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第2部 10章
引き継ぐということ 25
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「雨やまないね」
落雷もひっきりなしで、雨が滝のように降っている。
一体いつ止むのだろう。もう洗濯物も畳み終わり五時を過ぎてしまった。
縁側のガラス窓に雨が叩きつけていくのを、薙くんとふたりでぼんやりと眺めていた。すると、隣で薙くんのお腹がぐぅ……と鳴ったのが聴こえてしまった。
あーそうだよな。
お腹空くよな。
成長期の男の子だもんな。
「わっどうしよう。もうこんな時間だな」
「なぁ流石にそろそろさ、夕飯作った方がいいんじゃないのか」
「……そうだね」
困ったな……流さんは確か今日はトンカツを作るって言っていたような。
揚げ物なんて、俺にはハードル高すぎる。
こんな時丈がいれば、とつい縋ってしまう。
俺は昔から不器用だ。
母が亡くなった後は、ほとんど買って来たもので済ましていた。そして丈と暮らし始めてからは、丈がいつも食事を作ってくれた。テラスハウスで最初に丈から出された野菜スープの味に、実はしみじみと感動していた。
そんな俺が作れるのは、せいぜいおにぎりくらいだ。
そう言えば、ソウルで最後に皆に作ってあげたおにぎりのことが懐かしいな。
Kaiも優也さんも上手くやっているかな。結局優也さんは日本に残り、Kaiはソウルへ戻ったそうだ。遠距離恋愛になったらしいので少し心配だ。
寂しがり屋の優也さんが耐えられるのか。でもマメなKaiのことだから、ちゃんと絆を深めていくことが出来るのだろう。
またあの二人に会いたい。そうだ……優也さんは日本に住んでいるのだから連絡をしてみようかな。
「洋さん、何ぼーっとしてんの? 手伝ってやるから台所に行こうぜ。俺さ、マジ腹減った」
「うっ……分かった。手伝ってくれるのなら頑張ってみるよ」
****
茶室の背の低い門をくぐり中に入った。ここは寺の庭でも一番奥深いところにあるので人気はない。この茶室を洋くんの結婚式で使ったのを思い出すな。
あの日の茶室は洋くんに縁がある人たちの愛で溢れていた。
まさかここを、こんな用途で使う日が来るなんてな。
僕たちはもう濡れていた。
雨のせいだけじゃない。
心も躰ももっともっと……濡れたくて、しょうがなかった。
茶室に入るなり、流が僕を抱きしめ、僕も流を抱きしめた。
久しぶりの抱擁だ。
しっかり、もっとしっかりと抱きしめて欲しい。
雨で濡れた着物が重たく畳にシミを作っていく。だがもうそんなことは気にならない程、互いに求め合っていた。
流が僕の顎を掴んでグイっと上を向かせ、そのまま口づけしてきた。激しく焦るような獰猛な勢いに一瞬怯んだが、薄く唇を開いて流を受け入れた。
僕も同じ気持ちだと、伝えたい。
「翠、抱いていいか……ここで」
流の切羽詰まったような声が低く響く。
僕たちには時間があまりないことは、分かっていた。
それでも流に触れたかった。
流も我慢出来ないといった熱い目で、僕を見つめていた。
落雷もひっきりなしで、雨が滝のように降っている。
一体いつ止むのだろう。もう洗濯物も畳み終わり五時を過ぎてしまった。
縁側のガラス窓に雨が叩きつけていくのを、薙くんとふたりでぼんやりと眺めていた。すると、隣で薙くんのお腹がぐぅ……と鳴ったのが聴こえてしまった。
あーそうだよな。
お腹空くよな。
成長期の男の子だもんな。
「わっどうしよう。もうこんな時間だな」
「なぁ流石にそろそろさ、夕飯作った方がいいんじゃないのか」
「……そうだね」
困ったな……流さんは確か今日はトンカツを作るって言っていたような。
揚げ物なんて、俺にはハードル高すぎる。
こんな時丈がいれば、とつい縋ってしまう。
俺は昔から不器用だ。
母が亡くなった後は、ほとんど買って来たもので済ましていた。そして丈と暮らし始めてからは、丈がいつも食事を作ってくれた。テラスハウスで最初に丈から出された野菜スープの味に、実はしみじみと感動していた。
そんな俺が作れるのは、せいぜいおにぎりくらいだ。
そう言えば、ソウルで最後に皆に作ってあげたおにぎりのことが懐かしいな。
Kaiも優也さんも上手くやっているかな。結局優也さんは日本に残り、Kaiはソウルへ戻ったそうだ。遠距離恋愛になったらしいので少し心配だ。
寂しがり屋の優也さんが耐えられるのか。でもマメなKaiのことだから、ちゃんと絆を深めていくことが出来るのだろう。
またあの二人に会いたい。そうだ……優也さんは日本に住んでいるのだから連絡をしてみようかな。
「洋さん、何ぼーっとしてんの? 手伝ってやるから台所に行こうぜ。俺さ、マジ腹減った」
「うっ……分かった。手伝ってくれるのなら頑張ってみるよ」
****
茶室の背の低い門をくぐり中に入った。ここは寺の庭でも一番奥深いところにあるので人気はない。この茶室を洋くんの結婚式で使ったのを思い出すな。
あの日の茶室は洋くんに縁がある人たちの愛で溢れていた。
まさかここを、こんな用途で使う日が来るなんてな。
僕たちはもう濡れていた。
雨のせいだけじゃない。
心も躰ももっともっと……濡れたくて、しょうがなかった。
茶室に入るなり、流が僕を抱きしめ、僕も流を抱きしめた。
久しぶりの抱擁だ。
しっかり、もっとしっかりと抱きしめて欲しい。
雨で濡れた着物が重たく畳にシミを作っていく。だがもうそんなことは気にならない程、互いに求め合っていた。
流が僕の顎を掴んでグイっと上を向かせ、そのまま口づけしてきた。激しく焦るような獰猛な勢いに一瞬怯んだが、薄く唇を開いて流を受け入れた。
僕も同じ気持ちだと、伝えたい。
「翠、抱いていいか……ここで」
流の切羽詰まったような声が低く響く。
僕たちには時間があまりないことは、分かっていた。
それでも流に触れたかった。
流も我慢出来ないといった熱い目で、僕を見つめていた。
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