高校の頃、安志のお母さんに教えてもらった具が二つ入ったおにぎりの作り方。レシピは母のものだった。母の味が朧げになり忘れつつあった俺にとって、貴重なものだった。
「よしっ!じゃあ作るぞ」
薙くんが張り切っている様子がなんだか可愛くて、おにぎりを早く作るという訳わからない競争をすることになった。俺が作るのは、具が二つ入ったおにぎりだ。卵焼きと鮭の組み合わせが懐かしい。
「なんで具を二つ?」
「これも母のレシピ」
「へぇ……」
薙くんは、もうそれ以上何も聞かずに無言でおにぎりを握り出した。
俺も集中して握ることにした。
****
そうか、翠も俺と同じことを考えていてくれたのか。
「あぁここなら大丈夫だ。誰も来ない」
そう耳元で告げ、翠を安心させる。
「……だが、本当に大丈夫だろうか」
「この雨だ。どんな声も音も……雨が全部かき消してくれる」
翠の顔がかっと赤く染まる。
羞恥に染まっていく翠の顔は官能的で参るよ。
もう待てない。
俺達は求めている。お互いに求め合っている。
その気持ちを伝えたくて、ぐっと顔を寄せ、まだ理性を捨てきれない翠に思いっきり口づける。
部屋の物陰での軽いキスなんかでは、足りるはずがない。
まだ濡れている髪の中に手を潜らせて、梳くように撫でてやる。
翠は静かに目を閉じて、すべてを受け入れてくれる。
長い睫毛だ。いつも翠の寝顔を見ていたから知っている。この漆黒の長い睫毛は、閉じれば美しい顔に影をつくる。
後頭部を抱き寄せるようにして、合わせた唇を深めていく。
「ふっ……あ…」
翠の手が所在なさげにしているので、恋人繋ぎで畳に縫い留めてやる。
翠の白衣の胸へと手を動かし、袷から素肌の胸へと手を滑らしていく。久しぶりに触れるそこは、まだ触ってもいないのに期待に満ちるように尖り出していた。だから指の腹で尖った先端をすっと撫でてみた。
「あっ……んっ!」
一際大きな喘ぐ声が、俺を突き刺す。
おいっ、その声はまずい。
制御出来なくなる!
何度も玄関の方へ耳を澄ますが、翠さんと流さんが帰宅する気配はない。
この雨だ。葬儀場でそのまま雨宿りでもしているのか。
それにしたって電話くらいあってもいいのに。
もうっ!夕食のトンカツどうするんだよ。
ジジ…ジ……
変な音と共に、先ほどから電灯が付いたり消えたりするのは、落雷の影響か。とにかくおにぎりだけは作ってしまわないと、作業する手を速めることにした。
「さてと用意できたよ。握ろうか」
厚焼き玉子と冷蔵庫に入っていた鮭、それから梅干しや昆布などの具を食卓に並べた。すると薙くんは皿の上の卵焼きを摘まんで、ひょいと口に頬張った。
「あっ!つまみ食いするな」
「へぇ甘くておいしいじゃん」
「……ありがとう。これは母のレシピなんだ」
「……そっか」
懐かしい。高校の頃、安志のお母さんに教えてもらった具が二つ入ったおにぎりの作り方。レシピは母のものだった。母の味が朧げになり忘れつつあった俺にとって、貴重なものだった。
「よしっ!じゃあ作るぞ」
薙くんが張り切っている様子がなんだか可愛くて、おにぎりを早く作るという訳わからない競争をすることになった。俺が作るのは、具が二つ入ったおにぎりだ。卵焼きと鮭の組み合わせが懐かしい。
「なんで具を二つ?」
「これも母のレシピ」
「へぇ……」
薙くんは、もうそれ以上何も聞かずに無言でおにぎりを握り出した。
俺も集中して握ることにした。
****
そうか、翠も俺と同じことを考えていてくれたのか。
「あぁここなら大丈夫だ。誰も来ない」
そう耳元で告げ、翠を安心させる。
「……だが、本当に大丈夫だろうか」
「この雨だ。どんな声も音も……雨が全部かき消してくれる」
翠の顔がかっと赤く染まる。
羞恥に染まっていく翠の顔は官能的で参るよ。
もう待てない。
俺達は求めている。お互いに求め合っている。
その気持ちを伝えたくて、ぐっと顔を寄せ、まだ理性を捨てきれない翠に思いっきり口づける。
部屋の物陰での軽いキスなんかでは、足りるはずがない。
まだ濡れている髪の中に手を潜らせて、梳くように撫でてやる。
翠は静かに目を閉じて、すべてを受け入れてくれる。
長い睫毛だ。いつも翠の寝顔を見ていたから知っている。この漆黒の長い睫毛は、閉じれば美しい顔に影をつくる。
後頭部を抱き寄せるようにして、合わせた唇を深めていく。
「ふっ……あ…」
翠の手が所在なさげにしているので、恋人繋ぎで畳に縫い留めてやる。
翠の白衣の胸へと手を動かし、袷から素肌の胸へと手を滑らしていく。久しぶりに触れるそこは、まだ触ってもいないのに期待に満ちるように尖り出していた。だから指の腹で尖った先端をすっと撫でてみた。
「あっ……んっ!」
一際大きな喘ぐ声が、俺を突き刺す。
おいっ、その声はまずい。
制御出来なくなる!
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる