744 / 1,657
第2部 10章
引き継ぐということ 24
しおりを挟む
縁側に座って白い褌と格闘している薙くんの姿が、なんだか可笑しかった。そうこうしている内に空はすっかり暗くなり雷が轟きだした。ぽつり……またポツリと大粒の雨が渇いた土を濡らす。
「薙くん、雨が降って来たよ。洗濯物を部屋まで運ぶのまで手伝ってくれる?」
「いいよ」
庭先に置きっぱなしの洗濯籠を和室に運んでもらった。そのまま俺が畳に座りながら洗濯物を畳み出すと、薙くんも無言で手伝ってくれたので驚いた。
「手伝ってくれるの?」
「あぁ、だってさ洋さん不器用そうだもん。ひとりじゃ時間かかるだろ」
「うっ……」
確かに図星だった。俺は何でこう手際が悪いのか、自分でも嫌になるほど洗濯物一つ畳むのにも時間がかかる。隣で薙くんは器用に綺麗にどんどん畳み上げていくのに。
窓の外は、あっという間に土砂降りだ。
雷がピカッと光り雷鳴が駆け巡る。
俺は昔から何故だか雷だけは怖くなかった。
いつも雷に助けられたせいか、遠い昔から雷は俺の味方だ。
何度も助けられたから。
でも薙くんは違うようで、大きな落雷の度に肩がびくっと震えていた。
「あの……もしかして怖い? 大丈夫? 」
「うるさいな! 怖いはずないだろっ!」
突っぱねているが表情を見れば分かる。少し頼りなさそうな憂いた顔だ。あぁこんな表情もするのか。本当に君はお父さんに似ているね。
「この土砂降りじゃ、お葬式が終わっても暫く翠さんたち戻って来れないかも」
「えー!じゃあ夕飯はどうするんだよぉ」
「うっ」
まずいな。流さんがいないと俺……何も出来ないんだった。
頼みの綱の丈もいないし、どうしよう。
****
「翠、こっちだ」
寺の山門まで、流に腕を掴まれ引っ張られるように走った。僕たちは傘を持っていなかったので、もうこの時点で全身びしょ濡れだった。
山門の階段を駆け上がり、そのまま庭を突っ切って寺の母屋に戻るのかと思いきや、流はそこから突然左折した。
「流? なんで……母屋に戻らないのか」
「こっちだ」
「え……そっちには茶室しかないのに。あっ……」
茶室で雨宿りするつもりなのか。
あそこは流が僕のために建ててくれた場所。僕が疲れていると、いつも流はあそこに連れて行って御抹茶を点ててくれる。
深い濃い緑色の水面が揺れ、立ち上る抹茶の香りを嗅ぐ。
流が僕のために設けてくれる時間。
一服すると疲れが取れて行った。
降りしきる雨で視界がかなり霞むのに、僕の目には茶室だけは、はっきりと見えていた。
「翠、少し寄り道していこう」
「……そうしよう」
僕たちには寄り道が必要だ。
僕たちはお互いに飢えていた。
「薙くん、雨が降って来たよ。洗濯物を部屋まで運ぶのまで手伝ってくれる?」
「いいよ」
庭先に置きっぱなしの洗濯籠を和室に運んでもらった。そのまま俺が畳に座りながら洗濯物を畳み出すと、薙くんも無言で手伝ってくれたので驚いた。
「手伝ってくれるの?」
「あぁ、だってさ洋さん不器用そうだもん。ひとりじゃ時間かかるだろ」
「うっ……」
確かに図星だった。俺は何でこう手際が悪いのか、自分でも嫌になるほど洗濯物一つ畳むのにも時間がかかる。隣で薙くんは器用に綺麗にどんどん畳み上げていくのに。
窓の外は、あっという間に土砂降りだ。
雷がピカッと光り雷鳴が駆け巡る。
俺は昔から何故だか雷だけは怖くなかった。
いつも雷に助けられたせいか、遠い昔から雷は俺の味方だ。
何度も助けられたから。
でも薙くんは違うようで、大きな落雷の度に肩がびくっと震えていた。
「あの……もしかして怖い? 大丈夫? 」
「うるさいな! 怖いはずないだろっ!」
突っぱねているが表情を見れば分かる。少し頼りなさそうな憂いた顔だ。あぁこんな表情もするのか。本当に君はお父さんに似ているね。
「この土砂降りじゃ、お葬式が終わっても暫く翠さんたち戻って来れないかも」
「えー!じゃあ夕飯はどうするんだよぉ」
「うっ」
まずいな。流さんがいないと俺……何も出来ないんだった。
頼みの綱の丈もいないし、どうしよう。
****
「翠、こっちだ」
寺の山門まで、流に腕を掴まれ引っ張られるように走った。僕たちは傘を持っていなかったので、もうこの時点で全身びしょ濡れだった。
山門の階段を駆け上がり、そのまま庭を突っ切って寺の母屋に戻るのかと思いきや、流はそこから突然左折した。
「流? なんで……母屋に戻らないのか」
「こっちだ」
「え……そっちには茶室しかないのに。あっ……」
茶室で雨宿りするつもりなのか。
あそこは流が僕のために建ててくれた場所。僕が疲れていると、いつも流はあそこに連れて行って御抹茶を点ててくれる。
深い濃い緑色の水面が揺れ、立ち上る抹茶の香りを嗅ぐ。
流が僕のために設けてくれる時間。
一服すると疲れが取れて行った。
降りしきる雨で視界がかなり霞むのに、僕の目には茶室だけは、はっきりと見えていた。
「翠、少し寄り道していこう」
「……そうしよう」
僕たちには寄り道が必要だ。
僕たちはお互いに飢えていた。
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる